元カノ
デートまでの間に、借りてきたDVDは全部観よう思っていた。毎日、1本ずつ観れば、日曜日までには、観終わる予定だった。
予定外だったのは、思いのほか、話が面白かったことだ。だから、徹夜をして、一気に観てしまった。
正直、剣とか魔法とかの話は苦手だった。だから、彼女から誘われた時、ヤバいと思った。
だけど、この作品は、とても面白い。
魔法世界の様子が、まるで実在するかのようにリアルに表現されている。ストーリーも、最後まで目が離せない展開で、ぐいぐいと引き込まれる。
これなら、彼女と映画に行っても大丈夫だと思う。
今まで、俺はまともに女性と付き合ったことはない。一度だけ、彼女と呼べるような女性がいたことはあるが、それも長くは続かなかった。
学生の頃、常に周囲を見下していた俺は、友達がいない学生生活を送っていた。高すぎるプライドが、壁を作っていたと言えば聞こえはいい。だけど、実際はそんなにカッコいいものではなかった。
「周りに馴染めない自分を認めたくないだけでしょ?」
俺にはっきりと言い切ったのは、クラス委員の女の子だった。
修学旅行の準備で、班に分かれる必要があった。だけど、友達がいない俺は、当然、1人。担任の提案で、クラス委員の彼女がいる班に入れてもらうことになったのだ。
もちろん、その事実を受け入れられない俺は、班の活動に非協力的だった。その時に、クラス委員の彼女から言われたのが、あのセリフだ。
最初は、「何だこいつ」と思った。生意気な女だと思った。だから、修学旅行では、班から離れて、1人で行動するつもりだった。
修学旅行当日。班行動の時間。俺は京都の街を気ままに散策するつもりだった。
そんな俺の考えを、彼女は見抜いていた。その上で、自分も班から離れて、俺に着いてきたのだ。
京都の街を歩いている間、彼女は何も言わなかった。ただ一言だけ、「お昼は蕎麦以外にしてね」と。彼女は、蕎麦アレルギーだったのだ。
宿に戻ると、俺たちは、担任にこっぴどく叱られた。優等生の彼女が叱られている姿は、はじめて見た。
宿の廊下に正座しながら、「楽しかったね」と言って、彼女は笑っていた。
それからは、何かにつけて、彼女と過ごす時間が増えていった。
大学受験に向けた予備校選びも、彼女と同じところにした。志望校も、彼女が希望している東京の大学にした。
面と向かって、告白はしていないけど、多分、付き合っていたんだと思う。
彼女と一緒にいると楽しかった。彼女も沢山、笑ってくれた。
だけど、終わりは突然にやって来た。
予備校の模試の結果が悪く、落ち込んでいた俺。彼女は、一生懸命に励まそうとしてくれていた。
ただ、その言葉が俺のプライドに障った。
「お前とは頭の出来が違うんだよ。もう、俺に構うなよ」
彼女は、涙を浮かべて、俺を見ていた。口を真一文字に結んで、何か言いたげだったが、そのまま走り去っていった。
それから、彼女は予備校をやめた。俺はまた、学校で1人になった。
その後のことは、何も知らない。多分、優秀な彼女のことだから、志望校に合格して、どこか良い企業に就職を決めているだろう。
この広い東京で、偶然、彼女と再会するなんてラッキーは、この4年間にはなかった。
もし、今、彼女と再会したら、俺は何て言うんだろう。そんなことを、考えながら、俺はベッドに横になった。
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