22.〈思い出の場所〉(2)
イデアの記憶を見終えると俺達は真っ白な空間にいた。
真っ白だ、
白い世界の真ん中に少女が一人たっている。
彼女はきっと俺達と冒険をともにしたイデアだ。
綺麗に伸びた金髪と青い瞳をしていて背丈はだいぶ伸びている。
ずっと身につけていた犬のフードはぼろぼろに崩れ始め、背中から蝶のような膜のある翼を覗かせる。
それは彼女の背丈よりも大きく、……どこまでもどこまでも飛んでいけそうな程に大きな翼だった。
彼女の前には金色の鳥がたっている。
言うならばその姿は中国神話に語られる鳳凰ってやつなのだろう。
俺達は二人と少し離れた場所にたっていた。
「ここが……〈思い出の場所〉」
ナチュラルが思わず声を漏らす。
思い出の場所というにはなにもない静かな場所だった。
「まずは礼を言わせてもらうよ皆さん」
金色の鳳凰が社長、パルメニデスの声で喋り出す。
「この娘をここまで連れてきてくれてありがとう」
彼は満足げに、それでいて強硬的に俺達に眼光を飛ばす。
「これで私はようやく彼女の最後をみとることが出来る」
目を伏せ、彼は宣言する。
「彼女との素敵な冒険をありがとう」
彼がそれをいい終えるとイデアの足元から黒いなにかが這い出てくる。
【あなたが社長の娘なの?】
【あなたのお母様は素敵な人だったよ】
【なにも出来ない、なにもないじゃない】
【レッゴー! 楽しいサンディパークへ!!】
【イデアさんのおうちはお父さんもお母さんもいないの?】
それは言葉だった。
言葉と共に断片的な映像がまるで生き物のように彼女の足元から這い出てくる。
俺達の知らない影ばかりだ。
【申し訳ありませんお嬢様、お父様は未だ帰られません】
【ごめんね、イデアちゃん私どうしてもお母さんのいた日本に行ってみたいの】
【わん!】
その中には過去にみたかめちょんやその父、それとイデアの飼っていた犬、フレディもいた。
「……あ、……あぁ」
映像と言葉の濁流が生まれ白い空間を次第に黒く塗り潰し始める。
「……あは、あははは」
黒い濁流の中心でイデアは笑い出す。
【お前なんかいなくていいのに!】
【ちょっと関わりづらいなぁって】
【お前は自分が特別だと思ってるんだろ?】
怒号のように言葉が溢れる。
【好きにしなさい】
「……私、死んでたんだ」
「……あは、あははは。 私、死んだはずなのに、ここにいる? ……なんで? ……死んだはずなのに?」
【……イデアちゃん!!!! どうして! 私がいなくなったからなの!? どうして!?】
「あははは、おかしい、おかしいよ……、楽になるはずだったのに、楽に、なるはずだったのに……」
【……手は尽くしましたが…残念ながらもう目を覚ますことは】
【無茶だパルメニデス! まだこの研究は不完全だ! 人格の完全再現など直接脳を使わない限り不可能だ!! いや出来たとしても……】
「……あははは。 死んだ、死にたかった。 死にたかったはずなのに!!」
【すまないイデア、お前の体はもう使えない】
【しかし私は、私はやり直したいのだ】
【ここで出来ないのなら……、お前のために世界を作ってやる。 ……お前がもう一度生きていける世界を】
~~~※※※~~~
「イデア!!!!」
先程からの俺達の叫びは彼女に一切聞こえていない。
近付こうにも黒い映像達に押し出されて近付けない。
「いやよイデアちゃん!! こんな終わり方!!」
「そうよ、思い出してよ私達の旅を!!」
俺達がどれだけ喉を枯らしても黒い渦の中のイデアに届かない。
そんな中一羽だけ冷静なやつがいる。
「……ジロウの旦那、聞いてくれ!」
「……なんだよタカちゃん?」
「これを使ってくれ!」
タカちゃんは俺にアイテムを差し出す。
CDのような円盤上のアイテムだ。
「これは今までの記録だ! 旦那と私達、そしてイデアちゃんとの旅の記録データだ!」
「兄貴とチキンジョッキーが一緒に作成した映像記録データなんだ」
「このデータはイデアちゃんが過去に捕らわれた時! それを上書き出来るように用意したデータなんだ!!」
「これを使って旦那! 私じゃ駄目だ、イデアちゃんが選んだあんたじゃなきゃ駄目なんだ旦那!!」
「……タカちゃん」
「話はわかったわ先輩、イデアちゃんのところに行くんですよね!」
俺がディスクを口で受けとると松下は角で俺を持ち上げる。
「あなたをイデアちゃんの元に届けるくらい楽勝よ! いつも通りふっとばしてあげるわ!」
「……ナチュラル」
「……ジロウさん! 私も行きます! 今さら置いていかれるわけに行きません!」
「……あぁいくぞかめちょん! みんな!」
ナチュラルの角に乗り体制を整える。
「イデアのところに!!」
掛け声と共に俺の体は吹っ飛ばされる。
イデアの待つ黒い渦の中へ。
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