第59話魔法使いBravery correct


アキバの街は激震した。



相対する二つの光。その両者が放った一撃は、あたりのビルやコンクリートを飲み込み、壊していった。その破片は空を飛び、風とともに竜巻のようなものを形成する。


光はそれぞれ違う輝きを放っていた。


クレーターの近くではマグマのようにドロドロに溶けた地面が流動する。近づけば一瞬で溶かされるほどの熱量。その全てが一点の炎に収束している。


それはまるで王者の風格を知らしめるかのような、絶対的強者の煌めきを放つ。


上空では、まばゆい光とエネルギーがこれまた一点に集中していた。それは先ほどと同じ炎というよりはまさに光。


純白に輝く聖なる光。罪を犯した者に下される天界からの鉄槌の光である。


その二つが、『イマジナル』史にのこる強大な二つの技が激突する。




だが、完全にはそうならなかった。放つ直前、この場にはちっぽけなひとりの"魔法人"が放った魔法が、"龍"の口に直撃してその微々たる衝撃によって技の軌道をそらしてしまったのである。これにより、"龍"の技は"天使"にまで直接届くことはなかった。


そのかわり"天使"の一撃は見事に"龍"に届いた。


"龍"は攻撃をもろに受け、呻き声を上げながら最後の力で立ち上がっていた体を横たえた。それ以降"龍"は起き上がることはなく、ただ呻き声を漏らすだけになった。それに比べて、攻撃を当てた相手の"天使"はまだ健在だった。最後の最後まで力を温存できたことが功を奏し、全力の一撃を放った今でもしっかりと意識を保っていた。


この光景を見れば、誰が勝者かは一目瞭然だろう。


こうして長い時間に渡って繰り広げられたこの戦いは、が意識を失ったまま、ドラガリオンフレアの敗北によって遂に幕を閉じたのである。



☆☆☆☆☆





「・・・・・る・・・・」


なんだろう。なんかすごい昔の頃の夢を見た気がする。なんだか懐かしいような・・・というか俺なんで寝てるんだ?


あ、そっか。確かあの光がピカッてした時に気を失っちゃったんだっけ?あれだ。確か衝撃と風がやばかったんだった。それに巻き込まれて俺も・・・・


「し・・・・はる。お・・・す・・」


というか何に横になってるんだろう今の俺。なんかすごい柔かい。下手したら家のベッドよりも丁度いい感じの弾力性かもしれない。


となるとこれは・・・・高級ベッド、なのか!?そうだとしたらまだ寝ていた方がいいのかもしれない。


「はる・・・・未治、起きなさいって!!絶対起きてるでしょ今ニヤニヤしてたしっ!!」


「・・・・あと5時間」


「寝過ぎよそれは流石にっ!!日があけちゃうまでこんな体勢なんてどんな修行よ!!」


・・・・ん?体勢?どういうこと?


俺はその言葉が気になって、まだ眠りたいと思う気持ちを抑えつつ仕方なく目を少しづつあけた。



そこには見知った少女の顔が二つ覗き込んでいた。


一人は真上で一人は真横に。


「うーんと・・・・おはよう?」


「お、は、よ、う!!よく眠れたかしら!?」


「えーと、多分よく眠れたと思うよ?」


「そう!それは良かったわね!!」


俺はまだ状況が理解できなかった。見ればミリエルは怒った顔をしているし、アイヒスはやれやれと言った表情をしている。一体この状況はなんなのだろうか。なんで寝ている俺に対して彼女たちはこんな顔をしているのだろうか。というか結局この戦いはどうなったのだろうか。


いかんせん情報が無さすぎる。





ビシッ!


俺はデコピンを受けた。


「痛っ!!ちょ、なに!?」


「未治のバカッ!!!!!」


ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!


