第57話魔法使いBravery その26
「未治ー?・・・・みーはーるー?・・・・・・ねぇ未治聞いてるのー?」
「・・・・・・」
「みーーーーはーーーーるーーーー!!!!」
グワングワン
「え?うわぁ!?聞いてる!聞いてるから揺らさないで!!」
「もうっ!・・・・また一人の世界入ってたでしょ!?もー、お母さんの話を聞かないなんて薄情な息子だなぁ」
「・・・・聞いたところでだいたい突拍子も無いことばっかりじゃん」
俺の家は他の家族よりもちょびっとだけ大きな家だった。というのも、うちの家系は何人も戦争時に多大な功績を挙げた兵士を輩出し、当時の日本国軍に貢献した由緒正しい家だった。いわば華族に近い感じだ・・・・と言っても今はその面影もなく、強いて言えば町のまとめ役のような役割しか持たない家なのである。
それでも俺の曽祖父である東条正道を慕ってこの街をまとめて欲しいと頼まれているわけなのだ。ひいおじいちゃんの顔は写真でしか知らないけれど、きっとみんなから慕われる素晴らしい軍人だったのだろうと思う。
そして、俺と母さんはその家系から生まれた子なのだ。
「そんなことないでしょう!?未治はもっと自分を生んでくれたことに対する感謝の気持ちとかそういうのを態度で示しなさいよ!」
「いやーすごいな母さんはー尊敬するなー」
「棒読みじゃないのよ!もうっ!なんでこの子はこんなにひねくれて育ってしまったのかしら?友達とも遊ばないし私には口答えばっかりだしっ!」
「・・・・・」
「そもそも未治が素直ないい子だったときなんてなかった気もするし・・・・てまた聞いてないじゃないっ!!」
「聞いてる聞いてる〜」
「もーーーーー!!!!!」
母はふんすと腹を立ててますと主張するような態度を見せる。正直面倒くさい。
「ねぇ、母さん。邪魔するならあっち行っててよ」
「はぁ、まーたボードゲームと象形文字ノートなの?一人でずっとやっててよく飽きないわねぇ」
「飽きないよ。なに?一戦やるの?」
「いやよ。未治とやるとなんにも面白くないもの。最初の頃はいい勝負だったのに今では瞬殺なんて・・・・親としてのプライドなんてズタズタ。ねぇ、未治って本当に小学生なのよね?実年齢いくつ?」
「自分で産んだんでしょうが!それくらいわかるでしょ!!」
実の子の年を聞く若い母親なんてゴメンだよっ!!
「いやーそれにしても大人すぎるよなーって。未治の学校の子達なんてみんな元気に外で遊んでるわよ?たまには子供らしく外に行って運動とかしてきたらどうなの?」
「いい。母さんだけで行けばいいじゃん。母さんならきっとその人達とも砂とか泥とかで真っ黒になるまで遊んでそうだからいけるよ」
「それは母親に対する言葉でいいのかな〜」
「いはいいはいひふほほほほっへはほほんひへふへふははほはほほふはほほほふ(痛い痛い実の息子のほっぺたを本気でつねる母親もどうかと思う)」
母親は痛がる俺を見て満足したのかほっぺたから手を離した。本当に実の母親の行動ではないと主張したい。
「はははっ、未治もあんまり母さんのことをいじめちゃダメだろ」
とここへ父親も姿を現してくれた。俺としてはかなりありがたい。
「あ!和樹(かずき)さん!!和樹さんぁぁぁぁん!!」
母さんは途端に父さんに抱きついた。概ねいつもの通りである。
「父さん。そのまま母さんをどっかにやっといて」
「どっかにって・・・・」
「ひどいのよ和樹さん!!未治が私のこと邪魔だって言って!!!もう泣いちゃってもいいよね!?うちの息子小学校低学年で反抗期に入っちゃったって〜!!!!」
「あはは、もうまた未治にちょっかい出すからだろ?そろそろわかってあげないと。未治だってもうすぐ小学三年生なんだし。多感な時期だってきっとあるんだろ?」
父親はそれとなく母親を説得する。これがいつもの流れなのだ。母親が俺に構って攻撃を繰り返し、父親がそれを引き取りに来る。どんな家族だよこれ。
