未来を見通す力
「わかったよ、名刺は捨てないでおくよ」
「ありがとうございまーすぅ」
「確かに、鈴木が言う通り、未来が明るいかどうかは、わからないんだよな……鈴木にはわかるのか?」
「いえいえ、死神にはそんな力はございませーん」
ここ最近、少し良いことが続いてだけど、別に明るい未来が約束された訳ではない。急に浮かれていた自分が恥ずかしくなった。
「未来かぁ……なぁ、未来が見える力みたいなのはないのか?」
「ございますよぉ。『未来を見通す力』と申します」
「あるのかよ!すげぇなぁ」
「でも、あまりオススメは致しかねまーすぅ」
珍しく、鈴木の声のトーンが少し下がった。
「この力は強力でございますから、それなりに高うなっておりまーすぅ。ただあまり幸せにはなれないようでございまーすぅ」
「エッ、何で?」
「以前、私のお客様でお2人がこの力をご利用なさいましたが、どちらのお客様も悲惨なものでしたぁ……」
鈴木は忌まわし過去を振り払うかのように首を振っている。
「お1人は、最愛の方の死を見たようでございまーすぅ。ただ延命などは私どもの力ではできませんので、ただ絶望の日々を過ごされたようでございまーすぅ」
語尾を伸ばして、間の抜けた話し方だけど、今の鈴木の話し方は妙な迫力がある。
気がつくと、俺の口の中は、カラカラに乾いていた。
「もう1人は、人に騙される未来を見たようでございまーすぅ。それからというもの、猜疑心に苛まれ、人間不信に陥り、それはそれは孤独な人生を歩まれましたぁ……」
追悼のつもりだろうか。鈴木はうつむきがちに頭を傾け、胸の前で手を組んでいた。
死神の追悼。まるで芸術家の作品のタイトルのようだ。
もし、みゆきが死ぬ未来を見たとしたら、俺は絶望するだろう。心が壊れてしまうかもしれない。
みゆきに裏切られる未来が見えたなら、もう誰も信じられないようになるだろう。
そう考えると、『未来を見通す力』と言うのは、強力だけど危険な能力だ。大量の余命を使ってまで、得る能力ではないと思う。
「ギャンブルには使えないのか?」
「そう考える方は、大変、多いようでございまーすぅ。でも、なかなか難しいようでございまーすぅ」
「そうなのか?」
「例えば、宝くじ。1等の当たり番号がわかっても、その番号を手に入れる術がございませーん。競馬などで大穴を狙っても、大金をかけてしまうとオッズが下がってしまいまーすぅ。もっとも、そんな大金を持っていないから、ギャンブルに使おうとするんでしょうけども……」
鈴木は、声を抑えて「クックック」と笑った。色々な笑い方をするんだなぁと感心した。
鈴木の会社のシステムがうまくできているのか、それとも世の中がそんなに甘くないのかわからないけど、うまい話はないということだ。
頭の中でぐるぐると考えていたら、何だか猛烈に眠くなってきた。そういえば、夜勤のバイトだったから、寝てなかった。
「呼び出しておいて悪いけど、そろそろ寝るよ」
「かしこまりましたぁ。並木様、ゆっくりお休みくださいませぇ」
鈴木の姿が消えるのを確認してから、俺はベッドに潜り込んだ。
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