第1話 青春の始まり……? 一
「二年二組、二年二組、帰宅部所属で生徒会副会長の
校内のスピーカーから女教師の声が学校中へ響き渡った。この声は言わずとも知れた二年二組担任の
俺は下駄箱で足元に落とした靴を拾い上げ乱暴に靴箱へしまう。そして駆け足でここから東側の校舎、部室棟へと向かう。
文化室は部室棟二階にあり、階段を一段飛ばしで駆け上がった。そして見えてきた文化部のドアに手をかけた。ここまでの全力疾走、息が結構きれていたがそんな事おかまいなしに、一気に肺へ空気を送り込む。そして———
「放送を!私用に使うんじゃねぇ!!」
ドアを開け放つと同時に精一杯叫んだ。
「はやいなぁ〜やっぱり暇だったか」
しかし俺の叫びをまるで聞いていないかの様に椅子に座る彼女は、白いカップに注がれた湯気の立つ、熱々のコーヒーを一口飲んだ。
「てか、そのバリスタ!また私物増えてんじゃん!この部室はあんたの部屋じゃないだろ!」
「おおっと、それはいけない。それはいけないよ優。今ここは学校、校舎。私のことは先生と呼び、敬語を喋るのが常識ってもんだろう?」
「それはあんたが教室を私物化するという非常識的行動を辞めてから言ってくれよ。説得力がまるでないよ叔母さん」
「ちっ冷たいなー生徒の見本にならなくちゃいけない生徒会がそんなんじゃ、学校の価値も計り知れるねっ」
「その生徒会の一番の問題があんたなんだよ!部室が欲しい同好会が沢山あるってのに、一向に立退かないあんたがよ!」
「えーそれなら住む場所を提供してくれないとーこちらも色々困るんですけどー」
叔母さんは年に似合わないぶりっ子声を出すが、少々気持ち悪くて吐き気がした。
叔母さんは去年、三年間同棲していた彼氏に別れを切り出され家を追い出された。原因は酒と家事のできないダメっぷり。それからは住む場所も探さず学校のこの部屋に居候しているのだ。
「まぁいいさ。今度生徒会で追い出す計画立てるから」
「何!?このユートピアを壊すつもりか!?その時は全員酒を浴びるほど飲ませて記憶を消してやるからな……っと違う違う!」
叔母さんは何か思い出した様に机に手を叩き立ち上がる。
「そうそうこんなムダ話するために呼び出したんじゃなかった」
「あぁ、呼び出し。そんなんありましたね」
「そそ。ほらこっちきて座んなさい」
叔母さんが手招きをするので俺は仕方なく彼女の正面に椅子を持っていき腰を下ろした。
叔母さんはそれを確認すると、二つ折りにされた手のひらサイズの紙を取り出し俺に広げてみせた。
そこにマジックの太文字で『青春がしたい!』と堂々と書かれていた。
「これ、募声箱に入れたの優でしょ?」
叔母さんは俺の目をじっと見つめ答えを待っていた。
ちなみに募声箱というのは生徒会が管理している生徒たちの不満や希望を受け付ける箱で、毎週の生徒会会議で使われる議題の一つとなるものだ。
「な、なんで俺と?」
俺は少し引き気味に答えた。
「やっぱり優なのねー。この文字の書き方、優っぽいと思ってたのよねー。それにすぐに否定しないから丸分かりよ。何年の付き合いだと思ってんの?大人舐めんじゃないわよ」
叔母さんは何もかも分かったように、ドヤ顔でそういった。
「……まぁ隠しても仕方ないからな……。俺だけどさ、よく分かったな」
「そ、そりゃ、大人ですもによ」
噛んだ
人は少しでも嘘ややましいことがあると、直ぐ心拍が上がり普段と同じ思考、行動が取れなくなるという。
つまり……何かが怪しい。
「ねぇ叔母さん。これ何で俺が入れたと分かった?」
「へぇっ!?そりゃこの字が……」
「それに書いたのは友達で入れたの俺」
「はぁ!?なんで!?優香に分からないはずが無いのに……」
「ダウト」
「あ」
叔母さんの表情は完全に固まり、冷や汗が流れるのが分かる。
「おかしいと思ったんだよ。叔母さんが字だけで俺と言い当てるような人間なはずないって。安心したよ……」
「ってちょとぉ!それって失礼すぎない?た、確かに書いた人を当てたのも優香だし、返答で聞き返したら確定だと言ったのも優香で、それを私の手柄にしようとしたのも事実なんだけどさ……」
……大人って、大人舐めるなって……
「あぁ。そして、安心したから脱線した事を思い出したよ」
俺は話を戻そうと叔母さんいじめをやめた。
「あ!そうよ!……ほんっと優はいつからこんなに口が達者になったのだか……まぁいいわ」
叔母さんは気分を変えるためか、冷めかけのコーヒーを一口だけ飲む。
「募声箱に入れるほど暇……つまらない青春を送ってる優にぴったりの仕事があるの。引き受けてくれない?」
「仕事って……俺、生徒会だから内容によっては難しいけど」
「あははは、それは大丈夫。仕事ってほとんど優香が片してくれてるじゃん、心配ない心配ない」
確かに生徒会副会長になった姉の
「はぁ、それで仕事っていうのは?」
俺は色々諦めて叔母さんに尋ねた。
彼女は手元のコーヒを飲み干し、カップを置き、俺の目をまっすぐ見つめて宣言した。
「会って欲しい女の子がいるの」
女の子……というワードに心躍らせたがこの時の俺はこの先の苦労を知る由もなかった。
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