プロローグ
『ワイルド・シミュレータ』とは
……他の動物になりたい。
そんな思いを描いたことはありませんか?
気ままに生きる猫のように!
自由に飛べる鳥のように!
大勢で泳ぐ魚達の様に!
彼らのように自由に生きてみたい!
そんな思いを抱いたことはありませんか?
これの物語はそんな願いを叶えてくれるあるゲームのお話。
人々が熱狂し社会現象となったそのゲームの名は……。
――――「ワイルド・シミュレータ」――――
時は20XX年、人類は思考時に脳から発される微弱な電磁波、「
加えてVRデバイスは激しい価格競争の結果低価格になり一般家庭に普及するようになっていた。
そんな時代にあるゲームが話題になる。
その名も「ワイルド・シミュレータ」。
このゲームは本来アメリカの生物学者「
しかしこれに目をつけた大企業「デミウルゴス」が一般向けにVRMMORPGゲームとして改修しリリースされたのだ。
このゲームの特徴はなんといっても好きな動物になれること。
地球上に存在する数多の動物、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、昆虫など種類を問わず多くの生き物のキャラクターモデルが用意され、それぞれの姿になって生活が出来るのである。
それだけではなくやりこむことで空想上の生物や恐竜、絶滅種など本来地上にいない生物も使用可能になり、現在も追加動物が続々とリリースされている。
このゲームの目的はただ生き抜くこと。
この一点につきる。
魔王を倒せばクリアとかそうゆうものではない。
ただ生きる。
言ってしまえばそれだけのゲームなのだ。
このゲームではプレーヤーは一つの動物を選択して主観で操作し、このゲームの仮想世界「ズー大陸」を生き抜く。
このゲームに置いて重要なのは「HP」と「空腹ゲージ」だ。
レベルとかはないのだ。
HPがなくなるとプレーヤーは死んでしまいアイテムを全て失いリスポーンすることになる。
HPがなくなるとゲームオーバー、古来より伝わるRPGの基本である。
そして空腹ポイントがなくなると餓えてHPが削られ最終的には死んでしまう。
食べ物を食べることで空腹ゲージを回復させながら生きていかないといけないのだ!
更にこのゲームでは食物連鎖が存在する。
古風に言うならば虫は鳥に食われ、鳥は狐に食われる、こんな感じだ。
肉食動物は攻撃能力は高いが生き抜くために多くの狩りと多くの食事をとる必要がある。
逆に草食動物は肉食動物から狙われやすいが食事は入手が安易な草で済むので生存能力は段違いに高いのだ。
しかしこのゲームの面白いところは寧ろ通常の食物連鎖が成立しないところだ!
何しろゲーム内の体は動物でも頭脳は人なのだ!
これにより自然界には見られない様々な状況が発生する。
例えばそれは本来あり得ない「共存」だ。
簡単に言うならば羊と狼が手を組むのだ!
羊が仲間の狼のために同じ羊を誘い込んだり、狼が羊を他の肉食獣から守ったりするのだ!
生きていく過程で本来あり得ない生き物の群れが生まれる。
勿論一人で生きていくものも数多いがこの不思議な群れ「コミュニティ」の存在がこのゲームの肝となるのだ。
他にも自分の家、更に言うなら「コミュニティ」での村や街を作ったり、特定の獣を倒す「クエスト」があったり、町に開かれる動物達の「バザール」で交流が生まれたり……、仮想通貨を使った買い物など人間らしい要素も加えられている。
自由な操作性、開発元である「デミウルゴス」のシステム宣伝のために完全無料で公開されているという条件もあいまってこの時代の一大ブームとなっているのだ!!
そしてこの物語は仮想世界での日常と現実世界の喧騒に翻弄される一人の男性、大崎士郎と不思議な少女との奇妙な愛情の物語なのである。
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