2.選ばれた勇者(2)


 俺の部屋の前に立つ見慣れない女は鋭く俺をにらみつけてくる。

 スーツ姿で長い黒髪をポニーテールで纏めており、目付きはきついがそれとなく上品な立ち姿である。

 身長175cmの俺から見て彼女は小柄で華奢な印象をうけるがハーフのように中性的で整った顔立ちをしている。

 俺にこんな美人な知り合いはいない。

 訪問販売にしちゃ無愛想な顔付きだ。



 

「あなたが大崎さん……ですね?」




 その女は俺と目が合うとすぐに声をかけてきた。


「そうですけど……なんでしょうか?」


 別に家賃の滞納もしてないし……、なんなんだろうな……。


「……本日はイデアお嬢様の件で伺いました」


 ……イデアお嬢様?

 彼女の質問は余計に俺を混乱させる。

 そんな名前の知り合いもいないしそもそもお嬢様ってなんだ?

 そんな立派な育ちのやつと関わったこともないぞ。


「あなたは昨晩お嬢様にはずです」


 俺はすぐには気付かなかった。


 少しばかり頭をかかえてようやく昨日「ワイルド・シミュレータ」内で出会った変わった少女のことを思い出した。


「……えーと、それってゲームの話ですか?」


 そう尋ねるとその女はきつい目付きを更に尖らせ俺を睨みながら言う。


「……やはりあなたには知っていただく必要があります」


 俺の記憶する限り彼女に対して失礼になるようなことは一切言っていない。

 しかし明らかに彼女は機嫌を悪くして俺を睨み付けている。

 何を知れと言うのだろうか?

 仕事帰りなんだから手短に済ませてくれ……。


「……とりあえず話は長くなりますのでお宅に上がらせていただけないでしょうか?」


「……はぁ?」


 なんだかかなり胡散臭い上に図々しい女だなと思いつつも仕事の疲れで頭のまわらない俺は彼女を部屋にあげた。

 彼女が美人だったからというのも一つの要因であったことは内緒だ。




~~~~~※※※~~~~~




「男一人暮らしの割には片付いた部屋ですね」


 1LDKの狭い部屋の中で小さな円形のテーブルを囲い俺は先程の女と向かい合って座っている。

 澄まし顔の女は正座のまま軽く俺の部屋の様子を散見してボソっとそう言った。

 確かにゲーム以外趣味がなくてものも置いてないから部屋が片付いてるのは俺もわかってる。

 だが何者か知らないがいきなり人の家に上がってその発言は失礼だろ。

 心の内に確かな不満を抱えながらも可能な限りの営業スマイルで彼女を出迎えた。

 二人とも腰を下ろし落ち着いたところで彼女の方から話を切り出す。


「自己紹介が遅れました。 わたくし、株式会社デミウルゴスの技術開発課に所属しております上新井といいます」


 彼女の突飛な自己紹介を聞いて二つの疑問が浮かぶ。

 まずもって彼女、上新井の名乗った会社名、デミウルゴスは「ワイルド・シミュレータ」の開発元、世界を統べる大企業だ。

 仕事ならいざ知らずこんなプライベートなところで話をすることになるとはとても思えない。

 新手の詐欺か何かだろうか?

 仮に本当だったとして何のようがあるというのだろうか?


 そんなことを考えている内に上新井は丁寧に名刺を差し出して来た。

 それをみた俺もいつもの仕事のように名刺をとりだし渡そうとする。

 すると彼女は名刺をもつ俺の手に制止ストップをかける。


「あなたのことは一通り調べさせていただきました」


 ……俺、何か悪いことしたっけかな?


「大崎士郎。 28歳独身、近くの食品卸売業の会社にて営業職を勤め昨年度主任に昇格。 温厚な人柄で周りからの評価は悪くないが今一つ情熱にかける男。 趣味はゲームであり飲み会の出席は出来れば控えたい……、そうですよね?」


 まくしたてるように喋る彼女の話を俺はただただ聞くしかなかった。

 聞き終えた後でその一つ一つの情報が正確なものである事を理解し少し肝が冷える気分になった。


「……なんでそんな色々調べてるんですか?」


 探偵か何かかよ、この女。


「あなたがイデアお嬢様に相応しいかどうか確認したかったのです」


 ……なんなんだこの人は、一々上から目線でしゃべってきてあまりいい気がしない。

 しかし俺の事を詳しく調べてるみたいだから今この場でどうこうしても仕方はないんだろうな。

 とにかく彼女、上新井の用件を知ることが先決だ。


「さっきからいってますけどイデアお嬢様って誰なんですか?」


「あなたは昨日ゲーム内でお嬢様に会っているはずです」


「……確かに変な幼女には会ったけど、それがなんだって言うんだ?」




 彼女は少し黙り悩んだ末に喋り出す。




「……イデアお嬢様は我が社のなのです」




 ……なるほどな。

 開発元の家族がルールを無視して改造データでオンラインゲームを遊ぶ。

 その事実だけ聞くととんだ身内贔屓びいきである。


「……それで人間がいないはずのあのゲームで一人だけ人間の姿をしていたのか?」


 俺は質問を投げかけたがその言葉を遮るように上新井は言葉を続ける。






「……イデアお嬢様は昨年事故により




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