この世のすべてを思い通りにする力
『この世のすべてを思い通りにする力』のメニューは、他のメニューとは違って、禍々しい光を放っている。雰囲気的には、よくホームページの上の方に表示されているキャンペーンのバナーだが、こんなにクリックしにくいバナーははじめて見た。
怪しさは満点。だが、何か心惹かれるものがあるのも事実だ。
「おい、鈴木。この怪しいボタンは何だ?」
「おぉ、さすが並木様ぁ。お気づきになりましたかぁ」
鈴木は胸の前で手首だけ動かして、パチパチと拍手をしながら言った。
誰でも気づくだろと突っ込みたいが、それをすると鈴木の思うツボになりそうなのでやめた。どうせ心が読めるのだから、伝わっているだろう。
「最近、並木様は色々と世の中にご不満がおありのようでしたので、ご用意させていただきましたぁ」
「何でもお見通しなんだな。で、どんな能力なんだ?」
鈴木は、にんまりと口角を上げながら、いつもの指を立てるポーズを取った。
「こちらの力は、その名の通り、世の中のありとあらゆることを、思い通りに変える力でございまーすぅ。世界中を並木様の王国に変えることも可能でございまーすぅ」
「ホントに何でもできるのか?」
「もちろん、永遠の命というような、当社の魂ビジネスに相反するようなものでなければ、何でも可能となっておりまーすぅ」
なるほど、やっぱり、そこはブレない訳だ。まぁ、当然といえば当然なのだが。
にこやかな笑みを浮かべていた鈴木の顔に、一瞬だけだったが、ほの暗く冷たい光が宿った気がした。
「ただ、こちらの能力は、あまりに強大な力であるため、通常の余命だけでは決済いただけませーん」
鈴木は、突き刺すような鋭い目つきで俺を見ながら言った。
やはり、そうなんだ。にこやかな笑みを浮かべていて、間抜けな話し方をしていても、こいつは死神なんだ。俺は今、死神と対峙しているんだ。それだけは忘れてはいけない。改めて、自分にそう言い聞かせた。
少しの沈黙が流れた。それは、鈴木が俺の心を読んで警戒している間なのだろうか。それとも、単に俺を焦らすための間なのだろうか。どちらにしても、効果的な間だった。
「ごくり……」
ツバを飲み込む音が、自分でもビックリするほど大きく響いた。それを合図にしたかのように、鈴木が口を開いた。
「100回分の余命をいただきます」
鈴木は、語尾を伸ばさなかった。それだけで、やけに深刻な印象を受ける。迫力も半端ない。
鋭いナイフを喉元に突きつけられたような気分だった。この一瞬で、背中に汗が滲んでいる。
「ひ、100回分の余命って?」
声がうわずって、ひっくり返りそうになるのを懸命に堪えて、俺は何とか声を出した。
「おーほっほっほ。100回は、100回でございまーすぅ。並木様が、この先、100回生まれ変わっても、この世に生を受けた瞬間に決済される仕組みでございまーすぅ」
いつもの鈴木に戻って、笑いながら言っているが、こちらとしては笑いごとではない。今後、100回生まれ変わる分の余命とか、さすがに無理だ。
ていうか、生まれ変わるんだ。そっちも、ビックリだよ。
「さすがに、ご利用いただけませんよねぇ。もっとも、今まで誰もご利用いただけてないんですけれどもぉ」
鈴木は、また笑った。もう先ほどのような怖さは感じない。はじめて会った時と同じ、ただの怪しい男に戻っている。
俺は、タブレット端末を操作して、1つ1つ丁寧に眺めていった。
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