この嘘だらけの世界で私は生き抜くと決意した

@q000

虚構のフォルトゥーナ1

チュンチュンチュン

窓の外でスズメが鳴いている。

「もう朝か・・ふぁぁぁぁぁ・・」

気怠そうにあくびをして私、姫宮雪は静かにベットから起き上がる。

時刻は6時38分

家を出るには早いが二度寝するには少し遅いといった感じだ。

「さて、今日も一日頑張りますか!」

いつもよりゆっくり着替え、顔を洗い終わりリビングに向かうとまだ朝食はできていなかった。

「あら珍しいわね、あんたがこんなに早く起きてくるなんて」

母が手慣れた動きでソーセージを焼きながら意外そうに言った。

「そう?」

「いつもは登校時間ギリギリじゃない。今日は雪でも降るかもね」

「ははは・・雪だけにね」

実はあと2,3回遅刻すると両親に連絡がいくほどの遅刻常習犯であることは口が裂けても言えない。

「もうちょっとでできるからニュースでも見てなさい、あんたろくに新聞も読まないんだから」

「たくっ、うるさいなぁ」

「ん?なんか言った?」

「いえ何も」

テーブルの上のリモコンを取りテレビをつけると燃え盛る住宅地が映されていた。

現地リポーターが慌ただしい様子で現場の状況を伝えていた。

最近この東都で頻発している連続爆弾魔の仕業らしい。

都市の南側にある、他の都市と私たちの住む東都を結ぶ南門周辺で2週間前から起きているこの事件では

死傷者こそ出ないものの、その爆弾の威力から南門周辺は政府。

「おぉ怖い怖い・・まぁ東ブロックに住んでる私にはあんまり関係ないけど」

名古屋は10年前に起きた大規模な災害により、街が大きく作り変えられ今のように東西南北を

16のブロックに分割されている。・・・らしい。

「らしい」というのは私が歴史の授業をまじめに受けていないことも関係しない訳でもないが

この都市に住む住人の多くが10年前より以前のことを全く覚えていないからなのだ。

10年前の災害によって10万以上の人間が亡くなり、そのショックによる人々のトラウマを消すために

政府が行った記憶消去手術によるものらしい。

今はもう災害の傷跡すら残っておらず、災害についての詳細は一般人には公開されていない。

「まぁ、記憶消すほどのトラウマ残すんだからそりゃ教えたくないだろしなぁ」

「何の話?」

「うわ!」

珍しく深く考え込んでいたからか、目の前にいる母親に気づかなかったらしい。

「母親の顔見て驚かないでちょうだいよ。そんなに美人だった?」

「ノーコメントで」

「ったくこの子は・・まぁいいわ朝ご飯できたから食べちゃいなさい。」

「はーい」

卵焼き、ソーセージ、サバの味噌煮、ご飯

テーブルに並んだ朝食は決して豪華と言えないがどれも私好みのものばかりだった。

「「いただきます」」

そんなに急いで食べる必要はないのだが、いつもの癖なのか食べ始めて10分後にはもうほとんど

食べ終わってしまった。

(食べ終わってもすることないしなぁ・・・)

「あのさ、お母さん聞きたいことがあるんだけど」

「何よいきなり。若さを維持する方法?」

「いや、違うし。10年前の災害ってどんな感じだったのかなって」

先ほどまでの疑問を母親に尋ねてみることにした。

別に母親に聞いてどうなるものでもないことは分かっている。

明確な答えを求めるというよりは、時間潰しの雑談の意味合いが強い。

「そうね・・・」

軽く返答すると思った私の予想はきれいに裏切られ、母はいつになく考え込んでいた。

(あれ?なんかまずい感じ?)

