11.空の庭(3)





 ケツァールに見送られ俺達は岸からボートをだす。

 通常は船頭としてボートを引く鳥が一羽ついてくるのが今回はタカちゃんがそれを担ってくれている。

 このゲームにも重さの概念はあって俺達と全員を持ち上げるなんて易々とできるものではないが 「スカイフィッシュ」の浮力によっていとも簡単にタカちゃんは俺達のボートを大空に連れ出してくれた。




「「すごーい!!」」




 イデアとかめちょんは声を揃えて辺りを見回す。

 ここは雲より高い天空、爽快な大空の中に俺達は身を乗り出す

 下を見下ろせばズー大陸は広大で俺達もまだ見ぬ世界が広がっているのだ。

 現実に生きていてもこんな風景を見ることはそうないだろう。


「私達飛んでますよジロウさん!!」

「飛んでる!!」

「あぁ飛んでるな!」


 これはゲームなのだから鳥のキャラクターを選べば簡単に飛べるだろう。

 けれどイデアにそれは出来ないし、かめちょんもイデアと過ごすためにこのゲームをしているのだからそんな余裕はなかったのだろう。

 かくいう俺もずっと狼だったから空を飛ぶのは初めてだ。

 きっとこの二人に出会わなければこの風景を見ることはなかったろう。




 喜ぶ二人を余所にナチュラルは大人しい。

 辺りを見渡してはしゃぐ二人は置いておいて俺はナチュラルに声をかける。


「大丈夫かナチュラル? 高所恐怖症か?」

「……そんなんじゃないですよ先輩」


 俺の知る勇ましい角の悪魔がこんなにも塩らしくなるとは、なんだか調子が狂う。


「……今まで先輩とは知らず数々のご無礼をかけてしまい本当にごめんなさい」


 相変わらずナチュラルは謝罪ばかりでどんよりとしていた。

 ……ここは先輩として、いやジロウとして渇をいれないとな。


「……いいかナチュラル、俺の知るお前はそんなことで謝るような情けないやつじゃないぜ」


 視線を落としていたナチュラルと目が合う。


「お前はいつも俺に挑みかかってきた。 軽くはあしらってきたがお前のそうゆうところ俺は嫌いじゃないぜ」


 ぼんやりと俺を見つめるナチュラルに俺は話を続ける。


「俺が正体をお前に打ち明けたのは先輩だから威張り散らかしたいとかそんなんじゃぁないんだ」


 今こそ飲み会で言えなかった思いを話すんだ。


「イデアと一緒に旅をする以上これまで凌ぎを削って来たライバルとして、会社での優秀な後輩としてだけでなく大事な関係にならなきゃいけない、そう思うんだ」


 そう、イデアを導くために仲間として俺達が結束する必要があるんだ!


「だからこれから改めてよろしく頼むぜナチュラル!」


 俺の言葉を聞いてぼんやりと俺を見ていたナチュラルはまばたきをする。




「せ、先輩、それって……」




 どぎまぎしながら話すナチュラル。本当らしくないぜ。


「いいからお前は今まで通りでいいんだよ、俺はその方が好きだぜ」


 俺がそれだけ言うとナチュラルは再び下を向く。

 何かぶつぶついっているような気がしたがよくわからない。

 再び顔を上げた時先程までのおどおどした様子はなく何か決意したようなそんな顔をしていた。


「じ、ジロウがそんなに言うんなら……、し、仕方ないわね!」


 先程と違ってしゅっとした面持ちだが顔を会わせてくれない。


「ひ、一つ、か、確認させてもらっていいかしら?」

「なんだよ急に?」


 なんか様子がおかしい。


「こ、この旅が終わったら、ち、ちゃんと付き合ってくれるのよね?」


 そう言えば俺と戦うためについてきてたんだっけ?


「当然だろ? 付き合ってやるよ」


 俺がそれだけ言うとナチュラルは俺の方を向いてくる。

 先程までと違い彼女は目を輝かせている。


「約束ですよ! 先輩!!」


 今日一日で一番の笑顔、と言うかナチュラルの笑顔を初めてみた気がする。


 ……全くこいつはとんだ戦闘狂だぜ。


「ジロウさん見てください! あそこ!! フクロウとフラミンゴとフクロモモンガがアクロバットショーしてますよ!!」

「すごいよジロウ!!」


 後ろから二人が呼んでいる。


「折角だし一緒に見ておこうぜ、ナチュラル。」

「し、仕方ないんだから!」


 そのあと俺達はその日の夕方までこの広くて不思議な世界を眺めていた。

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