心無き探脳士とは【序】
数えきれぬ
が、しかし、数えきれぬ
故にこの世は
それが真実であると、故に無価値であると
信じるが故に、眼を閉ざす
我が
暗闇に屈した
真っ直ぐに整備された道
障子と木材、暖簾と
街の中にいると、嫌でも思い知らされる
文化の象徴だ
道の先には黒々とした人人人、人の波が
出来ていた
「…らっしゃいらっしゃい!『無明街』の
飴売り直伝、絹飴!絹飴は如何かな!?
ためしにご賞味あれ!口の中に溶ける
霞みてえな飴さぁ!」
「美味しい!」
「べっぴんなお嬢ちゃん、髪が乱れてるよお
櫛で綺麗にしてあげるからこっちきなさいな!まずは商売抜きだ!」
「ありがとうございます!」
「買った買った、金は天下の回りモノ。
ならば買わなきゃお大名サマに叱られる!
旬の鮮魚を近郊から大急ぎで運んできたあ!さあ買った買った!旬を食わなきゃ『元街』住人の名が泣かぁ!!!!買った買った買ったぁ!」
「はぇー、元気ですね皆さん。」
綺麗になった髪を撫で、街を進む
「
「問題無いです…歩けないのが困りますけど」
足首の痛みは消えず、『探脳士』様の背中で揺れる度に痛みを覚えるが、ここまでして
もらってそれ以上は望めない
それに私は今、凄く広く人のいる街に来て、この先どうしていくか考えなければならない
ここは『元街』なる場所らしい、街の人々がそう言っていた
「この街は昔から栄えている
そう、この『手記』にも書かれていた。」
くすんだ茶の表紙にて覆われた本を読み
ながら『探脳士』様は歩いている。
人混みにぶつからないのだから凄い方だ
「お嬢ちゃん!おぶされて…足でも怪我したのかい」
本人の背丈程の珍妙な箱を背負った女が
近付いてくる。『探脳士』様は無反応だ
「足首、こう曲げるとどうだい。」
捻られた足首は酷く痛む、少し涙が流れた
「…ッ、はい」
「おいおい布切れ巻くだけじゃあこんな
酷い怪我良くならんよ
病、
足も変わらん…怪我を放って死ぬまで脚を
引きずり歩く老人や夜毎に痛みで呻く輩も
よく見たもんだ……」
「でも…贅沢は言えませんので」
「そうかい、ならよ…おう唐笠の兄ちゃんよ」
「この嬢ちゃん一生背負うのと自由に歩き回れるのどっちがいい?」
「答えるまでもない」
「金は大してかけねぇからあっしに任して
くれねぇか?せめて腫れが引くまで…」
「構わん、身寄りの無い童だ。
ついでだ、この金で宿の面倒も見て
やってくれ。僕にはこの後仕事がある」
「えっ…『探脳士』様…?」
嫌だ、私は『探脳士』様と、離れたくない。
「待ってください『探脳士』様っ!私を!
連れて行っては…」
「何故連れて行かねばならない」
「なぜ、って…」
「その理由が無い、それにあの『恨獣』に
襲われて理解しただろう
僕に関われば弱い
「でも…!」
「でも?」
「いやあのなあ、聞いていたが
通りがかりの薬師に子供を任せるって……」
『やあ、やあやあやあ、少年』
『そこの赤い着物を着たァ、君だよ』
雑踏にやけに響く声が耳に入る。
『唐笠の君も、旅の薬師殿もついでだ。』
『
『いや何、時間は取らせんよ。
怪しい老人、だった。
皺の寄った顔だが和人離れした高い鼻、眼は細く鋭く
生地はくすんだ白色、丁寧に毛を排除した獣の革であろう上着、逆に首回りには柔らかな獣毛が誂えてあり、
『余暇無き旅路に疲れも溜まりましょう』
『疲労が溜まれば
『我が名は奇術師の
ささやかな驚愕と、ン歓ン喜をォ!!いざいざいざぁ!!!!』
蒼暗い蝶が辺り一帯に飛び去る。
笑う老人の背後から飛び去る蟲達は花片が
散る様に飛び立ち、蒼い鱗粉を撒き散らす
何時までも何時までも、数百匹吐き出しても尚蝶は尽きない……
それはあの『
「おお、
「薬行脚で色々みたが、こりゃすげぇや!」
「蒼の蝶!!奇天烈な!」
「いいぞ
男が、女が、方々から叫ぶ。
それだけ平素から期待されていたのだ
予想を裏切る華麗な奇術を
『はははは。有難う、有難う『元街』の紳士淑女諸君』
『そして、今日でお別れだ。』
「きゃあああああ!!!紅い!!?」
「うぉわぁ!何じゃこりゃあ!?」
そして、辺りの住人は皆赤い色に染まった。
赤、紅、血…!?
ぱしゃりと液体が跳ねる音と悲鳴だけが響く
「お、お前、げガはっ…貴様ッ!!!
『
理解出来たのは、吐血する『探脳士』様に深く突き刺さる薄く広く平たい金属の針と鞍代わりの鉄の柱と共に地面に落ちた自分
背中から紅い液体がぽたりと私の額に落ちる
『探脳士』様の外套が剥がれ、鎖や液体に塗れたよく分からない装備が地に散らばる
『だったら
名も知れぬ『探脳士』』
貌が裂ける程に
腰に携えた鈍色の鉈を引き抜き、赤に塗れた『探脳士』様は
「殺すぅ――――――うぅあがアアアアああッッッ!!!!」
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