第52話魔法使いBravery その21

「やっぱり予想通りだ。こうやってこちらが本気を出せばお前たちは戻って来ると思っていた」


「はぁ、はぁ、・・・・・ありゃ、・・・誘われたの俺?・・・・まぁいいか。そうしないと・・はぁ、・・はぁ、・・・詰め切れない・・・ゲホッゲホッ・・・からね」


「何でこんなにうちの契約者はしまらないです?」


「いやー、それは未治だからじゃない?」


「ミリエル様の中の師匠っていったい・・・・」


未治は再度疾風と対峙していた。


あの後出来る限り最大のスピードで階段を駆け下りた未治は、さらに重たい足に鞭を打って大通りまでひたすら走った。途中なぜこんな遠くのビルにまで行ってしまったのだろうかと後悔を何度もしながらそれでも必死に走った。


走って走ってようやく大通りに着いた頃にはすでに疾風と自分の異世界生物二人が対峙していた。


疾風は未治の姿を確認すると未治に対してデモギアで言葉を投げかける。しかし日頃そこまで運動していないもやしっ子である未治には、ビルから大通りまでのダッシュはとても過剰な運動でしかなかった。よって今は息切れしながらも疾風の言葉に答えるという図になっている。



「詰め切る、か。お前にはもう勝つための策があるんだな?」


「ふー、よし!・・・うん。さっきようやく思いついたんだよ。そんでそろそろ正面切って戦ってやろうかなと思って戻ってきたわけ」


「・・・・えらく上から目線だな。悪いがお前の好き勝手にはならないぞ。例えお前が俺の思考を読んでいたとしても、このフレアの『狂炎化バーサーク』までは予想してなかっただろう?」


『・・・・まったく。お主らは逃げることに関しては一流ぞ。すぐ気づかなくて余計に街を破壊してしまった』


疾風が話していると、頭に直接響くような声を発しながらフレアが大通りの方へと地鳴りとともに戻ってきた。


体中に灼熱を纏い、不気味に輝く瞳はさらに赤みを増した気がする。翼のあたりからも炎が吹き出し、はためくたびにその勢いは増す。プロミネンスのように回る炎は、規則的に体を回りつつもいつそこを離れてこちらに迫ってくるかわからないほどに見た目の凶暴性を帯びている。


これがフレアの奥の手、「狂炎化バーサーク」。『フレア・ドガ・ノヴァ』に並ぶ『炎帝』フレアの代名詞とも言える形態である。


「問題ないさ。例えバーサークだろうとなんだろうとこちらの策は同じだよ」



「・・・そうか、ならいい。この形態のフレアは常に魔力を垂れ流しているからそう長くは持たない。だから速攻でかたをつけさせてもらう!!」


「っ!え!?もう来るの!?」


疾風の合図でフレアはこちらへと高速で接近する。そのあまりの早さに初動が少し遅れた未治たちは慌ててミリエルに正面で向かい打つように指示し、アイヒスを護衛として自分の横に置く。確かに慌ててはいても未治の指示は的確に最善の対処を選ぶことができていた。


フレアとミリエルはお互いに人間の肉眼で捉えられるギリギリの早さで


『ガァァアアアアアアアア!!!!』


「ハァァァァァァァァアアッ!!!」


ガキンッ!!


接触。


ミリエルの槍とフレアの炎を纏った爪が辺りに衝撃と火花を撒き散らしながら激突した。


『ハハハハハッ!良い!良いぞ次代の"天使"よ!!我のこの一撃を受け止めるか!!やはり伊達に我らの上にいる種族ではないということか!!』


「くっ!!何が楽しいのか知らないけどこのくらいどうってことないわよっ!!」


そう言うとミリエルは槍で拮抗していたフレアの爪を無理やり浮かせてそのまま胴体に向かって槍を振った。


「ハァァッ!!」


キンっ!!


