第33話魔法使いBravery その2

「はぁ〜今日も疲れたな〜」


放課後、俺は帰宅のために昇降口まで一人で廊下を歩いていた。


「今日は疾風も忙しそうだったしな〜」


いつもは疾風が帰りに誘ってくれたりしているのだが、今日のあいつはとても忙しい。


というのも、疾風は運動神経がずば抜けているくせに部活動には入っておらず、帰宅部なのだという。この学校はほとんどの生徒が部活動に所属しているので、同じく数少ない帰宅部同士帰りは一緒のことが多かった。しかし、その才能を持て余すのを各所運動部たちが黙っているわけもなく・・・・時々助っ人として色々な部活の試合に出ていたりするのだ。


今日は確か・・・・バスケ部の練習試合とかだったけか?どうせスタメンのメンバーも驚くような身のこなしでゴールバンバン決めるんだろんなぁ。


「いいなぁ・・・・それに比べて俺は・・」


運動は中の下くらい。サッカーはボール浮かせられないし、野球とか投げる系は変な方向飛ばすし、ラケット競技に関しては度々場外にぶっ飛ばしてしまうのだ。バレーボールはサーブが入らない・・・・これ分かる人いるよね。


結局帰宅部で落ち着いちゃったし・・・というか今は部活どころではないからな・・・・


「はぁ・・・・ただのゲーマーだもん・・・・そんな簡単に人生勝ち組にはなれないよなぁ」


ここ最近疾風とともにすることが多くなり、ますます俺の中の疾風の輝きが増している気がする。嫉妬とかいうレベルではない。もう一周回って普通に接していられるんだよなぁ。不思議だなぁ。はぁ。


「あっ!未治君だー!おーい!!」


俺が一人ため息ついていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


しかして・・・・そこにいたのはダンボール箱だった。


「・・・・いや誰だよ」


「何言ってんの私だよ私〜」


「新手の詐欺かなにか?」


正確に言えば、結構なでかさのダンボール箱4つ分をゆらゆらしながら一人で運んでいる見ていて危なっかしい誰か、が俺に声をかけてきた。


その人は一瞬だけダンボール箱の横から顔を俺に見せることで正体をわからせようとする。


「ほら!私だよ、香奈だよ〜っておわっとっとっと!!」


「危ないっ!!」


俺に声をかけてきた正体ーー南乃花 香奈は、顔を覗かせようとした隙にバランスを崩して転びそうになる。・・・・本人は踏みとどまったものの、俺の懐には落ちてきたダンボール箱が何箱か抱えられていた。


「いや〜ごめんごめんつい勢い余っちゃったよ〜」


「いや、大丈夫だよ。・・・・・・これ、運ぶの手伝うよ」


「えっ!!でもそれ副委員長の私の仕事だし悪いって〜!」


「香奈がこのままだと盛大に転ぶ姿が目に見える・・・」


「あ、いやぁ〜・・・・まだ運び出してすぐだからそんな気もするかなぁ〜」


それにしても香奈は力持ちだな、俺は今ダンボール箱二つ持っているが相当な重さだ。それを最初2倍分持っていたとは・・・・


「香奈・・・・もしかして俺と腕相撲やったら余裕で圧勝だったりして・・・・」


「ちょっとーー!!女子に向かってなんちゅうこと言うんだーーー!!」


「いや、すいません・・・まじもんで口が滑りました」


今のなんとかモノローグになりませんかねぇ!?


「で、これどこまで?・・・」


「いやぁありがとう助かるよぉ〜・・・これ橋本先生のところまで届けることになってるから職員室までお願いね!!」


「了解」


俺は香奈と二人で放課後の人気のない教室を荷物を抱えて歩く。静かな道中だけど、時折香奈がダンボール箱越しに話題を振っていたおかげで終始無言ではなかった。


「未治君最近ハヤちゃんとよくいるよねぇ」


「そう・・・かもしれない」


主に俺への質問が多かった話題はいつしか疾風についての話題へと変わっていた。そして成り行きで俺は今日の昼に起きたことを香奈に話した。


「・・・・ふーん、そんなことがあったんだ〜」


「びっくりだよあいつ。まさか一直線に柵登りだすなんて・・・・普通怖くてできないよ・・」


「・・・・ハヤちゃんはね、昔っからそう言うところあるんだよ・・・・いろんな人に優しくできるの。優しすぎるんだよ、ハヤちゃんは」


ダンボール箱で見えないが、なにやら香奈は少し寂しそうな顔をしているような気がする。


「・・・・何かあったの?」


「別に?私はハヤちゃんが無事ならそれでいいと思ってるから・・・ハヤちゃんはみんなのヒーローなんだから・・・」


(やっぱり、香奈は疾風のことが・・・・)


