第54話魔法使いBravery その23
子供の頃のヒーローショウ。そこで、疾風は憧れと出会った。
とあるショッピングモールの屋上にテントが張られ、沢山の子供とその親が行儀よく正座している。疾風もそれに習ってできるだけ前の方に座る。そうすればより近くでカッコいいヒーローの姿が観れるからだ。
ショウが始まると、お姉さんがいきなり怖い怪人に襲われてしまう。
迫り来る怪人。助けを呼ぶお姉さん。隣で恐怖に怯える同い年の幼馴染。見れば周りの子らも怯えているのか母親に抱きついて泣きながら見ている。
「びええぇぇぇぇぇん!!!はやちゃんこわいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「だいじょうぶだよ!かならずひーろーがたすけにきてくれるんだ!」
「ぐすっ・・・・ほんとう?くる?」
「うん!ほんとうさ!!」
するとステージの左のカーテンが開いた。疾風はそれを絶対に見逃すまいと釘付けになる。
「そこまでだ悪党!!みんな!!この私が来たからにはもう大丈夫だ!!」
赤いマスクをつけたその人の言葉で、泣いていた子達も泣き止んで笑顔で声援を送りながら手を振る。
「がんばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「が、がんばりぇぇぇぇぇぇ!!!!」
疾風も皆と同様にマスクのヒーローに声援を送った。それにつられてまだ半べその幼馴染も一緒に応援のエールを叫ぶ。ヒーローは少しばかり辺りを見回し頷くと、すぐに怪人に向かって飛びかかっていった。怪人はまず下っ端の戦闘員をヒーローにけしかけた。しかしそれらをものともせず、すぐに残るは怪人一人にまで追い詰めた。
だが、怪人はニヤリと笑う。
「なかなかやるな貴様。だがこれはどうかな?必殺!!悪巧み光線!!!」
バリバリバリッ!!!
「何!?ぐ、ぐあああああ!!!!」
追い詰められた怪人が放った一撃はヒーローに直撃し、ヒーローは地に伏してしまった。途端にまた泣き出す子達。親はそれをなだめるのに必死だった・・・・なんであっさり倒してくれないんだよっ!という若干の理不尽を抱えながら。
「はやちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「だ、だいじょうぶだ。まけない!!ひーろーはまけないんだ!!がんばれぇぇぇぇ!!!!」
疾風は応援し続けた。この場にいる他の誰よりも。そうもしないと自分も泣いてしまいそうだから。例えヒーローを信じる心は強くても不安な気持ちが一切ないといえば嘘であった。
疾風は少しずつ目から出てくる涙を隠しながら声援を送った。その声が果たして届いたのだろうか。ヒーローはよろよろと少しずつ立ち上がり始めた。
「・・・・例え、この身が滅びようとも。私は正義の味方であり続ける!!お前という怪人を全て倒すまで私は戦う!!」
「何!?あの技を食らってまだ生きているだとう!?」
今度は怪人が驚かされる番だった。怪人はもうヒーローを倒したと断定して油断していたのである。
「喰らえ!!必殺!!ジャスティスビーム!!!!」
「アガがががががががががががが!!!!」
ボォォォォォォン!!!!!!
爆発音とともに怪人はいなくなった。ヒーローは見事凶悪な怪人を倒すことに成功したのである。
「す、すごい・・・・・」
「はやちゃん!!ヒーローがかいじんやっつけたよ!!!よかった〜!!!」
「うん・・・・」
疾風は幼馴染の言葉に短い返事を返しながら目はヒーローに釘付けになっていた。
弱気を助け、強きをくじく。正義の心と力で悪を倒すヒーロー。疾風はこのころからすでに憧れの対象として疾風の一番大きな存在になっていた。
そのことを知ってか知らずか、ヒーローはステージ上で子供達の、疾風の方にも目を合わせながらゆっくりと話し始めた。
「みんな!怖い思いをさせてすまなかった!!だが安心して欲しい!悪は去った!!もう君たちの目の前にあいつは現れることはないだろう!!」
ここでヒーローは一区切りをつけた。子供達はみんな静かになってヒーローの言葉を聞いている。
「だがいつか君たちの近くにもまた別の悪の怪人が現れるかもしれない!その時君の大切な人が今の君たちみたいに怖い思いをするかもしれないんだ。私もできる限り素早く助けに行きたいところなのだが、・・・・私は無力なのだ。私一人では、全てを守ることはできない」
その言葉を理解した疾風を含む子供達は途端に不安な表情になる。ヒーローは続けた。
「だからその時は・・・・君たちが私のようなヒーローにならなくちゃいけない!!側で困っている人を君たちが助けて欲しいんだ!!それをこの場で君たちにお願いしたい!頼む!私の協力者となってこの街の正義のために戦ってくれないか!?」
怪人と戦う私を応援してくれた君たちなら、必ずヒーローになれる力があるはずだ!
