序章

第2話 プロローグ〜片鱗 その1〜

「作戦通り各部隊配置が完了致しました」


「よし、作戦は計画通り進める。各自進行用意!」


「「「「ラジャー」」」」


青い空と青い海。曇のない快晴。


まるで鏡に反射しているかのように青が一面に広がっている。


太陽は遮るものがなく、暴力的なまでにその光をこの大海へと落としている。


陸地のない、真っ青な海。


そんな海に今5隻の船・・・・とても巨大な戦艦が波に揺れていた。


色は黒。太陽の暴力によりその黒さをさらに輝かせている。それぞれの船の上には四角い筒のようなものがいくつも付いており、いかにも戦闘しますよと言わんばかりの、誰が見ても立派な戦艦。それが5隻も何もない海に佇んでいるという異様な光景がそこにはあった。


その五隻は今、扇を描くように配置され、戦闘の開始を今か今かと待っていた。


扇の中心。この隊を指揮する船の中にこの隊のリーダーであるジャックはいた。ジャックはこの戦闘の想定を何度も脳内シュミレートしながら、目を閉じ精神を集中させる。起き得るべき事態を想定し、それがこの作戦を妨げるか否かを長年の勘で分析する。


彼が率いる戦艦部隊はその巨体を生かした突進を得意とする攻撃的な部隊である。向かってくる敵も、その巨大さに恐れをなして距離を取る敵も、御構い無しに押しつぶす。蹂躙する。五隻が通った後の海には粉々になった敵戦艦が残る。実にシンプルであり、合理的な作戦である。


実際この部隊は実績を積んでいる。勝率も8割を占め、「難攻不落の部隊」とも呼ばれるほどである。


ジャックはあらゆる想定に対処するシュミレートを終え、目を開ける。そして今五隻の目の前に浮かぶ敵を観察する。


「・・・・なぁ、ジャック。あいつ本気なんだよな?」


「・・・・どうやらそのようだ。あいつは私たちに勝つと宣言している。」


部下からの通信にジャックは思案しながら返答する。


「でもよぉ・・・・流石に俺たちを舐めすぎだろぉ・・・・に対して相手は・・・・だぜ」


それを聞いてジャックはまぁそう思うのも無理はないと心の中で思う。


そう、この五隻の今回の相手はなのである。色は灰色。一応は戦艦タイプの船であるが、積んでいるものも箱状のものが一つととても頼りない。ジャックが乗っている船とは大きさは大人と子供の差以上あるだろう。普通、そんな船がこの部隊の進行を受ければおそらくなすすべなく海の藻屑と消えるだろう。


負けることなど、あり得ない


「だが、相手は決して侮っていい相手ではない。あらゆる自体に対する対応を考えなくてはならないほどな・・・・」


「そうだけどよぉ・・・・」


部下は納得してないような返事をするが、それも事実であることは本人もわかっているはずだ。油断は最大の罠であり、勝利が遠のく唯一の要素となる。しかもその相手は指揮官である。長年の経験ですら予測できない事態が起こっても不思議ではない


「隊長、時間です」


「・・・・考えても仕方ない。やることは一つ!前進あるのみだ!」


「おう!そうだな。あんなチンケな船、すぐに沈めてやる!」


もう一人の部下の静かな報告により、ジャックは思案顔をやめ、自分を奮い立たせる。先ほど不満を述べた部下も士気は高い。


ジャックは各隊のメンバーの名をそれぞれ呼ぶ。


「スペード」


「おう」


「クラブ」


「はい」


「ハート」


「うん」


「ダイヤ」


「・・・・はい」


「各隊に告げる。敵戦艦は小舟一隻。しかし油断はするな。慎重に敵の位置を確認し、蹂躙しろ。」


「「「「了解」」」」


「進行、開始!」


ジャックの合図で五隻はスピードを上げつつ扇のまま進行を開始する。


一方、小舟の方は五隻が進行を開始しても一歩も動こうとはしない。迫り来る波が大きくなり、船体が激しく揺れ出す。影の色もだんだん濃くなっていく。それでもこの船は動こうとしなかった。


いよいよ五隻の船は30秒後には各種遠距離攻撃が届く距離まで接近した。もうここまでくると扇型の陣形の中に入ったも同然だ。一度入ってしまえばもう抜けられない。小舟はカゴの中の鳥だ。


だがここで小舟はようやく動き出す。


「隊長、小舟が動き出しました」


「そうか・・・・後退でも『まってください!』・・・・どうしたハート」


・・・向かってきます・・・・」


それはジャックでさえも驚くべきことだった。前に進めばこの五隻の餌食になることは確定事項だ。そのためのこの陣形なのだから・・・


考えろ・・・・考えるんだ。なぜわざわざ死ににいくような選択をするのか。自殺か?いや、違う。あの指揮官はそんな簡単に諦めるようなやつではない。あいつは勝つと言ったのだ。敗北を認めることはあり得ないだろう。・・・・となると、あるのか?この陣形を破る手は。我々の理解の及ばない策が・・・・・・・・


「隊長!どうする?」


「っ!いい!このまま進め!」


ジャックは思考をやめ、突き進む道を選ぶ。たとえこの陣形から逃れるすべがあろうともこちらの有利には変わらないと判断したからだ。かわされようともまた同じことをすれば良い。そうすればいずれは捕まえられる。


「・・・・隊長、弾が当たらない・・・・」


「問題ないダイヤ、あの小ささは当てるのも難しいだろう。牽制程度に使え」


小舟は小回りが利くようで、先ほどから遠距離攻撃を行ってはいるがうまくかわされている。そうこうしているうちに互いの距離はもう少しで衝突しようかというところまで来てしまう。


「隊長。まもなく衝突します。」


「了解だクラブ。いいか、隙間を作るなよ。この一撃で終わらせるぞ!」


「衝突まで・・・3・・・2・・・1・・・衝突します!」


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