考え込む母の顔はどこか悲しみに満ちているようだった。

まるで失った何かを後悔するかのように

「あれは・・そうね、ひどいものだったわ。大勢の人が亡くなったし、私たちも逃げるのに精一杯で

それであの人は私たちを庇って・・・」

あの人というのは父のことだろう。

記憶消去のせいで覚えてはいないが、きっと勇敢な人だったのだろう。

母はあまり父について多くを私に語ろうとはしない。

「ご、ごめん・・なんか変な話しちゃって、連続爆弾魔事件のニュース流れてたからちょっと昔の災害のこと気になっちゃって」

気まずい空気になりそうなので私は朝食を一気にかきこんだ。

胸がうっ、とつまりそうだったがそれどころではない。

「じゃあお母さん、私今日日直だがらもう出るね!」

バレないほうが不思議な嘘を残して私は玄関を飛び出した。

あと少しでもあそこにいたらきっと母の泣き顔を見ることになっただろう。

「早起きしてもろくなことしないな私は・・・」

家の前の道に出るとそこはいつも通りの日常だった。

通勤するサラリーマン。イチャイチャした学生カップル。暇そうな大学生。

仏頂面で散歩するおじいちゃん。

どれもいつもと変わらない日常だ。

「今日も平和だ。」

帰りに母の好きなケーキでも買って帰ろうかななどと考えながら私はいつもよりゆっくりと

通学路を歩くのだった。

7時30分

東都第三高等学校 2-1

都内中間の偏差値を誇るここ東都第三高等学校はいい意味でも悪い意味でも目立たない。

有名大学に進学するほど頭のいい人間もいないし、逆にぐれて不良になるほどの馬鹿もいない。

みんな至って平均的な高校生だ。

そんな平均的な高校の1教室でに私こと姫宮雪はいた。

「あれぇ、今日は早いね雪ちゃん!どしたの?お母さんと喧嘩でもしたの?」

教室に入るなり声をかけてきたのは唯一の親友である間宮凛だった。

「別にそんなんじゃないわよ。ただの気まぐれ」

「女のきまぐれほど怖いものはありませんぞ。雪君。」

「いや誰の真似よその口調。てか女のあんたが言わないでよ・・本当に何でもないから」

「ならいいけど」

少し微笑んで凜は隣の席に座る。

ちょっとニコッとしてそう言ってるあたり完全にバレてる気がしてならない。

「そういえば今日転校生来るみたいだよね。どんな子かな。」

すぐに話題を変え詮索しないあたりはさすが親友というところだろう。

「あぁ・・そういえば今日か」

転校生といっても実はこの学校にとってはそんなに珍しいことでもない。

毎月必ず一人と言ってはいいほど転校していき、かわりに他の都市から誰かが転校してくる。

転校が頻繁なため、お別れ会などはなく前日になると転校する者、転校してくる者の名前が昇降口付近に掲示され、次の日には転校が完了する。

初めは困惑したが慣れてくるとそこまで不思議には感じなくなっていた。

「イケメンだといいなぁ。そろそろ彼氏欲しいし」

「どうせ無理だよ。それにまたすぐ転校しちゃうでしょ。」

「それをいったら元も子もないでしょ雪ちゃん・・って今どうせ無理とか言わなかった?」

「言ってない、言ってない」

キーンコーンカーンコーン

いつも通りそんな他愛もない雑談をしているとあっという間に予鈴が鳴った。

ガラガラガラ

理科室の模型というあだ名の通りヒョロヒョロの担任である小木先生とともに一人の少年が入ってきた。

黒髪にスラリとした体形。絵になる美男子だ。

「ふぉぉぉぉぉ、こりゃ優良物件ですな」

凜はこの男子の早期購入を決めたらしい。彼が気の毒だ。

「えぇっと・・じゃあ自己紹介してくれるかな」

「はい」

今にも死にそうな小木先生の声に答えた彼は淡々と自己紹介を始めた。

「名前は草壁実 年は16 よろしく」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

教室を長い沈黙が支配する。

「えぇ・・っと趣味とかは何かな?草壁君」

見かねた小木先生がすかさずフォローする。さすが転校の多い学校の教師なだけある。絶妙なアシストだ。

「趣味か・・・人殺しだ」

それが彼、草壁実と私の最初にして最悪の出会いなのであった。



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