第19話天使Beginning その9
「・・・・めちゃくちゃな策ね。こんなの立てる人今まで見たことないわ」
「最高の賞賛をありがとう。それで、撃てるの?例の最終兵器」
「そうね・・・・魔力はあらかじめ貯め直しておいたからこれからほかの攻撃魔法を使わなければあと1発くらいは気合で打てるはずよ・・・・ただ発射の前に数秒の隙ができてしまうわ」
「まぁそれは何とかなるかな。とりあえず撃てるってだけでこの策はしっかり機能する」
「・・・・そろそろ相談は終わりましたかぁ〜」
未治とミリエルが作戦会議をしているうちにしびれを切らしたメガネの少年が問いかける。その顔は先程いいようにやられていた分少しイライラしていた。
「はいはい今終わったよ。待たせて悪いね」
「いいんですよそんなことはぁ〜それよりも早くあなた達を殺したいので早く来てくださいよぉ〜」
メガネの少年の声には多少の怒気が感じられ、未治は苦笑する。
「・・・・もっと冷静になりなよ。指揮官失格だよ」
「っ!、黙りなさいっ!!」
いよいよ激怒したメガネの少年はキングスクラブに突撃を命じる。
「ミリエル、作戦通りに」
「了解」
一方未治は冷静にミリエルに指示を送る。
ミリエルはキングスクラブに向かって走る。そして先程のように背後を取ろうとしてキングスクラブの突進を躱す動きに入る。
しかし、流石にキングスクラブも学習したのかミリエルが背後に回ろうとすると同時に自分も回転してミリエルを自らの正面に捉えようとする。そしてミリエルに向かって回転の遠心力によって威力が上がった巨大なハサミを振り降ろす。
「・・・・今」
だがミリエルはすでにある動作を行うタイミングを待っていた。故に、未治の合図が聞こえるとすぐにミリエルはハサミが自分に触れるすれすれで勢いよくしゃがみ、キングスクラブのハサミをやり過ごす。
そしてミリエルは『
ザシュ!!
「シュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!」
ここで初めてキングスクラブは発声する。ミリエルが切りつけたあたりからは緑色の液体が漏れ出し、来るはずのない痛みに悶えている。
「どう?痛いかしら?・・・・私を散々痛めつけたお礼よ」
ミリエルは明らかにキングスクラブに有効打を与えたことに思わず頬が緩む。
(・・・・全部・・・未治の予想通り・・・)
ここまですべて、未治が予想した通りになった。ミリエルはもはや未治に対して絶対の信頼を向けていた。
(これなら・・・・勝てるっ!)
「ハァァアアアアアアッ!」
悶え苦しむキングスクラブに向かってミリエルは追撃の一撃を加えるために接近する。キングスクラブは即座に対応できず、もう片方の小さいハサミを使って防御するので精一杯だった。
実のところキングスクラブは装甲の硬さ故に明確なダメージを負ったことが今までなかったのである。だからこそ先程の一撃はキングスクラブにとって耐え難い痛みとなり、こうして対応を鈍らせたのである。
未治はこのパターンを一度ゲームで経験していた。ガッチガチに固めた装甲戦車はその硬さゆえに戦場では無敵を誇るであろうが、一度その装甲にヒビが入ってしまえば、それはただ重いだけの鉄くずになってしまうのだ。防御力に絶対の自信があれば、なおさらその後の対処は遅れてしまう。
ザシュッ!!ザシッ!
