真っ赤なあの子

@minato0604

第1話

どこまでも赤。

瞳に映ってしまえばもう目を離すことができないほど衝撃的な光景。

僕も例外なく目を離すことができない。

どこまでも赤。

その赤の中心に「あの子」は存在している。

この話は僕とあの子の物語。






プルルルル〜。

朝だ。起きたくないが頼んでもいない目覚まし代りの電話が鳴ってる以上出なければ起きるよりも面倒な事になるのは目に見えてる。

めんどくさいな。

ブツブツ文句を言いながらもボタンを押す。

「もしもし。」僕がそう言うと間髪入れずに元気な声がうるさいほど僕の耳に響いてくる。

「電話出るの遅い!私だって暇じゃないんだからね!」

どうして頼んでもいないのに僕が責められなきゃいけないのだろうか。

だが、ここで文句を言っても僕の耳が破壊されるほどの罵詈雑言が返ってくるのは目に見えてる。

だから僕の言うべきセリフはこうだ。

「いつも兄の為にありがとう妹よ。

でも、僕の為に忙しい時間を割いてまでモーニングコールをしてもらうのは兄として心苦しいよ。」

そう言うと、「しょうがないじゃない!お兄ちゃん1人で起きれないし、それになごみちゃんが毎朝、お兄ちゃんを起こす時間だよ〜って枕元に立って来るんだもん!私だってもう止めたいわ〜〜!」

僕の可愛い妹の、美月(みつき)はそう叫んだ。

なごみというのは僕たちの妹。だった子である。

2年前の冬、なごみは学校帰りに死んだ。

近所の人の話では楽しそうに歩いていたらしい。見ようによってはスキップをしながら、鼻歌を歌いながら、さながら3日間水を探し求めた、乾いた蛙が水溜りを見つけた様だった。と近所の人は語っていた。

それもそのはずその日はなごみと美月の16才の誕生日だったのだ。

誕生日が同じということは多くの人が双子を想像するだろうが、例に漏れることなく2人は双子だった。

二卵性であった為か、双子ではあったが2人は何もかも正反対だった。

少し目つきはキツイが100人中96人は美人という表現を使うであろう姉の美月。

少しタレ目であるが100人中96人が可愛いという表現を使うであろう妹のなごみ。

(ちなみに100人中96人という表現は、100人中4人は特殊な性癖の持ち主がいるという持論に基づいての表現なので異論は認めません!)

ハキハキなんでも(言わなくていいことまで)はっきりきっぱり話す美月に、のんびりした(聞いてる人がヤキモキしちゃうくらい)喋りで人を和ますなごみ。

2人は正反対だったが1つだけ同じ事があった。

それが家族が大好きということだった。

父の日、母の日、クリスマスにバレンタイン。

イベントの毎に家族全員で盛り上がり、夏は海、冬はスキーにと他の家族が羨むほど仲のいい家族であったと思う。

それがあの日、すべて終わった。


毎日学校から一緒に帰っていた2人だが、姉の美月が生徒会の集会があった為なごみはいつも通り学校で待っている予定だったのだが、誕生日プレゼントで欲しくてたまならなかった携帯電話を買ってもらえる事になっていたなごみは、姉の美月に先に帰ってるよと生徒会の人に伝言をお願いし、いつもなら考えられないほどアクティブに1人で帰ることにしたのだそうだ。

帰り道は住宅街なので夕方だった事もあり人がたくさんいたのだが、その住宅街の中にポツンと、という表現が正しいとは思えないほど大きな神社があった。

管理している人を見た事もないのに手入れが行き届いている様に見える、どのくらい前から存在していたのかも町内のご長寿さんでも知らない、しかし町に溶け込んでいる不思議な神社。名を五蓋(ごがい)神社。


五蓋神社の前を差し掛かったなごみは神社の入り口にある大きな鳥居がふと気になった様だった。

最後に見かけた人の話によると、なごみは鳥居の何が気になったは知らないが、ペタペタと触ってみたり、鳥居を覗き込むようにぐるぐる回ってみたり、いつもの様子とは少し違うようだったと教えてくれた。


生徒会の集会も終わり、なごみの伝言を聞いた美月は、いそいそと帰り支度を始めた。

生徒会の仲間からずいぶん急いでいるみたいですけど何か用事があるのですか?と聞かれた美月は、「私は別に楽しみじゃないんだけど、なごみが携帯電話を早く買いに行きたいみたいだから私も早く帰るわ」と若干ニヤついた顔で言われ、生徒会の全員がツンデレという言葉が頭に浮かんだという。

帰り支度を済ませた美月は、帰りの挨拶もそこそこに、早足で帰路についた。

徒歩から競歩、競歩から駆け足へと、周りに人もいないため、嬉しさを隠す必要もなくどんどんスピードアップしていく美月。

住宅街街をタッタタッタと駆けていく美月、五蓋神社に差し掛かり、そのスピードが最高潮に達しようとした時、五蓋神社の鳥居の下にうずくまっているなごみを見つけた。

キキーッと車が急ブレーキをかけたように勢いよく止まり、楽しみにし過ぎて急いだはいいけど疲れて休んでるのかな?と思い、声を掛けてみた。

「おーい、なごみー。」返事は無い。

寝てるのかな?美月は起こそうと近寄っていく、「なごみー、携帯買いに行くんでしょ。あんなに楽しみにしてたんだから早く帰って行くよー。お兄ちゃんも待ってるんだから」

しかしなごみに反応は無い。

おっかしいなーと思いながら、なごみに触れた瞬間、いつもと違うことにすぐ気がついた。

冷たい。

明らかに生きている人間の体温ではない。

「なごみ!なごみ!」

体を揺すりながら声を掛けるが返事は無い。

救急車を呼びたいが携帯電話は持っていない。これから買いに予定なのだから当然だか。

「なごみ待っててね!」

自分の着ていた上着をなごみに掛け、美月は救急車を呼ぶべく走った。神社を抜け1番近くにあった家に飛び込み、電話を借り救急車を呼ぶ。

そしてすぐ神社へと踵を返す。

なごみが目を覚ましている事を祈りながら走った美月。だがそこにはあいも変わらず冷たくて動かないなごみがいた。

「大丈夫だよ!すぐ救急車来るからね!」

美月はなごみの体をさすりながら声をかけ続けた。

救急車が到着し、なごみが乗せられていくのを見ながら美月はハッと気づいた。

「誰にも伝えて無い・・」救急車に一緒に乗って行きたかったが、家族に伝えなければという使命感から、搬送先の病院を確認し、「なごみ、みんなを連れてくるから待っててね。」と声を掛け、また走り出した。


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