第66話 bravery time out
「・・・・・・・・え?」
「いや、最初はしょうがないよな?俺もそうなった」
「いや別にそうじゃないけど・・・・・・・・・・・・・・え?」
俺は目の前の光景に現実味がなかった。いや、ミリエルの時よりかは幾分か正気でいられる自分がいるものの、それでもその光景から目を離すことがなぜかできなかった。
今いる場所は昨日俺と疾風が喧嘩したあの教室。朝登校してまもなく疾風に連れてこられたのである。
で、なぜ俺がここまで驚いてあるのかというと・・・・
「あの・・・・あんまりジロジロ見ないでにゃ」
猫耳がついた少女が立っていたのである。
「え?あれって・・・・でも」
「言いたいことはわかる。そして概ね想像通りだ」
「・・・・・・・マジで?」
「お!!未治君だ!!おはよう!!見て見てこの子ちょーかわいいでしょ!?」
「え!?香奈!?」
ここで隣にいた香奈が猫耳少女を押しながら俺に話しかけた。なぜこんなところに
・・・・まさか。
「あ、あの、あんまり前にグイグイ押さないでにゃ!自分でちゃんと挨拶するにゃ!!」
「・・・・お、おはようございまーす」
俺はとりあえず朝の挨拶を返した。大事。超大事。だがそれよりもハイパー大事な件について触れないといけないと思うとたちまち頭が痛くなりそうになる。
いやこれで確かに万事解決してるといえばしてるけれども・・・
「えーっと、香奈はもしかするとスマホみたいなのが届いたとか?」
「えっ!?なんで知ってるの!?・・・・・・あ、そうか!!未治君もこのゲームに参加してるもんね!!さっきハヤちゃんに聞いたから知ってるよ!!なんでもすっごい強いらしいじゃん!!」
「・・・・はぁ」
「ふふふっ・・・・それなら勝負しよう。この私とシロちゃんの最強コンビと未治君。どっちが強いか今宵確かめようではないか!!もちろん私たちが勝つ!!」
「・・・・あのー疾風さん?この子はどこまでわかって言ってるの?」
「すでにあらかた説明は受けてるらしい・・・・さっき全部聞いたよ」
疾風の話によると、あの夜先に家に帰ったら家のポストに小包が入っていたらしく、その中身が『デモギア』だったとのことらしい。そしてそれを手に持った瞬間に『
そこで五匹の『
「へぇ・・・・どこから突っ込めばいいんだろう。まず名前がもはや飼い猫な件についてかな?」
「それは・・・・まぁ香奈がつけたわけじゃないと信じたい」
俺は疾風とヒソヒソ話しながらも件の猫耳少女を観察した。
亜麻色の髪をやや長めのショートカットにしつつも、ツインテールのようなワンポイントの二房の長い髪が動くたびにひらひらと揺れる。目はパッチリと大きく、吸い込まれそうなほどに綺麗な茶色い瞳が時折パチパチと素早い瞬きを繰り返している。背丈は香奈とあまり変わらず、制服を着れば高校生くらいだと普通思われるほどだ。ミリエルやアイヒスと比べても容姿は引けを取らないものの、こちらの方がやや大人っぽさがある気がする。
そんな少女が、黒のTシャツに白のゆったりとしたフード付きモコモコパーカーを羽織り、なおかつ黒のミニスカ紺色のニーソックスという格好で立っているのである。
もちろん、猫耳尻尾付きで。
「はじめましてにゃ。私の名は『シーラ・ロハミケ』。異世界順位第27位『
しかもめっちゃ礼儀正しい。俺の方に向かって挨拶をし、深々とお辞儀をしている。なんとなく猫耳少女って香奈みたいな活発な子イメージがあったのだけれどこの子は全然違う。落ち着いた雰囲気のある女の子だ。
「はじめまして。東条 未治です。まだまだ異世界大戦に参加して数週間程度だけどよろしくしてくれると嬉しいかな」
俺もつられてその子にお辞儀をした。すると『シーラ』もとい『シロ』は目を丸くした。
「え?なんで貴方までお辞儀してるですにゃ?」
「え?ダメなの?」
「普通あり得ないですにゃ。貴方は異世界順位一位である『人間』なのですにゃ。だから私が敬意を持って接するのは当たり前でも貴方がかしこまる必要はないですにゃ」
「へ、へぇ。そう」
なんかよくわからないけど怒られた。別にそうは言っても今まで会ってきたイマジナリーたちに一度たりとも敬われたことなかったんだけどなぁ。おかしいなぁ。
