《仮構探偵》―The Operative in the Virtual City―
《仮構探偵》礼門堂探偵社
第一章 《仮構存在》
001 《仮構存在》/序
初めに言っておくが、私はこの物語を記述することに、少々の躊躇いを感じざるを得ない。
君たちがこの物語を読み進めた時、果たして“私”を、いや、“私たち”をどう思うか、私はそれを危惧している。
それは単純な、恐怖以上の何物でもない。私は君たちを怖れている。それは事実だ。
だが、それでも――それでも君たちには、知って欲しいと思う。私が私に至るまでの、その物語を。今、私がここに存在しなければならない、その意味を。故に、私はここに事の顛末を綴ることを決めた。
物語は三人称視点によって記述するつもりだ。無論、それには私も含まれる。物語のいくらかは伝聞によって構成されており、その為に、こうした形式をとらせてもらった。
また、ここに記述する全てが事実とは限らない。私が実際に見聞きした内容と、この一連の出来事に関わったものたちからの聞き取りと、それに若干の脚色を加えて語ることになるだろう。物語を綴る上で、その多くから了承を得ているものの、そうでないものもいる。その為の配慮と考えてほしい。
加えていうなら、結局のところ全ては“仮構”なのだ。事実を語ることに、大して意味があるとは思えない。そもそも事実が、“仮構”と相反する意義を持つのだから。フィクショナルな性質を保持したまま、それでも事実をそのまま語ろうとする行為は、ナンセンスだ。
始まりの物語は、あまり大した話ではない。ひとりの、資産家の娘が礼門堂探偵社を訪れる。そこから物語は動き始める。
しかし彼女の依頼は、意外にもあっさりと解決してしまう。本当に、わざわざそれを語るほど大した話ではないのだが、しかし必要な話ではあるのだろう。これは君たちに《
《
――ただ、そう、“礼門堂探偵社”については、少しは知っていてもらった方がいいだろうか。
礼門堂探偵社は、《
フィリパ・C・礼門堂、通称“フィル”はハードボイルド型の探偵を気取る。だが彼女の体躯はお世辞にも強靭とはいえないし、冷酷非情に成り切れない、甘さが残る。探偵としての技量や経験を積み重ねてはいるものの、いまいち集客に結びついていないのはその為だろうか。
その弟子飛鳥田は軽口の絶えない軽薄な男で、その癖帽子とマスクでその面貌を隠す、珍妙な奴だ。腕っぷしは礼門堂探偵に比べればはるかに良い方だが、所詮はゴロツキ上がりであり、その道に精通するプロに敵うはずもない。性格に関しては多少の荒っぽさが残るものの、聞き分けはいい方だろう。だがその気質はハードボイルドとは遥かに遠い位置には根ざしているし、また本人もそれを気取るつもりはなさそうだ。
彼らはこれから始まる一連の事件に関わり、彼らの行動によって物語は進行する。いってしまえばこの物語の主人公なのだが――当然その時の彼らに、自分が主人公であるという自覚はない。故に彼らが全能感に浸ることはないし、また自らに危機が及ぶと知りながら、積極的な干渉を行うことはまずない。もし彼らが万一にもそれに近い行動をするとするならば、それは彼らが共通して“お人好し”だからに過ぎない。
――前置きが長くなった。君たちもそろそろ私の語りに飽き飽きしている頃だろう。
物語は依頼者の訪れる少し前――礼門堂探偵が少し遅めの出社をするところから始まる。
いよいよ、“探偵”の時間だ。
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