8.かくれんぼ実況中(1)


「ひよこさん見つけた!」

「ぴー、見つかったっぴー!」


 イデアは嬉しそうに小さなヒヨコをつまみ上げる。

 俺達から見ると小さな女の子がひよこをつまんでいる一シーン。

 しかし仲間以外に姿を偽装して見せる希少アイテム「変身ドッグフード」の効果でスクリーンに映る彼女の姿はひよこをくわえた子犬になっている。

 加えて珍しく俺から降りて一人でヒヨコを探し回ってる。

 彼女はとても楽しそうだ。


「……これで何羽目よジロウ?」

「今ので三十六羽目だな、角の姉ちゃん!」


 ナチュラルの問いに答えるのはタカちゃん、彼は同行してくれているが直接かくれんぼに参加している訳ではない。

 どうにも集計係のようだ。

 上空を飛びつつけ俺達を見守ってる。


「あんたも手伝ってくれるんじゃなかったの!?」

「悪いな角の姉ちゃん、ついていくとは言ったが捕まえるとはいってないんだよな!」


 ナチュラルの怒号をよそにタカちゃんは涼しい顔で飛んでいる。


「ほらほら喧嘩しないで! 僕はみんなの近くにいるよー!」


 チキンジョッキーの声が街のスピーカー越しに聞こえる。

 街には彼の言う通りスピーカーやディスプレイがあるだけでなく何処か近代都市的な面持ちだ。

 ディスプレイには街の地図と無数のひよこ達の現在地が記されている。

 どれがチキンジョッキー本人なのかは直接捕まえないとわからないのだ。


 スカイフロントウェアは四大都市の中でも人気ナンバーワンの都市でありこの街に住む動物も四大都市の中で二番目に多い。

 高度限界ギリギリにある都市なだけあって鳥類など飛べる生き物が多く生息している。

 勿論俺達が登ってきた〈ピーナッツギフトツリー〉を登るなどしてやってきた観光客も沢山いる。


「チキンジョッキー! ファイトー!」

「ウルフライダーズも頑張って!!」

「タカちゃんさん素敵!!」


 彼らは今観客として俺達を見守ってくれているのだ。

 勿論ここにいる動物だけでなく現実世界でこの放送を見ている人も沢山いるのだろう。

 俺の得意先の岡見さんの息子さんもこの放送をみてこのゲームがしたいと駄々をこねているらしい。


 今回の試練、かくれんぼはイデアを先頭に俺達が後ろからついていく形で行われている。

 俺達が進む先にいる街中の動物達は自然と道を開けてくれる。

 ここにいる皆がチキンジョッキーの企画を理解して賛同しているようだ。


 それはそれとして俺とナチュラルはこんなところでまで目立ちたくないのだ。

 だから積極的にひよこ探しを協力できずにいる。


「ジロウさん、これではきりがないですね」


 イデアは一人でひよこ探しをしているのにかめちょんは相変わらず俺の頭の上だ。


「……お前も探したらどうなんだ?」

「ふふん! わかってないですねジロウさん!」


 何故かかめちょんは得意気だ。


「私が最初から本気を出したらすぐに終わっちゃうんです!」

「……それはともかくこんなに目立って大丈夫なのか?」


 俺の言葉にかめちょんは少し青みがかりながら答える。


「……ふ、フードを被ってる限りはばれないですし何とかなる、はずです!」


 そんな曖昧な答えじゃ不安を掻き立てられるのだが。


「それと、いざというときの備えも一応あるんですよ!」


 俺の怪訝な顔を察してかかめちょんは焦りながら答える。頭の上にいるからか余計に動揺が伝わる。


「……なんだよ備えって?」

「それは乙女の秘密です!」


 最後の俺の質問に対しては動揺することなくかめちょんが答える。

 相変わらずよくわからない女だ。




「ひよこさんみーつけた!」

「これで何羽目よ! 鳥!!」

「これで五十八羽、いよいよ半分ってところだな!」


 イデアが捕まえたひよこ達はナチュラルの角の上でピヨピヨと鳴いている。

 こいつらもプレーヤーのはずなのにひよこになりきっているのだ。

 それもこれもチキンジョッキーの指示らしい。

 ダミー役はわかりやすくピヨピヨしゃべるのだそうだ。


「別に全部捕まえなくてもいいんでしょ! 隠れてないで早く出てきなさいよ!」

 ナチュラルは機嫌が悪い。

 頭の上でピヨピヨとひよこが鳴き続けているのだ。

 いつもこうるさいカメレオンを頭に乗せている俺の気持ちも少しはわかってくれるだろう。


「本当にひよこさんが一杯だね! ジロウ!」


 イデアは相変わらず楽しそうだ。

 ひよこを見つけてはナチュラルの角に乗せる単純作業を続けているのに飽きる様子は一切見せない。

 〈たからもの〉を手に入れてからはあまり見なかった無邪気な表情をしている。


 俺はふと嬉しくなる。


「楽しいか、イデア?」


 俺はイデアに問いかける。


「うん、みんなで遊ぶのとっても楽しい!!」


 その言葉を聞いて俺は妙な罪悪感を感じた。

 思えばイデアとの旅は都市を巡ることを意識していてイデアと遊んでやることが出来てなかったんじゃないのか?

 イデアの記憶に触れて、寂しそうに泣く彼女をみた今だからわかる。


 彼女はつながりに飢えている。


 だからこそ途中で出会ったナチュラルも仲間に率いれたのだ。

 初めて会ったときにじゃれついてきたイデアのことを俺はよく知らなかった。


 彼女は遊び相手が欲しかったのだ。


 彼女の旅の目的は記憶を取り戻すリハビリだと老虎は言っていた。


 けど違うんじゃないか?


 彼女が求めているものは生前の記憶じゃなくて構ってくれる誰かなんじゃないのか?


 イデアが本当に求めているものは……。




「ふっふっふ、そろそろ種明かしの時間ですね!」


 俺が考え事をしていると俺の上で自信げに黄色いカメレオンがしゃべりだす。

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