「・・・・俺もこいつだけだと思う。フレアに一度もそんな態度とられたことないしな」
横で疾風もそう呟く。そもそも二人の中そんなに良くないもんね。
「もう!!シロったらそうやってまた硬い態度とっちゃってさ!!そんなんじゃ友達にはなれないぞ!!」
「そんなの恐れ多くてなれないにゃ。私は二人に敬意をもって接するにゃ。香奈とは違ってちゃんとした姿勢で望まないといけないにゃ」
「なんでよ!?それじゃ私は!?なんでちゃんと敬意を持って接してくれないの!?」
「それは香奈だからとしか言いようがないにゃ」
「なんでよーーーーー!!!!!!」
「・・・・もう結構仲良いじゃん」
俺たちには畏まった口調+にゃなのに対して、香奈には打ち解けたような口調+にゃで話している。二人の相性が良いのはいいことである。
それはそれとして、俺はシロに質問をしてみる。
「えっと、シロはどうしてこっちへ?」
「はいにゃ。私たちの種族はこちらの世界でいう『獣人』と呼ばれるものの一種なのはご存じだと思いますにゃ。イマジナルでもそういった者たちは多くいるのですが、私たちの種族名からわかる通り獣人種は一つの種族ではないのですにゃ」
「へー。てっきりひとまとまりでいつか出てくるんじゃないかとは思ってたけど違うんだ。でも違う者通しで一つになっても内輪もめとか起きそうとか考えると・・・この分け方が正しい気もするね」
『獣人』と一口に言っても犬系、猫系、うさぎ、鳥etcと多種多様に存在する。それらが一緒くたに同じものとされてもやはり違うもの同士の差は生まれてくるだろう。それならば細かく区分した方が平和的だろうというのが均衡の神の見解なのではないかと推測できる。
「ですがそれでも争いは起きていたですにゃ。個体数の多い獣人たちの領土争いは基本獣人同士の生存競争なんですにゃ。かの大戦後も順位が横並びになってなおさら取り合いが激しくなってるのですにゃ。いろんな種類の獣人たちがいる以上、私たち"猫人"もいつ滅んでいくかもわからないですにゃ」
なるほど。獣人たちの領土はかなり活発したホットスポットになっているわけか。
「じゃあシロはその競争に勝って自分の種族を生き残らせるためにこのゲームに参加したってこと?」
「はいですにゃ。私はこう見えて選りすぐりのメンバーのうちの一人。実力には自信があるですにゃ・・・・ただちょっと契約者になった香奈だけが心配ですにゃ」
「ちょっとー!!もうちょっと私を信用してくれてもいいでしょー!!」
「とは言ってもにゃ・・・・最初に出会った時から危なっかしい契約者だったにゃ」
シロはため息をつきながらそう呟く。ああ、早速彼女に苦労してるのか。可哀想ではあるがシロの気持ちすごいよくわかる。疾風もウンウンってうなづいてるし。
「というわけで私もこのゲームの参加者になったからね!!もう仲間はずれはダメだよ!!特にハヤちゃん!!」
香奈はシロの腕にガシッと捕まりつつ、疾風にむかってビシッと指差してそう言った。疾風はやや苦い顔をしつつも「はいはい」と返し、俺の方に向き直った。
「ああ・・・・というわけでな未治。いっそのこと俺たちで『スクエア』を組まないかっていうことなんだ」
「スクエア?」
なにやら疾風が聞き慣れない単語を口にした。
「ああ。知らないか?異世界大戦には『スクエア』というチームを組むことができるんだ。いわゆるパーティってやつだな。最大四人まで組めて、なかなか一人じゃ複数体のイマジナリーと契約できない問題を解消できるメリットもあるんだよ。それに追加報酬もあったりする」
「へー。そんなものがあったんだ」
「まぁ説明書には書いてない事項ではあるからな。ランキング3桁台の契約者だけに公開される一種の裏技みたいなものだ」
「そんな制度あるのか・・・・全然知らなかった」
やっぱりまだ俺はこのゲームについて全く知識がない。その分、先輩の疾風に出会えたことは本当に助かったといえよう。これから色々教わることができるのだから。
「もちろん! 未治君も一緒のチームだよね?私たち三人で・・・・チーム『幼馴染ーズ』だっ!!!!」
「いやだから俺は違うでしょ」
「というか勝手に名前決めるな」
「香奈の名前かっこ悪いにゃ」