となると今の彼女の感情に名前をつけるとするならば・・・・きっとーー


「おっ、着いた着いた〜・・・・失礼しま〜す橋本先生居ますか〜」


俺が何かを口に出す前に香奈は目的地である職員室に入っていった。ノックぐらいしろよ。


「ハーイ・・・南乃花さんありがとうね〜ってあれ?東条君じゃない〜」


「あ、どうも先生」


そこで出迎えたのは我らが担任である橋本 美奈はしもと みな先生だった。


黒と茶の中間のような色の髪をポニーテールにまとめ、あまり化粧をしていないように見えるが顔立ちのとてもよいまだまだ若さあふれる美人先生である。身長は程々だがスタイルも良く、外見はスポーティーな感じなのだが性格はおっとりとしている。


そんなギャップを兼ね備えている先生はきっとモテるんだろうな〜とは最初の頃に考えていたことである。ちなみに今は彼氏募集中なのだとか。競争率たかそう。


「そっか〜たまたま通りかかった東条君に助けてもらったの〜、ありがとうね東条君。この子少しおっちょこちょいさんなところあるから〜」


「いえいえ、香奈には友人としていろいろお世話になってますから。本当なんでもできて俺にいろいろなこと教えてくれて・・・・疾風も合わせて本当に感謝してます」


「そうなのよ〜、南乃花さんも浅間君も面倒見はとてもいい生徒たちだからね〜・・・よかったわぁ東条君がクラスに溶け込めてるみたいで〜」


「て、照れるね///・・・・まじかで褒められると言うものは・・・」


俺と橋本先生が香奈をべた褒めするので香奈は身をクネクネしながら照れた顔を浮かべる。


「はい。これで大丈夫です。二人とも重いのにありがとうね」


「いえいえ、これも副委員長の務めですから!!」


「俺もまた手が空いていたら手伝いますよ」


「ええ、またお願いね〜」


俺たちは先生に別れを告げてから職員室を後にした。


香奈はこの後部活に行くと言うので、昇降口まで一緒に行くことにした。香奈の部活はテニス部だそうで、幾度も大きな大会にも出るほどの実力の持ち主らしい。


「本当お前らすげーな・・・超人の域だよ」


「そんなことないよ〜私勉強からっきしだし・・・・副委員長だって人望で勝ち取ったようなものよ!!フフンッ!!」


「いや、そこ威張っていいの?」


香奈は少しおバカさんなところがあるよな。


「ねぇ未治君?」


とさっきまでバカな会話を繰り広げていたが、急に香奈は俺に真剣な眼差しで俺の方を向いた。


「何?」


「ハヤちゃんのこと・・・・少し周りが見えなくなることあるから・・・その時は未治君が教えてあげてくれる?」


「周りが?」


なんだろう・・・・なんとなく香奈が言いたいことがわかる気がするのだが・・・・いまいち全容がつかめない言葉だな・・・・


「うん・・・・ハヤちゃんは頑固だから多分私が言っても聞かないことがあるの・・・でね、そう言う時に限って、ハヤちゃんは一直線に進もうとするんだよ」


香奈はさっき確認できなかったが、二度目の寂しそうな顔をしていたのだと思う。歩きながら話しているけれどその歩幅は徐々に早まっていく。


そして、早まった足取りをくるりと回転させ、俺と向かい合う。


「だけど・・・・これはお願いだけど・・・・ハヤちゃんの友達になってあげて・・・ハヤちゃん未治君の事よく話すんだよ。あいつはいろいろ気が回るやつだーって、だから話してて嫌にならないって、気楽に話せるって」


香奈は俺に向かって深くお辞儀をする。今までこんな香奈は見たことがなかった。疾風のことになると香奈はこんなに必死になれるんだろうな。


・・・・なんだかちょっと照れくさいな。でも香奈がこんなに疾風のことを思って言ってるんだし、ちゃんと言わないとダメな気がする。


「・・・・大丈夫だよ。俺は疾風のこと勝手に友達だって思ってるから」


なんで今香奈がそれを言ったのかはよくわからない・・・・けれども俺は香奈に率直な気持ちを伝えたかった。


疾風だけじゃなくて香奈とも、友達として日々を過ごしたいと思ったから。


すると、香奈は辛そうな面持ちから途端に花が咲いたような笑顔を見せる。


「ありがとう!!さすが幼馴染〜ズの新メンバーだー!!!わかってるじゃねーか〜!!」


香奈はどれだけ嬉しいのか俺の肩をバシバシ叩きながらお礼を述べる。


「あー痛い痛いあんまり俺の肩叩かないで〜」


「アッハハ〜全く、未治君は女の子みたいなやつだな〜」


「ぐっ・・・・それは結構傷つくやつ・・・」


放課後の教室の静寂を塗りつぶす明るい笑い声が校舎内に響き渡る。


・・・・でもさすがに女の子みたいって言われるのはちょっと自分も自覚してるところもあるんで結構自己嫌悪に陥って嫌なんですよ、はい。

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