第24話 探偵紛い

 一先ずはアヤメとルネと共にペロと白虎に連れられ医務室へと向かった。


 とはいえ、個室か。まぁ、巫女の姫というのなら良い身分なのだろう。


 ペロは二度ノックをして部屋の中へと入っていった。


「姫! 姫を救ってくださった方々をお連れしましたぞ」


 次いで中に這入れば、ベッドの上には黒い猫耳を付けた透明感のある白い肌の少女がこちらに視線を向けてきた。


「ペロー、病室で騒いでは駄目よ。初めまして――私は大樹と精霊の巫女、ミコと申します。ウッドビーズを救ってくださったようで、ありがとうございます」


 自分のことよりも、まずそっちに対してお礼を言うのか。


 促されるようにベッドの横に並べられた椅子に腰を下ろすと、巫女の姫の視線は俺の頭に向かっていた。


「……まぁ、とりあえず無事で何より。とはいえ俺たち――いや、まずは自己紹介が先か。俺はマタタビ。こっちは」


「アヤメです」


「私はルネです。よろしくお願いします」


「んで、俺とアヤメ――本当はもう一人いるんだが、その三人はこの世界を救うために召喚された別の世界の者だ。だから、何か訊きたいことがあればルネのほうに頼む」


 掌を向けてみたが、巫女の姫の視線はこちらに向いたまま自らの頭にある猫耳を確かめるように触れた。


「……貴方が、私の呼び掛けに応えてくださったのですか?」


「呼び掛け? ああ、あの気配のことか? だとしたらそうだが、俺だけじゃない。ペロと白虎も気が付いていた」


「それでも、私は貴方に感謝すべきだと思うのです」


「まぁ好きにしろ。それに、元はと言えばあんたが気配を辿るように仕組まなければウッドビーズの住人にも、リバーエッジで捕らわれていた人々も発見できなかった。むしろそちらのほうがお手柄だな」


「いえ、そんなことは……」


 謙遜するように目を伏せる巫女の姫――ミコだが、有能であることは間違いない。ウッドビーズは未だしも、リバーエッジでは見事に機転を利かせたと言えるだろう。


「それで、二人はリバーエッジに戻るのか?」


 問い掛ければペロとミコは目を合わせて示し合わせたように頷いた。


「戻りません。私とペローはここで皆様の力になることを決めました」


「吾輩は騎士として力を貸し――」


「私はこの癒しの力で傷付いた人々を救います。ルネさん、話を通していただけますか?」


「はい。もちろんです」


 ペロの戦力は大きいし、治療できる者は一人でも多いほうが良い。この国にとっては良い話だな。


「じゃあ、話は付いたってことで。俺たちは行くよ」


「マタタビ殿、吾輩は――」


「今は一緒に居てやれよ。その巫女の姫さんだって」


「ミコ、とお呼びください」


「……ミコだって、今は休んだほうがいい。ペロも、何かあればまた力を借りることになるだろう。だから、傍に居てやれ」


「感謝、である」


 そしてペロを残して部屋を出ると、ルネもミコについて報告に行くと別れた。


「アヤメはどうする?」


「私は……少し休みますわ。考えなければならないこともありますしね。マタタビは?」


「俺は調べることがある」


「そう。では、また夜にでも」


 去っていくアヤメを見送って、横にいる白虎の頭を撫でながら静かに溜め息を吐いた。


「ツヴァイ。いるんだろ?」


「――はい」


 背後から現れたツヴァイは随分と気配を消すのが上手くなったらしい。もしくは今までが気配を隠すつもりが無かったのか。どっちでもいいな。


「殺された師団員の死体が見たい。案内してくれるか?」


「死体、ですか……わかりました。デーモンの死体は焼いてしまっていますが、師団員のものは身元を調べるため一か所に集めているので、そこに行きましょう」


 この場合、死体を回収したり死んだ者の身元を調査することは、元の世界で同じことを行う理由とは違うのだろう。おそらくは戦力調査だ。誰を失ったのか、どれだけの戦力が失われたのか――残存戦力を知ることは、次を生きることにも繋がる。多分、そういうものだ。


 連れられてきたのは国を囲む塀の外に作られた安置所。探偵紛いのことをするつもりはないが……思った通りだな。


「師団員、と……タナトスの死体はどこだ?」


「あちらに」


 離れた場所で、棺に納められたタナトスの死体を見たが――余計に疑問が深まった。


 その一、師団員の死体は燃えていない。ということはジュウゴは川を蒸発させただけで死体は燃やさないように気遣ったのだろう。もしくは気遣う以前にデーモンとの戦いに熱中していたか。


 その二、師団員はそれぞれ違う方法で殺されている。おそらく騒乱のグランの名の通り、ジュウゴを裏切らせたのとは違うやり方で殺し合いをさせたってところじゃないか? 確信は無いが可能性は高い。


 その三、問題はタナトスだ。操られたとしても師団長のタナトスを殺せる実力がある師団員はいないだろう。なら誰が殺したのか――裏切り者、か。


「ツヴァイ。フィルドブル側の指揮官は誰だ?」


「リブラ様です」


「リブラか……」


 誰がどういう力を持っているのかわからないからなんとも言えないが、少なくともリブラの持っていた剣の切り口と同じようには見える。しかし、だからといってリブラが裏切者でタナトスを殺したと考えるのは単純すぎる。


 つまり、現状でわかるのはタナトスは同じ人間に殺されたということだけ。だが、それはまだ教えないほうが良いな。……俺たちを殺しに来てくれりゃあ早いんだが。


「ま、そういうわけにもいかないか」


 独り言のように呟いて白虎、ツヴァイと共に塀の中へと戻ろうとすると目の前から掛けてくる人影に気が付いた。


「お~い、救世主! 救世主マタタビ!」


「ん? ……ああ、誰かと思えばキャンサーか。どうした?」


「どうした? じゃないだろう! さっきは気が付かなかったが聞いたぞ。作った武器、壊れちまったのか?」


「ああ、そういえばそうだったな」


「まさかあれが壊れるとは……残骸は?」


「粉々だったから捨ててきた」


「捨てっ――まぁ、良い。壊れた原因に心当たりは?」


「耐久力不足ってところだろうな」


「耐久力? 普通の武器の五倍は頑丈なはずだぞ?」


「名持ちのデーモンの攻撃を受け続けたせいじゃないか? まぁ、とりあえず籠手と棒状に変化するのは重宝したよ」


「名持ちの攻撃には耐えられなかったか……わかった。また新しくより頑丈な武器を作るとしよう!」


「よろしく頼む」


 去っていくキャンサーを見送り、振り返ればツヴァイは姿を消していた。


 ……それぞれにやるべきことがあるのだろう。


「そんじゃあ、俺たちも一眠りするか、白虎」


 考えることが多過ぎる。一眠りして、頭の中を整理することにしよう。

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