香奈の決め台詞っぽいセリフに三人で突っ込みをいれる。香奈のほっぺは膨れた。
「むーなんでよ〜いいじゃん〜もう未治君も半分幼馴染みたいなもんだよ〜」
「全然だよ。いつから昔からの仲認定されちゃったんだよ。俺ずっと福岡いたし」
香奈が悲しい顔をするがこればっかりは許してほしい。どうあがいても俺は福岡県民だった。一度たりとも東京に住んだ記憶はない。
「はぁ・・・・名前は後ででいいだろ。今はとりあえず未治が乗ってくれるか否かなんだが」
ここで疾風がすかさず話の軌道修正をしていく。さすがこの道のプロは違う。タイミングってものを知ってる。
それはさておきスクエアに入るかどうかだが・・・・この話は俺にとっても願ったり叶ったりだ。断る理由もない上にメリットしかないので俺はこの提案に乗ることにした。
「うん。喜んで参加させてもらうよ。俺も疾風に教わりたいことあるしね」
「なら良し。お前がいればビギナーの香奈がいても十分に戦えるだろう。なんせ俺のフレアはあまりそういうチームプレイが難しいやつだからな」
「ま、大概の敵ならフレアだけで十分な気もするけど」
「それが・・・・そうもいかない時もあるんだよ」
「・・・・・そうなんだ」
疾風の経験上、そういう場面に出くわしたこともあるのかもしれない。参考程度に一応後で疾風に詳しく聞いておこうと心に留めておく。些細な情報だったとしても何か役にたつかもしれない。
「ま、ひとまずは登録をしようか。未治もデモギア持ってるか?」
「あ、うん。一応いつも持ってきてるよ。ミリエルがこれでいつでも通話できるから持っとけって言われてね」
俺はポケットからデモギアを取り出し、画面を立ち上げた。登録はとても簡単で、疾風が送ったスクエア申請に許可のボタンをタップするだけだった。
『プレイヤーネーム「ハヤテ」様からのスクエア申請を許可しました。スクエアに加入します』
『完了しました。プレイヤーネーム「東条 未治」様はスクエアに加入しました』
デモギアのアナウンスがスクエアに加入したことを俺に伝える。これで俺含め三人は晴れて同じスクエアの仲間になったわけである。
「とりあえず今はこれでお開きにしよう。そろそろ朝礼始まるしな。細かい話は放課後にしよう」
「了解。色々聞きたいこと纏めとくよ」
「ああ。そうしといてくれ」
「・・・・・」
「ん?香奈どうしたの?さっきから無言のままで」
香奈は俺と疾風のやりとりの最中一切言葉を口にしなかった。
それに気づいた俺が声をかけると、香奈は頬を緩めて
「・・・・いいね。私楽しいよ」
と、デモギアを片手にポツリとそう呟いた。
「・・・・どうした香奈?」
疾風も何かいつもと違う様子の香奈のことを変に思ったのか、心配そうに話しかけた。それを聞いて香奈は少し焦った風にいやいやと手を振って笑う。
「はははっ、別になんでもないことなんだよ。ただね・・・・こうやって一緒にチーム組んでさ・・・・・それが私は嬉しいの」
香奈は俺と疾風の元にきて、二人の手を握った。
「私ね、今とっても楽しいよ!ハヤちゃんと未治君と一緒にいてさ!!」
香奈は俺たちの顔を真っ直ぐに見つめ、元気良くそう言った。それを聞いた俺らは手を握られたままお互いを見て笑ってしまう。
俺は心の中で香奈の言葉を繰り返した。
彼女にとってはやっと帰ってきた日常なんだ。そして疾風にとっては、頑張って頑張って、俺にまでたどり着いてようやく掴んだ今。それを思うと、俺も少し嬉しい気持ちになる。
「・・・・そうか。ほらはやく」
疾風は香奈にそう言いかけた。
その時、
「だ、誰かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突然校舎内に大きな声が響いた。どうやら助けを求めているようだ。しかもかなり近い距離にいる。
「はや」
俺はすぐさま走り出そうとした疾風をとっさに呼ぼうとした。また前みたいに突っ走っていきそうな気がして。
しかし、それよりも疾風の言葉が早かった。
「悪い!!先生呼んできてくれ!!万が一のことがあったら俺一人じゃ無理かもしれない!!」
「てっ!?」
俺はあっけにとられて疾風を見つめるだけだった。まさに不意打ちに近い感じである。
固まった俺に疾風はさらに続ける。
