第28話始まりのその先 その5



それは銀色に光るペンダントのようなものだった。装飾として黒と白の羽が付いている。


「それは・・・・ペンダント?」


「そうよ。"悪魔"の長はこれを『友達の印よ』と言って私にくれたの。それから私とまた遊んでくれるって約束して長は帰っていったわ」


「それ、大切にしてるんだ」


そのペンダントには傷ひとつ付いておらず、よく磨かれているだろう光沢を放っている。ミリエルがこのペンダントを大切にしているのはよくわかった。


「ええ・・・・あれから二度と長に会うことはなかったけれど、それでもあの出会いがあった後私は『天使の時代ヴァルキュナス・エラ』の継承者として頑張ろうとペンダントに誓ったの。きっと他の"悪魔"たちとも友達になれることを願って・・・・・だけどそれは間違いだった」


ミリエルはペンダントを握る手を強めた。


「私は継承者として戦争を経験するうちに沢山の"天使"の集落に立ち寄ったの・・・・たまたまある集落に行った時に見た光景は今でも忘れないわ」


ーーその集落がある日突然、"悪魔"側の遠距離砲撃によって壊滅した。


2種族間の争いは禁じられているものの、。故に"悪魔"は侵略行為はせずに、集落をただ壊滅させるという、言ってしまえばする必要のない嫌がらせを行ってきたのだ。


これに関して『均衡の神』は沈黙を貫いた。ルールには抵触しておらず、どちらも領土を失ったわけではないから罰を与える必要はないと判断したのだろう。神が罰を与えなかったこともあり、"天使"側も報復を行うことはできなかったのである。


さらに"悪魔"は立て続けに『上位特権』なるものを作り出した。これは異世界順位が上位のものが下位のものに領土を奪う以外の危害を加えてもなんの罰も受けないと言う理不尽極まりない決まりであった。・・・だがこれも『均衡の神』は何もしなかった。


これにより"天使"は長きに渡り"悪魔"の嫌がらせに苦しめられることとなったという・・・・


「私は許せなかった・・・・・この砲撃によって沢山の私の大切な"天使"が死んだ・・・・友達になろうと努力していたはずの"悪魔"がなんでこんなひどいことをするんだって、『上位特権』を盾に沢山の嫌がらせをしてきて嫌になって・・・やっぱり"悪魔"は悪い奴らなんだって・・・・気付いた時にはこのペンダントを一度自分の部屋からおもいっきり外へ投げ捨てていたわ」


・・・・裏切られた、か。確かにそう思ってしまうだろう。実際その砲撃に"悪魔"の長が賛成的だったかどうかはわからない。けれど信じていたミリエルにとっては大きなショックになってもおかしくない。


「だけど投げ捨てた後、私はあの時の長の言葉を思い出していた・・・・・あの言葉は・・・確証はないけど、間違いなくなんの裏もないただの本音だった。そう思いなおして、急いで投げたペンダントを探しに行ったの・・・・結局そんな遠くには飛んでなくて木の上に引っかかっていたわ」


・・・・・ミリエルはわからなかったんだ。あの砲撃も、長の言葉も、全部同じ"悪魔"なのだろうかと。もしかすると長は関係ないんじゃないかって今も信じているんだ・・・・


「私は確かめたい・・・・"悪魔"の長に会って聞きたい。あの時私に言った言葉は本当なのかって聞きたい!!そのためにもまずは"悪魔"よりも上位になって『上位特権』をなくさなきゃちゃんと話せない気がするの!!そう思ったから私は自分からも『異世界大戦』に参加したいってサキエル様に言ったの」


ミリエルの体は少し強張っていた。もしかしたらあの言葉は嘘なのかもしれないと考えてしまうのだろう。そうしたらミリエルはどうなってしまうのだろうか。


その時、俺はどう言葉をかけたらいいのだろうか。


ーー私も"悪魔"のことが嫌いだからなのよ


「・・・・・・そっか」


とりあえず俺はそんな言葉しかミリエルに向かって言えなかった。なんだか自分が場違いな気がしたからだ。俺は『異世界大戦』をゲームとして楽しんでいるのに、パートナーのミリエルは強い意志でこの戦いに挑んでいる。


俺たちの間には、決して埋められない大きな谷があるような感覚。


でも、ミリエルはそんな俺を責めたりしない。


「・・・・ごめん未治。こんなつまらない話しちゃって。本当は『契約者』には言わないでおこうと送り出される前に決めてたんだけど・・・・でもなんだか未治には聞いて欲しいと思ったの・・・・・・・未治なら、一緒にいい近道を考えてくれると信じてるから」


「・・・・・そうか」


俺は少し思い違いをしていたのかもしれない。俺たちは二人で色々なものを抱えていけるのかもしれない。それがたとえ重くて、耐えきれないとしても、二人ならなんとか持てるかもしれない。


俺の不安も、ミリエルの不安も、二人まとめて一緒に背負っていけるかもしれない。


「俺もさ・・・・実は親が今いなくてね」


俺は自分の家族のことを話した。母親のこと、父親のこと、そして新しくできた妹のことも・・・・


「・・・・そう。私たち似てるわね・・・何かわからないものを確かめるために未治も日々を生きている」


ミリエルは体を起こして俺の方を向く。そして寝そべっている俺の顔を見て優しい笑顔を浮かべた。


その顔はとても晴れやかで、思わず心臓がよくわからないまま跳ね上がってしまうほどに。


「私ね・・・・『契約者』が未治でとてもよかったと思う。理由はよくわかんないけど・・・・なんだか似た者同士な気がするの」


「さっきから似てる似てるってそんなに?」


「ええ。私と未治は似た者同士よ」


「全然似てないって・・・・俺の方が頭いいし」


「むー・・・そういうことを言ってるんじゃないのよっ」


俺たちはまだ出会って一週間しか経ってない。けれどもすでに家族に近い感覚をかすかに俺は感じていた。


家族みたいに・・・・久々に感じる暖かさ。


それもこれも、似た者同士のなせる技かどうかはわからないけど、ね。

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