第三十二話 報告と今後の相談

 石畳の階段を昇り地上に上がると、さっきの冒険者4人組がまだ広場に座り込んでいた。

 僕が下に降りてから大体30分も経ってないので、


「なっなんだよ…いっ生きてたのかよ……」


「どっどうせ命が惜しくなって逃げ帰って来たんだろ……」


「どっ銅級は大人しく薬草でも採ってろよ……」


 とまぁ、さっき僕に死ぬ思いを見させられたというのに口々にすごんでくる。

 でもなあ……

 僕を見ながら震えてたり、ズボンに染みがついている状態で言われても何も怖くないんだよね。


 もういいや、さっさと帰ろう……


 これ以上ここに居ても面倒になるだけなので、後ろでまだ喚いてる冒険者4人は無視してさっさとフッケに戻ることにした。


 街に戻ると既に昼過ぎになっており、ちょっとお腹も空いてきたので一度宿に戻ろうかとも考えたけど、ギルドで聞きたいことを思い出して面倒だけど先にギルドに行くことにした。


 ギルドでは、またジョナさんの受付が列を作っていたので大人しく並ぶ。

 チラっと前を見ると、高そうな鎧に身を包んだ冒険者が、受付の机に寄りかかってジョナさんに話しかけているが、明らかにジョナさんの顔が笑っていない……


 男性冒険者はそれに気づこうともせず、しつこく話しかけていたけれど、結局ジョナさんに警備の人を呼ばれ、両腕を抱えられて外へと連れてかれた。


 次の人の報告はあっさり終わって前が空き、僕の番になったので進んで受付の前に立つ。

 すると、しかめっ面だったジョナさんが僕の顔を見た途端に眼を見開いて一気に笑顔になる。


「お帰りなさい! ムミョウ君。 何か聞きたいことでもある?」


 ジョナさんが満面の笑みで僕に聞いてくる。


「あのう、聞きたいこともあるんですが、さっき鍛錬場に行ってきて第一階層のオークを全員斬って来たんですがその時に……」


 と申し訳なさそうに言うと、今度は口を開けて呆然とした顔になる。

 コロコロ顔が変わる人だなあ……


「もう鍛錬場に行ってきたんですか!?」


「はっはい、とりあえず第一階層だけでも様子を見てこようと思って……そうしたらそこの入り口の広場にいた他の冒険者とちょっと揉めちゃいました。」


 信じられないといった表情だったけど、ため息をついて、


「それを今すぐには信じられないけど……あなたなら本当に行ってそうね……はぁ……一応ギルドからあなたに対して鍛錬場の調査を出したというのを他のパーティーに周知させておくわ。 また揉めることになっても困るもの」


 と目頭を押さえて吐きだすように答えた。


 少し時間をおいて、ジョナさんに気持ちを落ち着けてもらうと、僕は聞きたかった鍛錬場の仕様やパーティーの組み方などを尋ねることにした。


「そうね……」


 と言って教えてくれたのは、


 ・鍛錬場のモンスターは基本的に3日で復活する。

 ・階段を通過するたびに何かしらの記録がされるようで、次の挑戦時に鍛錬場の入り口横にある水晶に触れると最後に通過した階段下の水晶に転移される。

 ・モンスターは階層をまたいで追いかけてくることはない。

 ・パーティーなどで一度でも入り口や階段を通過すると記録が為され、以降は全員で同じ階層への転移が可能となる。

 ・到達した階層は半年経っても更新されない場合は1階層に戻されてしまう。

 ・パーティーがモンスターを全滅させて離れた後の階層に、別のパーティーが入った場合は即座にモンスターが復活する。

 ・パーティー結成を希望する際は、依頼票を貼るボード右の同じ形のボードに自分の使う武器や魔法など必要な情報を書いて貼っておく。


 などの情報だった。


「他にも色々細かい所はあるけれど、覚えておくといいのはその辺りかしら?」


 うう、僕の頭は覚えることだらけで沸騰しそうになる。

 頭が痛い……もう何も考えずに剣だけ振っていたいなあ。


「あっそうそう、ムミョウ君。 ギルドマスターが一度、フッケで一番有力なパーティーにあなたを紹介したいと言っていたけどどうする?」


 と思い出したように僕に尋ねてきた。


「僕としては構いませんが……何のために?」


「まず第一に貴方の事をそのパーティーに紹介したいのよ。おそらくあなた以外では最も鍛錬場の攻略に近い人達だろうし。 それとお互いの情報共有も兼ねてね。 あなたは強くても鍛錬場は知らないし、向こうは鍛錬場は知っていても攻略できるだけの強さや情報が無いのよね」


 ジョナさんが分かりやすく説明してくれた。


 確かに……僕がモンスターの事を調べたとして、冒険者全員がすぐに攻略できるようになるはずないしな。

 そういう強い人達に情報を提供して攻略してもらうのは有効な手だと思う。

 ただ……

 僕は剣を振ることは教えられても、そういう知識みたいなことを教えられる自信は全くない。

 そもそも僕にとって知識と呼べるものなんて剣の業と、惑わしの森で薬草が良く生えていた場所を覚えているとか、銀貨や銅貨を数えて金貨まであと何枚かなと計算できるくらいだったし。

 あっトゥルクさんの所で文字を教えてもらったのも知識になるのかな……


 うーん……まぁ、ここで色々考えていても仕方ないや。

 とりあえずはそのパーティーに会ってみるのもいいかもね。

 一番強いパーティーというのがどんな人達なのか興味あるし。


「分かりました。 よろしくお願いします」


「じゃあマスターには、ムミョウ君がそのパーティーと会っても大丈夫と言っていたって伝えておくわね」


「有難うございます」


 ジョナさんにお礼を言ってお辞儀をするとニッコリ笑ってくれた。


「そのパーティーは今商隊の護衛依頼に就いてて、多分もう目的地に到着して、こっちに戻ってきてるはずだから……帰ってくるのは明後日くらいね。 こちらでお願いしておいてなんだけど、それまで待っててもらえる?」


「はい、じゃあ……その人達が帰ってくる間に集落のベイルさん達に会ってこようと思います」


「集落? ああ、あなたが助けた人達のことね」


「あの人達に、僕がこの街にしばらく滞在するということと……師匠が亡くなったことをまだ伝えていませんので……」


 僕がちょっと視線を落としたのを見てジョナさんが心配そうな顔をして慰めてくれた。


「無理しなくていいのよ?」


「いえ……いつかは伝えなきゃって思ってましたし、僕は大丈夫です」


 ダメだなあ……もう踏ん切りがついたと思ったのに……

 師匠の事を思い出すとやっぱりまだ胸が痛くなる。

 ベイルさんやレイ、ミュール達にも辛いけれど……ちゃんと伝えなくちゃね。


ギルドでの用事も終わったので、ジョナさんにお礼を言って僕は外に出た。


グゥ~


ああ、そういえば街に帰ったら昼食を摂ろうと思ってたんだった。

お腹が空腹を訴えたので、僕は足早に宿への道を進んでいく。


食事か……


今はもう食べることは出来ないけれど、僕と師匠が初めて会ったあの森で作ってくれたスープの味は未だに忘れられない。

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