「お前が示してくれただろ。やるからには、全てを完璧にってな。だから俺はお前に頼るからな。いいよな?」
疾風はドアに手を掛けながら俺に対してニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。俺はちょっとだけそのしてやったりな笑みにつっかかりたくなってしまいそうになったけどなんとか自制心を働かせて我慢した。
「・・・・はいはい。わかってるよ」
「頼んだぞ」
そう言って疾風は声の方へ駆けて行った。
教室に残った俺と香奈はしんと静まり返った教室で無言で見つめ合う。
そして数秒後、
「「・・・・・ぷ、あはははっ!!」」
俺たちはなんだか疾風のことがおかしくて、同時に腹を抱えて笑いあってしまった。
「いやーびっくりしたよ!いきなりハヤちゃんが未治君に頼みごとするなんて!!」
「いやなんか・・・・笑っちゃダメなんだろうけど、前の時とは全然違いすぎて・・・」
俺たちは笑いあった末にふぅ、と息をついた。
「・・・・ハヤちゃん。変わったね」
「うん。ちゃんと頼ってくれるようになった」
「・・・・ありがとう」
「ん?・・・・え!?」
俺は目を丸くした。香奈が俺に向かって頭を下げたのである。唐突な感謝のお辞儀に戸惑ってしまう。
「私の家族のことを解決してくれて、それからハヤちゃんに勇気を与えてくれたことも、それから・・・・私たちのことを大切に思ってくれたことも」
「香奈・・・・・」
そう言えば今回の顛末について語る約束してたっけ。でもこの感じだと先に疾風から聞いていたようだ。香奈も異世界大戦に参加した以上、何も隠すことはないから問題はない。
ただ感謝されるとはまったく思っていなかった。俺は香奈にそんな率直な気持ちを伝える。
「香奈・・・・別に感謝されたくてやったことじゃないよ。俺は本当に二人と友達になりたかった。今までそう言う関係になった人っていなかったからなおさら大切にしたいと悲しいボッチながらにそう思ったんだよ・・・・だから別に」
「それでもだよ。これは伝えないとだめなの・・・・・本当に感謝しています。ありがとうございました」
そう言って再度ぺこりとお辞儀する。俺は戸惑いつつも、これは多分受け取らない限りずっと香奈にとって助けられた恩というしこりが残ってしまうと言う『遠慮』を取り除こうとしているのではないかと推測した。ならばこの感謝を受け取るべきなのだろうと考え直す。
「・・・・わかった。これ以上はこう言う硬いことはなしって事で。友達なんだからさ」
「・・・・うん。わかった」
香奈は笑顔でそう言った。もう何も隠してはいない、純粋に嬉しそうな笑顔で。
多分、この瞬間本当に俺と香奈は友達になったのだと思う。
「あ。それと未治君」
「ん?何?」
「私ね・・・・実は・・・・・ハヤちゃんのことが・・・・・す、好きなんだ」
「うん。知ってるよ」
「だからその・・・・・お手伝いして・・・・・って!!なんで知ってるの!?」
「周知の事実かなと」
「周知!?周知ってみんな知ってるの!?まさかハヤちゃんも!?」
「それは安心して。疾風にだけはまだ伝わってないと思うし多分香奈が言わない限り一生疾風は気づかないと思う」
「ぐぬぬ・・・・やっぱり鈍感だったかあの男」
香奈は悔しそうにリアルぐぬぬを吐く。本当に悔しそうなのがすごいなと思う。
「まぁいいや!!とにかく未治君にはそのお手伝いをしてもらうからね!!私にとってチームを組んだのもそのためってのもあるからよろしく!!」
「ぶっ!!それはどうかと思うけど・・・・まぁいいや。どうせ困るのは俺じゃないし。ちゃんと協力するよ」
「よっしゃあ!!これでもらったも同然!!」
「ほら、はやく先生呼びにいくよー」
たく、香奈も香奈で色々小狡いこと考えてるし。というかはよお前らくっつけ。
俺はそんな気持ちを押し殺し、棒読みで香奈に催促する。決して踏む必要のない地雷を踏むことはない俺なのである。
ただ、まだ四月の後半でしかない今日この頃、これからまた様々なところから色々な事態に巻き込まれるであろうことは、容易に想像できるのであった。
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