プ女子の素質

 翌日、バイトの前に、いつものように『Blue Note』に立ち寄った。みゆきを格闘技イベントに誘うためだ。


 この日は、俺以外にも2人のお客さんがいた。それでも、みゆきは気にすることなく、俺に話しかけてくれた。


「修くん。今日も、いつものですか?」

「あ、うん。その前にちょっといいかな?

「はい、何ですか??」


 みゆきは、何事だろうと首をかしげている。この仕草は、可愛らしくて大好きだ。


「実は、今度のゴールデンウィークに、チアキ先輩の試合があるんだよ。良かったら、一緒に行かない?」

「試合って、格闘技の?」


 そう言いながら、シュシュとパンチを繰り出す真似をしている。


「そうそう。チアキ先輩からチケットをもらったんだよ。試合が終わった、みゆきにも会ってみたいって」

「エェッ。私がチアキ先輩に?」


 みゆきの頰が赤く染まった。意外のみゆきは照れ屋さんだ。


「バイトの休憩時間とかに、いつもみゆきの話をしてるからかなぁ」

「エェッ。修くん、何を話してるんですか?」

「あはは。普通の話だよ。弁当が美味しいとかね」


 チアキ先輩から言われた、サプライズ告白の話は、内緒にしておいた。


「みゆきは、格闘技とか好きじゃないかな?」

「そんなことないですよ。昔、お父さんにプロレスを観に連れて行ってもらったことがあります」

「へぇ、プロレス。意外だね」


 今の時代なら、『プ女子』ということになるのだろう。


「お父さんが、プロレスを大好きだったんですよ。でも、観に行ったら、すごく面白かったです」

「そうなんだね」


 みゆきは、『プ女子』の才能があるのかもしれない。もしかしたら、格闘技にもハマるかもしれない。


「チアキ先輩の試合、楽しみにしてますね」

「うん。5月4日だからね」

「はぁい」


 みゆきは、まだ少し顔が赤い。心なしか、息づかいも荒い気がする。

 俺は心配になって、みゆきのおでこに手を当てた。


「みゆき、熱があるじゃん」

「あはは、そうですか?何かフラフラすると思ってたんですよね」

「休まないとダメだよ。お母さんと変わってもらいなよ」

「じゃあ、修くんのお弁当を作ってから……」

「今日は、お弁当はいいから。早く休んで、早く元気になってよ」


 みゆきは、少し不満そうだったけど、諦めたようにカウンターの向こうに行って、どこかに電話をかけはじめた。

 ほんわかしていて、天然気味なのに、頑固な一面もある。それが、みゆきだ。


 今は、1日も早く、元気なみゆきに戻ることを祈るばかりだ。

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