好きか嫌いかのどちらかと言うと好きです

ゆきちび

4月1日の嘘

「何かあった時に連絡したいから、連絡先教えてよ」


そう言ってお互いの連絡先を交換したのは、半年程前のこと。委員会で一緒になったのをこれ幸いともっともらしい理由をつけて教えてもらった。というのも、私が彼に好意を寄せているからだ。まぁ、交換したメッセージは『これからよろしく』という何とも業務的なものだったけど。それから連絡することもなく、私達は無事に任期を全うした。


昨晩、今日が休みなのをいい事にゲームに明け暮れ、ベッドに入ったのは明け方だった。

当然早起きなどできるはずもなく、11時頃に起床して今し方朝食兼昼食のホットサンドを食べ終えたところである。予定もなく自室でゴロゴロできる長期休みは学生にとってはまさに楽園。特に春休みは夏や冬と違って気候も暖かく過ごしやすい。ベッドにダイブして手を伸ばしたのはスマートフォン。コレ一つで電話もメールもゲームもできるのだから世の中便利になったものである。文明の利器万歳。友達のメッセージに適当に返事してから音楽を再生。ゲームでもしようかとアプリをタップする直前、スマホが震えた。友達かと思ったが、どうやら違ったようだ。送信者は半年程前から連絡を取らなくなった件の彼だった。いったい何事だ。震える指で緑がトレードマークの某メッセージアプリを開く。そこに書かれていたのは『嫌い』の一言。正直、意味が分からない。嫌われた事のショックとか腹立ちとか、そうゆうの全部通り越してただただ意味が分からない。自分の行動を振り返って彼に嫌われる原因を探してみたけど、心当たりはなかった。嫌われる程彼に関わってすらいないのだ。原因が分からないのはともかく、これは返信するべきなのだろうか。嫌われているのなら返信しない方がいいのか?いや、でも一応理由くらいは聞いておきたい。悩んで悩んで、文字を打っては消して打っては消してを繰り返すうちにもう一度彼から返信がきた。


『日付見て』


日付…?何の事か分からないが、言われるがままにカレンダーに目を向けた。4月1日。

あ、エイプリルフール。

気づいた直後にまたメッセージを受信した。


『気づいた?』


これは、その…期待とか、してもいいんだろうか。何でとかいつからとか分かりにくすぎるだろとか、言いたい事は色々あったけど、とりあえず返信が先だ。さんざん悩み抜いた私が送ったのは『好き』の2文字。


『エイプリルフールって午前中だけだけど、そうゆう事でいいんだよね』


時計は12時を少し回ったくらいだった。

私は君みたいに捻くれた愛情表現はしないのです。君が素直に言ってくれないから、その分私がまっすぐ伝えるよ。

それでも私が送ったのは「好き」よりも君からもらった「嫌い」の方がずっと好きの気持ちが詰まってるみたいで、ちょっと悔しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きか嫌いかのどちらかと言うと好きです ゆきちび @yukichibi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