『フン!そんな攻撃ではこの我の本気の鱗は砕けぬ!』


「ぐぬ、やっぱり『天使の迎槍ヴァル・ハラ』は効かないか・・・・」


フレアは槍の攻撃を何もせず受け止め、間髪入れずにミリエルに向かって爪を振るった。ミリエルはそれを仰け反る形で回避しつつ槍とともに一旦後ろに下がる。お互い大したダメージを受けることなく最初の接触は終わった。


「ふう・・・・馬鹿力な上にこっちの攻撃が通らないなんて・・・さすが"龍"ね」


フレアがこうなる前もそうだったのだが、とにかくミリエルの攻撃がフレアには届いていない。唯一ダメージを与えられるとするならばやはり『天使の時代ヴァルキュナス・エラ』しかないのだろう。となると未治の言う通りいつ相手に打つかにかかっている。


『どうした、もう終わりか次代の"天使"よ?こうして一人で我の前に立ったものなどお前を入れて人目なのだ。もう少し頑張ってほしいものなのだがな』


「大丈夫よ。まだ私には力が残っている。むしろあなたのパワー切れの方が心配だわ」


『ほう、吠えるか。ならば我も全力を持って相手をしよう!!』


「のぞむ・・・ところぉぉぉぉ!!!」


そのためには来たるべき時までの時間調が必要だ。決して時間稼ぎではなく、調整が。


・・・・すでに先ほど未治の策は伝えられている。後はそれを信じるのみ。


ミリエルはフレアの繰り出す火炎球に向かって勢いよく突進する。このままだと当然炎に包まれてダメージを受けてしまうだろう。


しかしミリエルは一人ではないのだ。


「『詠唱:氷鳥イセ・ビルド』!!」


『ぬッ!?』


ドンッ!!!!


「はぁ、はぁ、どうだ見たかです!!例えダメージはなくともこうやって妨害はできるです!!」


フレアの火炎球は横から繰り出された氷の鳥によって爆発とともに霧散した。もちろんアイヒスの魔法による攻撃である。アイヒスはフレアに直接魔法攻撃を行うのではなく、フレアの炎攻撃を無効化することに専念するように未治に指示されていた。とは言え、例えダメージにならない威力でも相手の攻撃を無力化するくらいならばとアイヒスのプライドと気合がこの芸当を可能にしているのである。


『おのれ、あの魔法使いめ!』


「私を忘れてないかしら!!」


『なっ!?』


そしてそのままの勢いでフレアの元へと接近したミリエルは、相手の隙をしっかりと無駄にはせずに、槍を思いっきり突き出した。


狙いは胴ではなく、顔。


グサっ!!


『グオオオオオオオオオオオオ!!!!』


「良し!通った!!」


ミリエルは追撃はせずにすぐにフレアから距離をとった。やはり顔面は胴体ほど強度は低いようで、ミリエルの槍の一撃は初めてフレアにダメージを負わせる有効打となった。


『グゥゥゥおのれ油断した!まさかこの我に傷を負わせるとは思わなんだ!!』


「・・・・あの魔法使いが厄介だ。そちらから倒せ。」


『わかっておるわっ!悪いがお前との戦いは後にしてもらうぞ!!』


フレアは疾風の指示で一旦ミリエルを無視してアイヒスと未治がいるクレーターの外へと飛翔した。


しかし、これも未治の予想通りの展開にすぎない。


ボンっ!


『ぬぅ!?今度はなんだ!!』


「悪いけど、こちらには行かせないよフレアさん」


フレアが翼をはためかせ宙に浮いた瞬間に突如としてフレアの目の前が爆発した。その爆発は小規模のためにフレアにとって何のダメージにもならないものだったのだが、その代わりに


『また顔がガラ空きよ!喰らえ!!』


グサッ!!


『グッ!ガァァアアアアアアッ!!!!』


またしてもミリエルはこの隙にフレアの眉間に向かって槍を突き刺した。フレアは痛みで叫び声をあげ、地面に落ちてしまう。


「チッ、今のはなんの真似だ未治!!」


疾風は得体の知れない爆発について未治に疑問を飛ばした。未治はいかにもいたずらっ子がいたずらに成功した時のような笑顔を浮かべて疾風の顔を見る。


「いやーようやく日の目を浴びることとなったよ・・・・・俺のサブウェポンが」


「は?サブウェポンだと・・・・まさかお前!?」


の疾風には心当たりがあった。このゲームにおいて獲得できるポイントを使って行うことは主に二つ。


換金と、それから・・・・


「・・・・はぁ、全く勘弁してよね。私散々言ったわよね?!!の時もそうだけどなんでそんなもの持ってんのよっ!」


アイテム購入である。

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