「シュロロロロッ!ロルルルルレルレルロロロロレレレロロロルルルロッ!!!!」
ミリエルは先程傷をつけたところにさらに二撃斬りつける。キングスクラブは再度悲鳴をあげて必死になって暴れまわった。ミリエルはこれ以上は無理かと一旦退がる。
「キングスクラブ!静まりなさい!!何をしているのです!私の話を聞きなさい!!」
「ムダだよ。カニさんは痛みを知らなかったんだ。初めてとなるとかなりのストレスになっているはずだよ」
激昂するメガネの少年に未治は語りかける。
「うちの天使はね、単独での戦闘経験はなかったんだ。だから君たちの浅知恵でも倒せるところまではいけた。だけど彼女のポテンシャルが最後の最後まで倒せないに至ったんだ」
「・・・・何を行っているのですかぁ〜?つまりあの天使は無能だと言いたいのでしょう〜?」
「違うよ。君も見てたでしょ。ミリエルは兵士としてはとても優秀な駒だよ。彼女は槍での攻撃のほか、一点突破の最終兵器、そして魔法も結構使えるらしい。それに飛行も可能だ。・・・・彼女一人で多彩なことができるんだよね 」
「・・・・なんなんですか?何を言いたいんですかっ!!」
「まぁまぁそう怒らない・・・・まぁつまりは、俺みたいな指揮官さえいれば、ミリエルは最強のバランスファイターになるってことだよ」
「これでぇ〜最後だぁぁぁぁあああ!!」
ザシュッ!
ゴトッ
「シュるるるるるるるるるるるるううううううううううううううううううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
ミリエルは暴れているキングスクラブの隙をついて同じ繋ぎ目に三度目の渾身の一撃を見舞う。そしてついにキングスクラブの巨大なハサミは切り離され、地面に大きな音を立てて落ちた。
「バカなっ!!キングスクラブの腕がっ!!」
「やっと落ちたか・・・・」
未治はさも当然のことが起きたかようにつぶやく。
「これでわかったでしょ。ミリエルには事前に暴れた時の隙のつき方を指示している。大体勢いは長く続かないから疲れた一瞬を狙えって簡単なことをね。・・・・ミリエルは完璧な指示さえあれば力が半減されてようがあのカニなんて到底及ばない力を持っているんだよ」
「そんなの・・・・そんなの認められるわけないでしょう!!!!」
メガネの少年は吠える。
「たっ、たかが腕を一本もぎ取ったところで僕のキングスクラブは止まりませんよぉ〜!!!そのまま蹂躙しなさい!!キングスクラブ!!」
キングスクラブは痛みが麻痺したのか正気を多少は取り戻していた。そして
「・・・・ふふっ・・・たかが、ね」
未治は、なぜか小さく笑う。
「・・・・なぜ笑うのです?・・・なぜ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜぇぇぇぇぇ!!!!!」
「いや、ごめん。これから楽しくなるんでね」
『未治。これ本当にやるのよね?』
未治が怒りの底を突き抜けるメガネの少年をなだめている?時、ミリエルが多少は通じるようになった念話魔法を送ってきた。その声はなんだかうんざりしているようにも聞こえる。
『何言ってるの?やるよ、ほらそれ持って。今君が切った新鮮なカニバサミ』
『・・・ええ、本当に私これ持たなきゃいけないの・・・・うへぇ〜生臭い』
そう言ってミリエルは今自分が切り落としたハサミを渋々抱え上げ、キングスクラブに向けた。
「・・・・・なっ!なんのつもりですか!?」
「ほら、君最初の方に言ってたじゃん」
今も迫るキングスクラブは止まらない。そのままミリエルに直進する。一方ミリエルは息を一つ吐くと最初に見せた音速を超えた突進をハサミを抱えながら行う。
両者が激突した時、果たして何が起こるか。
「『しかし君が加わったことで何も変わりません。このキングスクラブの装甲を壊す手でもない限りね』・・・・だったかなぁ〜?」
「・・・・まさか・・・・ありえない・・・・」
ガキィィィィィィィン
激しい火花と装甲の破片が散りながら両者は激突する。しかし、それもながくは続かなかった
パリ、バリ、バリバリバリバリバリバリ
ガッシャぁぁぁぁぁぁぁぁアアアンッ!!!
「・・・・攻撃や防御のためにほとんどこっち使ってたんだから、まぁ体の各部位よりは一番硬いのは当たり前だよね」
ミリエルが抱えた巨大なハサミは、音速を超えた速さも相まって、キングスクラブの胴体を装甲含めて貫通したのであった。
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