「痛っ、いた、痛いってちょ、っだからまっ、てぇよ」


俺は手で必死に顔を覆い隠す。けれどミリエルはそれを縫うように俺の顔にデコピンを当て続ける。


「バカッ!バカッ!バカッ!神様級にバカよ未治ッ!!」


「お、また神様出たです。多分最上級的な意味です」


「ちょ、ちょっと無駄に解説してないでアイヒス助けて」


「・・・・それとミリエル様の槍どっちがいいです?」


「・・・・・やっぱりいいです。痛っ!!」


俺は後者を選んだ時の姿を想像して背筋がひんやりとした。それなら今の痛さも可愛い者だ。あんなので一突きされたら絶対に死ぬ。



と考えていたら突然俺の顔に水滴がついた。


「・・・・ん?何これ?雨?」


俺はその雫を手ですくいながら空を見ようと覆っていた腕を上げた。




そこには涙をぼろぼろこぼして泣いているミリエルの顔があった。




「みはる・・・・・ばか・・・・ばがみはるぅぅぅぅ〜」


ガバッ!!!!


「うおっと!!!!何、暗っ、え、何!?」



そうかと思えばすぐに目の前が真っ暗に変わってしまった。さっきから自分の置かれている状況がまったく理解できていないのにこんなにコロコロコロコロ場面を切り替えないでほしい。


でもなんとなく、とりあえず自分がどういう状態でいるのかだけはやっとわかった。


俺は今ミリエルに抱きつかれている。それも膝枕された状態で。関係ないけどこの体勢で抱きつくとかミリエルは苦しくないのだろうか。


「もう心配させないでよっ!!私が降りてきた時にあなたが倒れてるのを見て私・・・・・本当に死んじゃったのかと思ったんだからぁ〜」


「だからそうだとしたら私たちはなんらかの形でそれを察知できるようになってるです。それがなかったからまだ師匠は生きてるって何度も言ったです。それなのにミリエル様は・・・・」


「だって・・・・だってぇぇぇぇぇぇええええええ〜!!!!!!!」


ミリエルは俺にしっかりと抱きついたまま、またわんわんと泣き出してしまった。なんだか胸のあたりがあったかいというかだんだん服が湿ってきててちょっと気持ち悪い。まぁ言わないけどそんなこと。


「あの・・・・ミリエル、苦しいから一旦離して、というか上体起こしたい」


俺はミリエルが抱きついているせいで呼吸が苦しくなってきていた。それに暑いし。なのでひとまずミリエルを一旦離しつつ上体を起こした。


ミリエルは俺の言葉に素直に応じて俺を解放する。改めて彼女の顔を見ると、目元は赤く腫れ、頬には涙の粒が残っていた。まるで子供が全力で大泣きしたような、そんなひどい顔をしていた。


「・・・・ぐすっ、本当に、心配したんだからね!未治が死んじゃうなんて私許さないからっ!!」


「大丈夫だよ、多分。今ちゃんと生きてる」


「うん。よがっだ、ぐずっ」


ミリエルは鼻を鳴らしながらも俺の方を向いて安堵の言葉を漏らす。ひとまずは落ち着いたようだ。ミリエルには本当に迷惑をかけてしまった。


「・・・・ごめんミリエル。君が俺のことを信じていたにもかかわらず・・・・俺は・・・・」


「・・・・未治は、全然悪くなんかないわ。私たちの力が及ばなかっただけ。私がもっとあいつに効果的な攻撃を加えていればもっと早く未治の策で倒せていたはずだもの。だからまだまだ私が未熟なのがいけなかったの」


「いや、違うよミリエル。そうじゃない。俺が全て悪かったんだ。俺がこの世界のことを甘く見すぎて・・・・それで過信して、失敗した。俺がちゃんと最後の最後まで想定していればミリエルたちを危険な目に合わせることはなかったはずなんだ・・・・だから俺は指揮官失格だよ。俺は俺の役割を果たすことができなかったんだから」


「・・・・未治。もう、色々言うことあったのに・・・・言う気無くなっちゃったわ。どうしてくれるのよ」


ミリエルはそう呟いて悲しい表情に変わる。また泣き出してしまいそうだ。ど、どうすれば・・・・


「はぁ、これだからうちの契約者はヘタレといわれるです。そこは男らしく抱きしめるとかそういう行動をするべきです」


ここでアイヒスの横槍が入る。地味にダメージでかいこと言うよね。


「いや、別にヘタレって言われたことないんだけど」


「あーもうっとにかく!!誰が悪いだのと言い合うのは不毛すぎるのでミリエル様も師匠もやめるです!!というかこの場は全員悪いということで終わりにするです。その、私も・・・・少し、反省することあるですし・・・・だからもうこの話しはおしまいです!!!!」


