第2話 所長
ポチッ
こうしてテレビをつけるのも3ヶ月ぶりぐらいだろうか。
ドラマもバラエティもほとんど見る事がなかったため、特段こうしてテレビを付ける理由もなかった。
適当にザッピングすると、ひとチャンネルを除いて、やはりほぼ全てのチャンネルが家消失事件の事で持ち切りだった。
ちらりと時計に目をやる。
19時って事はどのチャンネルも緊急特番か……ちょっと見てみるか
――――
「「こんばんわー」」
「11月23日金曜日、情報ハウス、トタンヤネ屋です」
「さて、今回は緊急生特番ということで放送させていただいております」
「お昼の放送でもお伝えした通り、埼玉県さいたま市にて、突然家が消失するという事件が起こりました」
「えー今回は、専門的な視点からこの事件の議論、解明するべく、W大学の小槻教授とJapan Paranormal Institute、通称JPIの鷲谷所長をお呼びしております」
「「よろしくおねがいします」」
「いやーわたしね、これ。個人的には事件として扱っていいものかちょっと分からないんですけど。かといって事故というのもしっくりこないですし。超常現象といわれれればそうですし。どうなんですかね、小槻教授?」
「超常現象?この世にそんなのありえるわけないでしょ。全ての現象は科学で証明できるんだよ。夜中にこの家の存在を確認した人誰もいないんでしょ?だったら夜中のうちに解体でもしたんでしょ。解体だったら数時間もありゃ出来ますよそんなの」
「なるほど……解体です……んー、とは言いますけどね?解体って結構な音が出ると思うんですよね。夜中っていっても、近隣住民にバレずに解体作業なんてできるもんなんですかね?鷲谷所長はどう思います?」
「私は超常現象を研究していますし、今回の件も非常に興味深いです。現実的に考え……」
「なにが超常現象だよ、ばかばかしい!」
「えーと……ゴホンッ」
「えー現実的に考えれば小槻教授のおっしゃるとおり、夜中のうちに解体したという説が一番濃厚だと思います」
「ふんっ、そりゃそうだろう。それしかないんだよ」
「ですが、見過ごせない点がひとつだけあるんですよ」
「鷲谷所長?見過ごせない点とはなんですか?」
「それは、地質が違うという点です」
「ちょっと待ってください。地質が違うとはどういうことですか?」
「かつて家屋が存在していた場所の地質と、そこの中心から半径7m離れた場所の地質が違うんです」
「地質というものは、そこに含まれる岩石や鉱石など成分で決まりますが、それは果てしなく長い年月によって形成されるもので、たった数メートル離れた場所の地質が全く違うということはまずありえないそうです。まあこれは考古学者の知人の受け売りなんですけどね」
「しかも、その半径7mというのも面白くてですね。正円、つまりその部分だけを完全に切り取ってそのまま地形を別のものに移したかのように完全な円になっているんです……奇妙だとは思いませんか?」
「鷲谷所長、それはつまり……どういうことですか?」
「いや、ははは。ここまで言っておいてアレなんですけど、正直今は私も分からないことだらけなんですよ」
「今回分かった地質も、地球上に存在する鉱石で構成されているので、隕石とか宇宙人がどうのこうのって可能性は薄いような気がするんですけど……残念ながら。うーん、なんとも分からないですね」
「さっきからなに言ってるんだキミは!!」
「超常現象だぁ?宇宙人だぁ?地質が違うだぁ?そんなものは偶然なんだよ!偶然そうなる可能性だってあるだろ!青二才めが!」
「んー確かにその可能性も確かに可能性の一部としてはあると思います」
「ですが小槻教授。今回の件は家が消失したという、それだけの問題ではありません。そこに住んでいた人も行方不明になってるんです。私は解明不能な超常現象を扱ってはいますが、それと同時に世の中の現象にはほぼ全て理由があると思っています。考察しうる全ての可能性を潰してはじめてそれは超常現象たりえると考えています。少なくとも現段階では偶然という答えを出すにはまだ早すぎる。そう思いませんか?」
「なっ、なんだとこのっ……」
「とにかく、我々JPIは一定の概念にとらわれず、多方面からのアプローチが必要だと考えています。……まあ、ボク的には宇宙人説希望ですが」
「はい、一旦CMはいりまーす」
――――
「JPI……鷲谷所長か。真面目に考えてるんだか考えてないんだか、かっこいいんだかかっこわるいんだか、なんかつかみどこのない人だなぁ」
プンッ
テレビを消してワークチェアにどっと腰を下ろすと、ギシギシという音だけが部屋に響きわたった。
所長が言ってた地質が違うってのは気になるな。しかも円形?消失した家を中心に円形って事なんだろうか?……もしかして円形の範囲の地形もろとも消失したってことなのか?
「ああっ分からん!……まあ分かるわけもないか」
素人がいくら考えても答えなんて出るわけがなかった。
「ふぅ」と小さいため息をつき、スマートフォンを手にとり、緑色の吹き出しアイコンをタップする。
「まだ既読ついてない。なにやってんだアイツ、もう時間だぞ」
アイツとは、定期的に連絡をとっている唯一の知り合いの「ユウキ」のことだ。
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