第20話天使Beginning correct


「カニの手をやつにぶち込もう」


「は?何言ってんの?」


あれ?今確かに俺はミリエルに策を伝授したというのになんでそんな真顔+半ギレみたいな声出してんの?


「・・・・えっ?・・・・ちょっ、・・ちょっと待って、まさか・・・・今のが作戦内容?」


「だからそう言ってんじゃん」


「はっ・・発想が神さますぎる・・・・」


「いや、何その反応。・・・・それと"発想が神さますぎる"ってなんだよ」


「あっ、・・・・いや〜これは・・・最近若者天使の間で流行してる賞賛の言葉というか・・・・過去の流行の回帰と言いますか・・・」


「・・・・ふ〜ん」


今度使ってみよ。


「それで・・・・まさか説明不足じゃないなんて言わないでしょ。具体的な指示を教えて」


「そう言われても・・・・あのカニのハサミ切り落としてかちあわせたら装甲砕けるんじゃねっていう・・・・」


「・・・・おおう、・・・根拠はあるの?」


「あるさ。あのカニは基本的に攻撃や防御をすべて大きい方のハサミで行なっていたっていうのが証拠だよ。生物は元来、最も使う部位が最も有用に進化していくんだ。となれば自ずと胴体よりハサミの方が硬い装甲を纏っているだろうとは推測できる。つまり何よりの対抗武器になり得るんだよ」


攻撃手段や防御の要が簡単に壊れたらなんの意味もないしね。これはゲームでも戦艦の主砲などのよくあるカスタマイズの一つとして考えられている。なおソースは俺。異論は認めるが実際の戦闘は負けません。


「な、なるほど・・・・筋は通ってるわね」


「でしょ」


「でもそうなると問題はあのカニのハサミをどう切り落とすかってところよね。そう簡単には切り落とせないと思うのだけれど」


「まぁそこはもう俺の策通り動いてもらえればすんなりいけるようにするさ。・・・さて、ここでミリエルに問題。あのカニの最大の弱点は一体なんでしょうか?」


俺はミリエルに問いかける。ミリエルはしばし悩んだ末に恐る恐る答える。


「・・・・機動力の悪さかしら。確かにあのカニは突進も早いし飛び上がったりかなり奇抜な動きも見せたけど、さっき私が背後を取り続けた時は対処が遅かった。それにさっきあなたが言っていたわ。横歩きもできないし


「まぁあらかた正解だよ。正確にはっていうところかな。これは致命的な、大大大弱点だ。」


「背後を取り続ければ攻撃が当たらないから?」


「それもそうだけど、それはこちらが攻撃するときにも言えるよ。カニは片方の、右手の巨大なハサミでしかほとんど攻撃しない。ということは回転は自ずと。となると今後の展開は簡単に予想できる。おそらくあのカニさんは気性が荒い。さっきミリエルに攻撃が当たらなくてとても焦っているように見えたからね。きっとカンカンになって最初は突貫してくると思う。」


「そしたら同じように背後を取ればいいのね」


「いやいや、流石にそれは学んでると思うよ。背後を取られるのがまずいなら敵を正面に捉え続ければいいってね。多分ミリエルが背後を取ろうとしたと同時に回転を開始すると思う。そうすれば勢いの無いミリエルは遠心力の乗ったハサミの不意打ちを避けるのは難しい」


「ならどうすれば」


「そこで俺の出番だよ。ミリエルにハサミが当たる寸前のタイミングで俺が合図するから、その合図ですぐにしゃがんでハサミの後ろに回り込んで。そうすればハサミ、腕の関節の繋ぎ目はガラ空きになる。タイミングはもうばっちりだから安心して。」


「確かに・・・・そうなれば切り落とすことも・・・でも今の私の力で1発で切り落とすことは無理ね。刃は通ると言ってもそれなりに強固よ」


「大丈夫。1発さえ当てて・・・・相手を負傷させれば俺たちの勝ちだ」


「えっ、まだ問題たくさんあるじゃない・・・・」


「その諸々が全部解決するんだよ。俺の読みが万に一つ外れない限りね」


ここで少しもったいぶる。大事なことはしっかり印象に残るように話さないとね。


「・・・・カニは右手の巨大なハサミでほとんど攻守を補っている。使


「・・・・・?」


うーんまだピンと来てないみたい。


「右手はどの部位よりも強固にできている。


「・・・・まだわからないわ・・・左手のハサミが何かあるのよね・・・・」


そう言ってミリエルはうーんうーんと唸りながら悩んでいる。愉快愉快。問題を出す出題者ってこう言う回答者が唸ってるのを見るのが一番楽しいんだよなぁ。


「うーんまぁそう言えなくもないけど、なんというかこれはフィーリング、気持ちの話だよ。・・・・疑問には思わない?なんで左手のハサミは使わないのか。両手の方がもっと多彩な動きができるよね」