アイヒスは若干顔を赤らめながらも手で大きくばってんを作りつつそう俺たちに宣言した。ま、確かにその通りだ。今はそれよりも確認しなきゃならないことがある。


「・・・・はぁ、そうだね。とりあえず反省会は後にしようか。それよりもまずはどうなったのかが知りたいんだけど・・・・二人ともいるってことは勝ったってことでいいのかな?」


「・・・・多分そうです」


うん、なんか歯切れの悪い答えだな。何かあったのか?



「うーん、それがですね、なんとかミリエル様の攻撃であの"龍"を倒したですけど、どうやらまだ生きているらしくて・・・・消滅はしてないです。だからまだ厳密に言うと勝負は続いているといったところが正しいです」


「まじそれ。ミリエルのフルパワーの全力を食らっても消滅しないとか流石にタフすぎん?」


さすがドラゴン。耐久力も桁違いってか?勘弁してほしい。


「もうこれ以上奥の手を隠されてたらどうしようもないんだが」


「その心配はなさそうです。生きてるといってももはや虫の息のレベルです。だから立ち上がることはおろか、攻撃を行うことすら今の状態では多分無理だと思うです」


「なるほど、そういう意味で実質うちらの勝ちってことか」


「そういうことです」


「・・・・はあはあ、だんだん状況が読めてきた」


アイヒスのわかりやすい解説は本当に頼りになる。今後もそのインテリ系路線を頑張っていってほしいと切に願おう。


「ということはもう」


「そうですね。後は瀕死の"龍"にトドメを刺すか、後は契約者に負けを認めさせればこちらの勝ちです。多分今の状態なら私の魔法でも倒せるですよ」


「そうか、さて・・・・」


どうしようか、といってみたけどもう取るべき選択肢は決まっている。ここでフレアを倒してしまって疾風に蘇生するためのポイントがなかったならばそれこそ悲劇だ。ここで記憶がなくなるなんてことになったら香奈にどんな仕打ちでも受ける覚悟をしなければならない。そんなのはごめんだ。


「ちょっと手間取って悪いんだけどここは疾風を説得してみることにするよ。それまでにもしもフレアが戦闘可能になったらアイヒスとミリエルだけで押さえておいてほしいんだけど、いいかな?」


「・・・・まぁそういうと思ってトドメは刺さないでおいてたです。いいですよ。私に任せるです。師匠はあの人間との話だけに集中していればいいです」


「助かるよ」


そう言って俺は立ち上がり、疾風が気を失っているクレーターの対岸に向かって歩き始める。


途中ミリエルにも視線を送ったところ彼女はなぜか笑っていた。何か嬉しいことでもあったのだろうか。多分あったのだろう。後で聞けばいいか。


「ここまで長かったけど、やっと約束が果たせそうで良かった」


そうだ、ここからは俺と疾風だけの戦いになる。俺はあいつのことを殴ってくると香奈に宣言してここにきたのだ。だから絶対、何があっても疾風は殴る、1発殴る。何気に教室の時殴られた一回分をしっかり根に持っている俺である。


それからその後は考えるんだ。疾風と香奈が一番幸せになれる道を。疾風が一人で潰そうとしていた組織がそれの最大の障害物なのは明白、ならばそれをどうするか考えなければ。


もちろんさっきのような詰めの甘いヘマはもうしない。ここからは一切のミスを出さずに、全てをやりきる。だけど疾風がしようとしたように全部を俺一人でやる必要はない。


俺にはちゃんと、頼れる仲間がいるのだから。















「なんかミリエル様嬉しそうです」


「うふふ〜、まぁね。やっと未治が私たちを頼ってくれたなって思ってね」


「・・・・まったくです」


未治が歩く後ろでは、二人の少女が笑いあっていたとか。

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