「・・・・はやちゃん?」
疾風はその言葉を自分の中で一生消えない宝物にしようと決めた。
そして目の前にいる幼馴染の顔を見る。
「かな、もしこわいことがあってもぼくがかなをまもるから!ぜったいにかなをたすけてみせるから!!」
ぼくがかなのひーろーになるんだ!!
疾風はこの時決意した。正義の味方として困っている人たちを救うヒーローになりたいと。
そうしたら、きっと目の前の子も笑ってくれるだろうか。
☆☆☆☆☆
「・・・・正義のヒーロー、か」
疾風は歪んだ半異世界の崩壊した街で一人呟く。
目の前には巨大なクレーターがぽっかりと空いており、そこに自らの契約相手を含めた三体のイマジナリーが今も交戦している。すでにあたりのビルは破壊され、アキバは見晴らしの良い場所へと変貌していた。
そしてクレーターを挟んだ反対には、今の疾風にとって最も大きな壁として立ちふさがるクラスメイトが、真剣な面持ちでデモギアを片手に立っていた。
「未治、お前は正義のヒーローに憧れたことがあるか?」
もうすでにデモギアの通信は切れた状態のため、今の疾風のつぶやきに未治が答えることはなかった。それでも疾風は言わずにはいられなかったのだ。あのヒーローショウの思い出が確実に疾風をここまで連れてきてしまった。
もしもあの時ヒーローショウを見ていなかったならば、疾風はここまで極端な正義に歪んでしまうことはなかったのかもしれない。
「・・・・それが悪いかを決めるのはあいつじゃないな」
自分はただ逃げ続けた。どうあがいても越えられない壁が、現実があると知った日から疾風はそれに怯えながら生きてきた。誰かを助けたいと思っていた子供の頃の自分は、今では自分の弱さを隠すために利用しているただの抜け殻にすぎなかったのだ。それを許せないと一番思っているのは、他ならぬ自分だった。
「俺はいつしか、香奈よりも正義のため、自分のためにしか行動していなかった。香奈よりも、自分の立場の方が大事だった。そうやって自分を守ることに精一杯だった・・・・そんな俺なのに、あいつは今でも俺に助けを求めてくれている、のか」
なんて最低なやつなんだろうか。香奈が助けを求めてくれる、その事実が疾風の心を何よりも暖かくしていく。今すぐに行かなくちゃという気持ちが加速する。
"正義"よりも大事な"勇気"を胸に。
「ああ、そうだ。俺はもう逃げない」
例え何を敵に回しても、香奈の笑顔を絶対に守る。
それが大多数の敵になろうとも、香奈が笑顔になってくれるのならば喜んで少数の"悪"になろう。そう、心に決めた。
だから疾風は立ち向かうのだ。目の前の壁に、疾風のために疾風の"悪"であり続けてくれた東条 未治という男に。
「フレア、行くぞ」
『ぬううっ!ようやくか我が契約者よ!!だが良い時ごろであるぞ!!今こそ我が本気の炎を見せる時!!!!』
疾風の合図で、未治のイマジナリーから一旦距離をとったフレアの口から溢れるばかりの炎が漏れ出し始める。街灯もない星空だけの明るさが灯る深夜のアキバの街に煌々と赤い光が明滅する。フレアの周囲ではしゅうっとコンクリートが焼ける音が鳴り始め、その灼熱の暑さが少し遠くへ退避した疾風の近くにも感じられる。
これが渾身の力で放つ、最後の一撃。すでに相手の裏をつくことは叶わず、このままでは消耗しきったフレアが敗北することは必至。残された手は、高火力での圧倒的な殲滅だけ。これが防がれるならばこちらの負けとなる。
戦局は明らかに不利。それでも疾風はこの一手をためらわない。
「・・・・ぶち破れ!!フレア!!!!」
疾風は己の弱さや未熟さを全て吐き出すように、フレアに向かって叫んだ。
全身全霊、灼熱の一撃。
『フレア・ドガ・ノヴァアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!』
ピカッ!!!!!!!!!!!
閃光。衝撃。
フレアの口から漏れ出す灼熱は、フレアの咆哮とともに大音量の衝撃音とともに一斉に解き放たれた。あたりは一瞬で真っ白になり、疾風はその眩しさに目をつぶって何も見えなくなる。
フレアはその膨大なエネルギーを、繰り出す間際に空へと退避したミリエルとアイヒスに向かって放った。
今のフレアの位置は丁度クレーターのど真ん中。
未治の狙いは正確だった。
ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!
『グワァァァァアアアア!!!!』
「くっ!!!!!!!!危っ!!」
突如上空で何かが衝突したような爆発が起きた。それに伴う衝撃と何かの残骸が辺りにばらまかれ、疾風とフレアにも降り注ぐ。そしてフレアの攻撃はその衝撃によって軌道を外れ、辺りは少しずつ夜の暗さを取り戻し始めた。
疾風は少しずつ視界が戻ると同時に、戦慄した。
「・・・・・まじかよ」
上空に漂う、おそらくフレアの攻撃と衝突したもの。
巨大なビルが、残骸となって空に浮いていた。
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