第33話
その夜に見た夢は本当にひどいものだった。
我が家から両親が出ていったその日の夢。
あの日彼らは、俺と姉貴の在り方を否定した。
どのような語彙で、どのような表現で。彼らがその意味を吐き出したのかは覚えていない。
ただ結果的に俺は、両親の腕を一本ずつ折ってしまった。それで彼らはこの家を出ていった。
後から聞いた話だけど、当時妊娠していた母は、それがきっかけで流れてしまったとか。
それこそが俺の罪。俺が殺したひとつの命で。
「みずくんは色々なことを難しく考え過ぎなんだよ。自分に許せない部分が他人にも許せなくて、他人に許せない行為が世界中にも許せない。って、そんなふうに自分自身の世界を意味なく窮屈にしてる節があるよね。
強い言葉や厳しい枷を使うことで外向きの殻を硬く細やかにしていれば、いずれは中身の方も釣り合うような強さを手に入れられるはず、ってたぶんそんな考え方をしてるんだろうけど、でもそれは順番が逆でさ。本当のところ、人ってのは弱い中身を守るために強い約束を結ぶんだよ。そんでもって約束ってのは一人では行使することができないものだから、人はそれぞれ他の誰かと一緒に、自分たちの弱い中身がこの激しい世界でも生き抜いていけるよう、殻を作り合うんだよ。ここまでが今日の私達の境目。あそこからは明日の私達の境目、って具合にね。世界を細切れに分け合うんだ。そうでもしなきゃ、私達は自分自身の形さえ上手く維持することが出来なくて、いつかこの世界へと、どろどろに溶けていってしまうんだから。
だからね、みずくん。君もいつかは誰かとともに生きて行くという相互行為のサイクルへ戻って行かなくてはならない。でもせめて、そんな誰かを見つけられるまでの間は」
お姉ちゃんがあなたの殻になっていてあげるからさ。
と、そんな夢を見た。
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