「それはそうね。でもそれと気持ちの何が関係あるのよ」


「・・・・結論から行こうか。あのカニは


「痛みを・・・・恐れる?・・・」


ミリエルは俺の思いがけない発言に驚いているようだ。


「よくいるんだ。ガッチガチに固めた防御を持つものはやたらと細かい攻撃に対しても敏感に防御するんだよ。そう言う奴に限って『臆病者』って罵られるのさ」


「そうか、私の槍も右手で防がれていた!!」


どうやらミリエルもいろいろ繋がったらしい。


「そう、だからこそ最初ミリエルが『天使の時代』ヴァルキュナス・エラを打ち込んだ直後に、大した傷じゃなくても追ってくることはなかった。おそらく気が動転していたんだろうね。・・・・それにこの理論は右手が最も強固だと言う証拠にもなる。あのカニは左手の方が右手よりも薄い装甲であると言う理由で痛みを恐れて使わなかったんだと思う」


「そして・・・・そんな敵に一撃さえ有効打を与えられれば・・・・」


「間違いなくカニは平静を保てず、向こうの連携は瓦解する。その隙を着けばいくらでも追撃できると言うことだ」




☆☆☆☆☆





「・・・・さて。ここまで予想通りだ」


俺は静かにつぶやきながら目の前の光景を見つめる。


ミリエルは見事にキングスクラブの胴体を貫き、キングスクラブは今まで以上の咆哮を上げていた。今まで全然鳴かなかったのに今になってうるさいほど騒がしいな。


「そんな・・・・そんな、ありえない・・・・キングスクラブの装甲が破られるなんて」


「破ってはないよ。ただ君たちの自慢の装甲がとても硬いと巷で評判なので少〜し拝借しただけだし・・・」


俺はかなり愕然としているメガネの少年に向かって話しかける。


「まっ!まだだ!!まだ負けたわけじゃない!キングスクラブ!!あの天使を殺しなさい!!早く!!」


「竜巻の攻撃」


「っ!!」


「俺が加わった後キングスクラブは一度も竜巻の攻撃を行わなかった。実は俺が策を練っていた間君は指示してたんじゃないの?」


何も言わなくてもわかる。明らかな動揺を隠しきれてない。


「もともとそうなんじゃないかなとは予想してたんだけど、それで俺は確信したんだ。あのカニは痛みに慣れてないってね」


「・・・・だから、だからどうしたと言うのです!!」


「別に、・・・あれ使われてたら別の策で潰しただけだから。もう終わったことだよ」


「違う!!まだ終わってない!!まだ終わってなんかない!!」


「いーや、もうおしまいだよ。これ以上長引かせたら飽きてしまうからね」


そうでしょ。天使さん。


「・・・・『誓約リミッター』・・・・解除!!!!」


シュイイイイイイイン


黄金の輝きがここら一帯を支配する。まばゆい光が、天使ミリエルのもとに収束し、


『最終兵器』は今、その"誓約"から解放される。


「さて・・・・流石にここまで損傷すればこの一撃でトドメになると思うんだけど・・・・どうかな?」


「あっ・・・・あああっ!!・・・・・ああああああああああああああああああアアアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!!!!そんな!!そんなやだ!!負けたくない!僕は負けたくない負けたくない負けたくない負けたくないぃぃぃぃぃっ!!!!」


すでにキングスクラブは胴体を貫かれ、装甲も大きく破損していた。こんな状態であの光の収束を喰らえば、無事ではいられないのは誰でも想像できよう。


かつてその光を、輝きを、『異世界順位第3位の切り札』を馬鹿にした報いを、今、受ける時。


「チェックだ、メガネの少年。・・・・・・さぁ、お前の弱さ、後悔、決意、全部この天上の光に乗せて・・・」


派手にぶっ放せ。ミリエル!!!


「ヴァルキュナスゥゥゥゥエラァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!」


天使の時代ヴァルキュナス・エラ


どんな世界にいてもその輝きは変わらず最上の光を放ち続ける。あふれんばかりのエネルギーがキングスクラブに殺到し、その肉体を蒸発させる。もはやつぎはぎの装甲は役に立たず、キングスクラブは最後まで悲鳴をあげつつ青い粒子となって存在を消滅させた。


「ふふっ・・・・チェックメイト」


そして最後に俺は、こう締めくくったのだ。

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