「そんなの知らないもん!!未治は私の子供!だから私とのスキンシップが第一でしょ!?そう思うでしょ!?」
「まー、うん、うん?そう、なのかな?」
「そうなの!だから未治は今すぐそれをやめて私と遊んだ方が正しいのよ!そうでしょ和樹さん!?」
「う、うーんまぁそういうこともあるかも?」
「いや父さん、何論破されそうな雰囲気出してんの」
だめだ、今回の父さんはあんまり強くない。きっと今日は何か二人でラブラブなデート的なものでもあるのかもしれない。そういう日の父さんは母さんに甘々なのだ。とにかく気まずいから息子の前であまりイチャイチャしないで欲しい。
「ほ、ほら。今日はお出かけの日だろ?一旦準備した方がいいんじゃないのか?」
「あ!そうだわ!今日は久しぶりの都市巡りだものね!!日頃なかなか町の外にでないから久々ね」
母親はそう言いながら俺の部屋からルンルンで出て行った。東条家の台風がようやく過ぎ去ったことでこの部屋にもやっと平穏が訪れたのだ。
「はぁ、やっと静かになった・・・・」
「未治も最近また母さんに構ってないのがいけないんだろ?たまには息子らしくお母さん孝行してやれよ」
「そうは言っても・・・・母さんといると体力がもたない」
「お前発言がいちいちジジくさいぞ。まぁわからなくもないが」
父さんはウンウンとうなづきながら答える。きっと俺以上に苦労してるんだろうな。
「いつもあんなに変なテンションの人と一緒にいる父さんがすごいよ。尊敬する」
「まぁそこは愛した女性だからなぁ、お前だってお母さんのこと嫌いなわけじゃないんだろ?」
「・・・・・まぁ、嫌いじゃ、ない」
「あはは、照れてる」
「・・・・あの母親ありてこの父親ありか(怒)」
結局似た者同士の夫婦なのが余計にムカつく。
「ごめんごめん未治。まぁお前ときたら最近学校以外に外出てないからな、母さんも俺も友達のいないお前のことが心配なんだよ。それくらいはお前なら気づいてるだろ?」
「・・・・・・」
まぁ、たしかに。最近外出てない。それと言って友達もいない。そりゃ親として心配するだろう。
でも別に俺は友達が欲しいとは思ってない。なんというか、ここでゲームしていた方が何倍も楽しい気がする。
「・・・・たくっ、未治にはもっと人付き合いの楽しさを知ってもらわないといけないよなぁ。なんというか、ここまで他人に興味ないですって感じじゃあ一瞬で社会からあぶれそうだ」
「・・・・別に今は必要ないし」
「・・・・ぷ、あははは」
「わ、笑わないでよ」
俺は父親にからかわれてバツの悪い顔をする。もう本当にこの両親どうしてくれようか。
「いやー未治。今日はお前も一緒に行くか?母さんもきっと喜んでオッケーしてくれるはずだよ」
とここで父親から意外な提案を投げかけられた。今までこんなこと言われたのは初めてだ。
「え、でも」
そもそもこの小旅行みたいなノリで行く都市観光は二人の親密な仲を深めようという名目で行くものらしい。だから月一回くらいのこの日はいつも俺は同居している親戚やおばあちゃん達と一緒にお留守番しているわけなのである。
でも今日の父親は笑顔でこう言った。
「遠慮すんなよ。お前は俺たちの子供なんだから。構い続けるのは当たり前だろ?」
「いや、だってデートに息子連れてくとかええ、」
「なんでふつうに家族でお出かけって言わないんだよ!?全く、母さんもそうだがこのひねくれ親子。何かにつけて俺を悩ませるんだからなぁ」
父さんはため息をつきながらやれやれと呟いた。父さんはとても苦労人さんだった。
「もうつべこべ言わず未治も来い。支度しとけよー」
「・・・・はーい」
そう言って父親も部屋を出た。多分後五分ぐらいしたら支度をすんだ母親が情報を聞きつけてやってくるのだろう。それを考えるとげんなりとしてしまうが仕方がない。これはきっと断れないやつだと心の中の俺が囁いている。
