その後

24.満月の夜に

後日談

――――20xx年 アメリカのとある町


 俺達はバスを降りて初めて訪れるこの町に足をつける。


「先輩、遂に来ましたね」

「あぁナチュラル、ようやくだな。 有給が中々とれなくて大変だったがようやくだ!」

「孝人さん達は休みがとれないみたいで残念だったけど私達は来れました!」


 「ワイルド・シミュレータ」での冒険から何年かが過ぎた。

 あのゲームはイデアがいなくなった後も多くの人に愛されていたが今となってはサービスも終了してしまった。

 まぁそこはネットゲームの宿命なんだろう。


 あとでガラパゴルドさんに聞いた話には研究データが集まったとか、AIを搭載した軍事兵器が完成されてしまい研究の差し止めがあったとかで資金調達が難しくなったんだとかなんとか。

 ……まぁそこは考えたって仕方ない。

 俺はいたって普通のサラリーマン、世界の平和のために戦う義理はない。

 自分達が生きるので精一杯だ。




「オウ、ジャップ?」


 バスを降りると運転席からなんだか聞き覚えがあるような声がする。

 見たところまさにマッスルって感じの体育会系黒人だ。


「……イエス!」


 確信がないが故に俺は引きぎみに頷く。


「HAHAHA、フッキンジャップ!」


 するとその運転手は俺達に突然の暴言を吐き捨てる。


「ははっ」


 おいおい、公共交通機関の運転手だろとも思ったがどうにも悪い気はしなかった。

 



 その後バスがまた走り去るのを見送って再び街へと目を向ける。


「とにかくだ! ナチュラル!」

「ええ! いよいよイデアちゃんの故郷につきましたね!」


「じゃあ、いくか!」


 俺は小さな手をひいて歩き始めた。




~~~※※※~~~




 日が沈み始める頃、俺達は街の外れにある古い屋敷を訪れた。

 ここにきたことこそないが非常に見慣れている。

 イデアの記憶の中でみた彼女の実家だ。


 金持ちの家とは名ばかりに壁は所々古びて、つたがはい、庭に植えられ草木と同化し始めている。

 イデアの父親、パルメニデスさんは仕事のため年に一年しか帰っていないそうなので実家っていうには生活感がないのだ。

 なんでも病弱だったイデアの母の療養のために用意していた家らしい。

 妻を愛していなかったと語っていたパルメニデスさんだけどここを手放さずに住み続けているってことは本当のところはどうだったんだろうな……。


 そんな場所で俺達を待っているやつがいる。


「お久しぶりです士郎さん!!」


 待ち合わせの時間になるとかめちょんは元気よく現れた。


「相変わらずみたいだなかめちょん!!」

「ふふん、私がいなくて寂しかったんじゃないですか?」

「……バカいえ、親に会うからって二日先に飛行機に乗られた程度でなるかよ」

「しょーがないですねジロウさんは!」


 こいつは冒険が終わった後も相変わらず喜怒哀楽が激しく賑やかなやつだった。

 本当にカメレオンみたいにコロコロ表情を変えるんだ。

 一体何度振り回されたことか……。


「本当に相変わらずねかめちょんは!」

「ナチュラルこそ!」


 いつぞやいがみ合っていた二人もいつのころからか仲良くなっていた。

 あの頃は頼りない後輩だったナチュラルも今となっては頼もしい存在だ。

 結局ゲームでの真剣勝負は俺の勝ち越しだけどな。


「とにかくいくぞ!」


 俺達は古びた屋敷の裏手にある大きな墓地に向かった。




~~~※※※~~~




 

 墓場につくとその中から一つの墓石を見つける。


――イデア・エドワーズ――


 あのがここに眠っていないことはわかってる。


 わかってるけど俺達はここに来た。


 用意していた花束と俺達のコミュニティ、ウルフライダーズのみんなで描いたイデアの似顔絵を供える。

 似顔絵を描こうって言い出したのはタカちゃん、の妹の方、南。

 ゲームでとった映像を加工して写真にするだけでもよかったがみんなで集まって思い出を語りながら絵をかくのも悪くはなかった。

 兄の孝人さんは妹の提案だからって店を早くに閉めてまで会場を用意してくれたっけ。

 あの店も繁盛してるようで今じゃ俺達もすっかり常連だ。




 まぁそういう訳で俺達はイデアがいなくなって、彼女のための理想の世界「ワイルド・シミュレータ」がなくなってからも仲良くやってる。


 彼女と出会って生まれた繋がりなんだ、これからも大事にしていきたい。


 俺達三人が黙祷もくとうを捧げていると俺の毛皮を誰かがひいたような気がした。


 それはまるでイデアが怯えた時にそうしていたように……。




 ……いや、もう狼じゃないんだったな。




 俺のズボンを小さな手が引く。


「お父さん?」


 俺の側で質問するのは小さな少年。

 俺達にとってイデアと同じ位大事な人だ。


「どうした治郎?」


 俺はしゃがみ込み彼と会話を始める。


「この名前の人は誰? 有名人?」

「このはな、お前のお姉ちゃんの名前なんだ」

「……名字が違うよ、僕もそのくらいわかるもん!」

「よく気付いたな治郎、このは確かに名字が違う」

「じゃあなんで僕のお姉ちゃんなの?」

「……それはこのが俺にとって家族のように大切な人だったからだよ」

「……どんな人だったの?」


「……不思議な話かもしれないが俺はこのと魔法の世界で出会ったんだ」


 今はもう同じ場所には行けないけどな。

 でも俺達は確かに彼女と沢山冒険したんだ。


「闘技大会に出たり、かくれんぼしたり、サーカス団に入ったり、時にはピンチに苛まれて、最後には遊園地で沢山遊んだ」


 あのと過ごしたのは短い時間だったけど俺にとっては、いやあのにとっても大事な時間だったんだ。

 俺達のコミュニティは少人数だったけど確かにあったんだ。

 あのを中心に、あの世界は回っていた


「俺は最初は一人だったのにあのにあって全てが変わった。 あぁ間違いなく変わったんだ」


 あの娘は俺を求めて、俺達もあの娘を求めた。


「大事だったんだ、お互いに、大事な人だったんだ」


 俺の話を聞いて少年は一つ欠伸をする。


「……僕にはよくわからないや」


 ……まぁ日本からここまで長旅になったし仕方ないよな。


「ふふ、難しい話だったな、治郎には」




「二人とも行きますよー!」

「早くしないとおいてくわよ!」




 遠くから二人の声がする。


「ほら治郎、母さんも呼んでるしそろそろ行くか!」


「……うん!」


「けどな治郎、これだけは忘れないでくれ!」


「……なに? 父さん?」




「どうか俺よりも元気で生きていていておくれ!」




「……うん! よくわからないけど頑張る!」




 田舎町を覆う空は星々が輝き、真ん丸なお月様が俺達を照らしてくれている。

 ゲームの中で一匹狼だったころはふざけて遠吠えとかしてたっけ……。


 空に浮かぶ光は確かに綺麗なもんだ。

 だが俺はそれ以上に輝いてみえるものを知っている。


 いつか手を引くこいつにもそいつを見つけて欲しいものだ。




――――The end――――

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『ワイルド・シミュレータ』 作家志望Vtuber「僕話ヒノトリ」 @bokuwahinotori

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