第3話プロローグ〜片鱗 その2〜
接触。
五隻の船は先ほど小舟が走行していた地点を確かに蹂躙した。そのスピードは落ちることなく小舟程度では当たったかすらレーダーでないと判断できないほどだ。小舟によって起きた波は一瞬のうちに逆転し、大きな波の一部になる。小さな緑地が突如天災で更地になる光景と似た現象が、この大海で起こった。
「隊長!どうだ!やったか!」
「・・・・スペード、それフラグ・・・・」
「私の船も手応えはありません。」
「僕もなかった・・・・」
「手応え・・・・なしか・・・・」
予想はしていた。だがあり得ない事態だ。例え船と船の間を通ろうとしても、あの船ですら通れないほどの隙間しかないはずだ。通り抜けることはできない。できない・・・はずだ。ならどうやって・・・・
「各隊!旋回用意!」
ジャックは次の行動に移る。扇型の陣形は次第に崩れ、それぞれの船が大きく旋回する。方向転換して再度突進を行うためだ。これは万が一初撃目で相手の船が沈められなかった時の対処行動であり、作戦の中の想定に組み込まれている。もしこれで仕留め損ねても次で終わりだ。
「隊長、レーダーによる反応ありません!」
「何!まだこの戦闘は終わってないはずだ・・・・どこに・・・どこにいるんだ」
「くそっ!のこのこ隠れやがって!」
しかし小舟を見失ってしまう。これでは次の進行の狙いがつけられない。ジャックは即座に見つけるよう指示する。それと同時に各船は旋回を終え、先ほどとは逆の向きに扇型の陣形を作った。統率された動きは、例え敵が捕捉できていなくともうろたえることはないという強い意志を感じる。冷静に対処し、敵を殲滅する。そのことに関してこの部隊はとても優秀なのである。
しかし、彼らはミスを犯した。この「敵が捕捉できていない」という事実を重く見るべきだった。得体の知れない感覚を覚えて旋回せず一旦後退すべきだった。あんな小さい船が何倍もある戦艦に効果のある攻撃を加えることはできないと、心の片隅にある油断を拭い去ることはできなかった。
皆が周知のことわざにこんな言葉がある。
窮鼠猫を噛む。
ドォォォォン ドォォォォン
ドゴォォォォォン
ドオオオオオオオオン
バッシャアアアアアン
「っ!なんだ!何が起きている!確認を急げ。」
「隊長!地雷です!海の中に大量の地雷が仕掛けられています!」
「そんなことはわかっている!奴は地雷を使った戦法を得意としている。しかしなぜ特定できなかった!レーダーは機能していたはずだ!」
「それが・・・・」
「くっ!今はいい!お前らむやみに動くな!霧が晴れるまで進行を中止しろ!」
爆発によって盛大に吹き上がった水の柱は、今一時の霧となって五隻の視界を塞ぐ。このまま進めばお互いの船同士が衝突してしまう恐れがあるのでジャックは即座に停止を命令する。
「・・・・やられた。あいつの後ろにこんなに事前に仕掛けられていたとはな」
「これはあり得ないことですが・・・・おそらくレーダーで捕捉されない素材で包み、さらには攻撃目的の爆発ではなくただ水を暴発させてこの霧を作るための材料のみを使い、爆薬探知からも逃れているかと」
「そういうことか・・・・忌々しい手を使いよる!」
ジャックはまんまと出し抜かれたことに屈辱と敵に対する頭脳に敬意と嫉妬を送る。あれだけ難攻不落とされたジャックらの戦法がいとも簡単に崩されてしまい、ジャックは早急に打開策を要求させられたのである。
だがもう遅い
「ウワァァァァアアアアッ!」
「っ!どうしたスペード!」
「・・・・くそっ・・やられた!奴は海の中だ!下から魚雷で脆い部分をやられた!」
「なん・・・・だと!?」
海の中!?つまりあの船は
「潜水艇だったとでも言うのか・・・・」
「キャアアアアッ!」
「っ!ハート!・・・・敵は海の中だ!霧も晴れつつある今がチャンスだ!各自散開して囲め!」
「グァァッ!・・・・ダメだ隊長・・・・俺は沈む・・・・」
「スペードっ!・・・・くっ!だが一度散開してしまえば・・・・」
五隻の船は一旦散開し、小舟もとい潜水艇を囲んで殲滅する方針を立てる。
しかし潜水艇は散開する船の軌道上になぜか待ち伏せしており、次々と魚雷を打ち込み、ダメージを与えていく。
「グゥッ!・・・・なんで・・・・なんなんだよ!・・・・さっきはスペードを落としたはずなのにどうしてもうここまで来てるんだよ!」
「・・・・読まれてる。・・・・私たちの船の軌道が・・・・寸分たがわず・・・・」
「そんな・・・・相手だって霧の中で見えないはずなのに」
ジャックの部下たちは小舟の不気味さに士気を完全に失ってしまった。彼らはこの攻撃から逃れるためにバラバラに散ったはずなのに、必ずその小舟は正面に待ち伏せしていて、決定打を叩き込んでくるのだ。
心が読まれているかのごとく、正確に。
小舟はあっという間に部下たちを戦闘不能状態にまで追いやってしまった。もはや為す術はなかった。こちらの攻撃に対してそれを全てかわされ、逃げようとしてもすぐに見つかってしまう。先ほどまで檻を形成していた五隻は逆に霧の檻に閉じ込められてしまった。
「クソッ!クソッ!クソッ!」
連続して流れる部下の戦闘不能の報告をジャックは冷静に聞くことはできなかった。あまりにも一方的すぎた。圧倒的すぎた。
「見誤っていたんだ・・・・奴は・・・・あの指揮官は・・・・・本物の化け物だ!」
その時、化け物は現れた。
静かにジャックの船の前に現れた小舟はとても大型戦艦4隻を沈めたとは信じられない、本当に、ちっぽけな、ただの船だった。
だがジャックは認めてしまった。
こんな大船一隻じゃあこの船と渡り合えるわけがない、と
「全く・・・・・無敗の名は伊達ではない・・・か」
ジャックはその言葉を最後に船とともに海に沈んだ。
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