俺は広げていたノートとボードゲームを片し、外出する準備を始めた。自分の机からカメラと少ない小銭の入った財布、それから今日書いたものが載っているノートに筆記用具。それら全てをリュクサックに詰める。それから今日は少し冷えるから最近オキニの黒のパーカーを羽織る。あとはヘッドフォンとそれから・・・・
なんだかんだ言って家族で出かけるのは久しぶりなきがする。別に珍しいというわけではないのだが、だいたい近くのファミレスとかスーパーとかばっかりで少し遠いところに行くことはなかっただけだ。そう考えると自然と悪くないと思う気持ちも出てくる。たしかに両親がラブラブデート状態の中ついてくる息子という図が嫌な気もするが、まぁこの日くらいは許してやろうと思う。
俺は少しだけ笑みを浮かべながら、母親の襲来に先んじて外の庭の車の方へと向かう。
その足はいつもより少し軽かったような気がした。
☆☆☆☆☆
思えば家族の記憶なんてこんなものばっかりだ。母親が死んで、父親が新しい家族と暮らし始めて、俺は親戚と高校一年まで福岡で過ごした。その時期の記憶の方がもっと覚えているかもしれない。内容はまったくもってつまらないけれども。
結局俺はいつも一人だった。一人でいることが多かった。それが家族がいなくなってもっと加速した。学校では授業で話はしても友達とは呼べる存在はいなかったし、ましてや外に出てゲーセンとかカラオケとかもしたりなんてするわけなかった。
ずっと心にぽっかりと空いた何かを埋めるために、ひたすらあの白いレールの浮かんだ世界に行き続けた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
そうしてる時はなにもかも忘れられた。その先を見たいという欲求だけが俺を動かした。そうやっていたらいつしか高一の終わりにさしかかっていたのだ。
俺は、誰かと寄り添った時間があまりにも短いのだと気づいた。思えばそんな時間を過ごしたのは家族とだけだった。それ以外の人たちは、親戚も含めてあんまり覚えていない。
ましてや全くの他人と暮らした記憶なんてものも一度もない。
だからミリエルが最初やってきた時は表に出していなかったと思うが相当戸惑っていた。どうやって接すればいいのか。何をどう言ったらいいのか。そんなことを経験したこともないただの一般的な知識の中で探り探りやっていくしかなかった。幼少の頃の体たらくが今に響いていると言ったところか。そうだとしたら自業自得すぎである。
それをミリエルが気づいているかどうかは知らない。エスパーでない限り直接言ってくれないとそれを知ることは不可能だ。だけどミリエルは俺という存在を受け入れてくれていることだけはわかる。そう、わかっていたのはそれだけだった。
俺は人に頼ることなんてしてこなかった。頼れる人が近くにいなかった。いや、そんなはずはなかったけど俺の中ではそうだった。だから今もずっと一人で何ができるのかって考え続けていた。
それをアイヒスは気づかせてくれた。
頼ってもいいと、力になる、と。アイヒスはそう言った。俺だけではいい策が考えつかなくても、ミリエルとアイヒスも加わって考えれば思いつくかもしれない。
三人寄れば文殊の知恵
まったく、まさか異世界生物に俺の世界の言葉を使って怒られるとは思わなかった。そりゃ笑ってしまうのも無理はないだろう。
とにかく、今はアイヒスが思いついた策を信じるしかない。信じて、ただ任せるのみだ。お叱りはそのあとたっぷり受けてもいい。だから、そのかわり俺たちはみんなで勝利をおさめなくてはならない。
ピカッ!!!!
二つの光は互いに発光した。その瞬間あたりは何度目かの真っ白に変わり、またしても何も見えなくなる。その後凄まじい衝撃と風があたりを巻き込んで、ビルの破片や小さいコンクリート片などがその風で飛ばされる。
俺が確認できたのは、そこまでだった。
それから何がどうなったのかのかはまだわからない。
少なくとも、どこかで俺が気を失ったことだけは記憶していた。
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