第三十一話 観察

とまぁ意気込んではみたものの、いきなり鍛錬場に突入するわけにもいかず、とりあえず場所だけでも見ておこうと思って現在はフッケ東の街道を歩いている。


「単に攻略だけならとっとと突っ込んでいけばいいんだろうけど……」


 腕を組みながら考えに耽る。

 ギルドからは他のパーティーのためにモンスターの弱点や攻略法を調べてほしいと言われている。

 だが、それらを調べて紙に記録するにも、文字があまり書けない僕にとってはモンスターを倒すことよりも難問だ。


「やっぱり誰かと一緒に攻略した方がいいのかな……」


 一緒にとなると誰かとパーティーを組むわけだが、そもそも鍛錬場なんかに入ったこともないわけだからパーティーの組み方なんて知るはずもなく……


 フッケに戻ったら一度ジョナさん辺りに聞いてみようかな……


 そうやって色々考えているうちに、街道の先に石造りの建物が見えてきた。

 どうやら鍛錬場に着いたかな。


 そのまま鍛錬場の入り口と思われる大きな門に近づくと、鉄鎧に大きな剣や弓、盾など重装備で固めた4人の男性が門の前の広場で何か騒いでいた。


「――だから――しかないだろ!」


「でも――のに――だけだぞ!?」


 途切れ途切れで聞こえづらいけど何か言い争っているようだ。


「どうしたんですか?」


 気になったので近づいて声を掛けると、男性達が一斉にこっちを向く。


「なんだ子供か……何でこんなとこにいるんだよ、さっさと家に帰りな」


「俺たちは……今からこの鍛錬場を攻略しなきゃならないんだ」


「……この前ここを降りた先のオーク1体を倒すのがやっとだったのに、攻略とか無理に決まってんだろ」


「じゃあ俺達このまま借金抱えたまま生きていけってのかよ!」


 自分が声を掛けた時には収まったのに、結局また口論が始まっちゃったよ……


 もうしょうがないので、放っておいて先に鍛錬場に入ろうとしたら、門をくぐろうとした僕を見た男性達が慌てだす。


「何やってんだお前は!? 死にたいのか!」


 黒い板金鎧を着た人が手を掴んできた。


「何って? ちょっと試しに第一階層のモンスターを見てこようかと……」


 どうせいるのは連合国で倒してきたモンスターだし、別に苦戦はしなさそうだからね


「何言ってんだ!? 馬鹿なことはやめろ!」


 弓を担いだ革鎧の人が口から唾を飛ばしながら僕に注意してきた。


「ここは鍛錬場だぞ!? 凶悪なモンスターが中にうようよいて10階層すら辿り着くもやっとだってのに、子供が試しで入る様なとこじゃない!」


「それにお前は冒険者なのか? 冒険者じゃないなら早く家に帰れ!」


 黒いローブを着た魔法使いと思われる人と、人の身長くらいある大きな盾を持った全身鎧の人も同調して僕を追い返そうとしてくる。


 皆口々に言ってくるもんだからちょっとムっとして言い返す。


「僕だって冒険者ですが?」


 そう言って担いだ袋に入れていた銅の腕輪を見せる。

 だが、それを見た男性達は大笑いし始めた。


「はっはっは! 銅級冒険者が何言ってんだ。 俺達銀級の冒険者ですら第一階層を突破できないのに、ましてや1人でなんかあっという間にやられるにきまってんだろ?」


 はぁ……

 やっぱりジョージさんとは実力が違うようだ。

 ジョージさんは手合わせしなくても僕達の強さを分かってくれたのに……


 これ以上時間をかけても無駄だと思い、4人全員に首を斬り飛ばすという気を飛ばして全員腰を抜かしてもらった。

 なんか変な匂いもしたけど……まぁいいか。

 その場にへたり込んだ4人を置いて、僕は門をくぐって下へと階段を降りて行った。


 階段を降りると鍛錬場の階層は全体が石造りで中央に大広間があり、外周には何個か小さな部屋が見える。

 大広間には連合国で戦った鎧兜を着けたオークが4体ほどおり、奥に見える下への階段の道を阻んでいる。


 とりあえずはこのオーク達をさっきの人達でも倒せるように調べなきゃいけないんだよね……

 強い相手と全力で戦うのとはまた違った難しさで、どうすればいいのか悩むなあ。


 まずはオークがどういう攻撃してくるのか見てみよう……

 連合国の時だと攻撃させる間もなく首飛ばして終わりだったもんね。


 大広間に入ると、オーク達は僕に近い奴から各々持っている剣や斧などを構えてこちらに突進してくる。


 別に意識を集中させるまでもない遅さなので、適度に間合いを取りつつ攻撃の回避のみに集中することにした。


 ……こっちを囲もうとしたりして、連携を取ろうとしてはいるけど、剣や斧など武器の振り方はあまり良いとは言えない……

 ……1体1体なら上の人達でも処理できそうだけど、やはり鎧や兜を着けてるせいで致命傷を与えづらいことと、数が多いから時間をかけて囲まれると厳しい感じかな……?


 とオーク達を観察しながら暫く攻撃を躱し続けていたけど、いい加減飽きたのでオーク達から大きく距離を取る。

 壁際まで近づき、刀の柄に右手を添える。


 スゥー……ハァー……


 大きく息を吸い、そして吐く。

 そして一気に広場のオークに向けて走り出す。

 意識を集中させればオーク達の動きが遅く見え、僕を斬り刻まんとする意識が白い線となって見えてくる。

 一番近いオークが僕に向けて真っすぐ斧を振り下ろそうとしている。

 僕は右に逸れつつ刀を抜き放ちざまに胴体を鎧ごと真っ二つにした。


 1体目――


 次のオークは僕の右側面に回り込み、横払いで剣を振って来るのが見えたのでオークの剣のさらに下をくぐって転がりながら左足を斬り飛ばす。

 左足を斬り飛ばされたオークは身体の支えが無くなり、倒れこんだところを首に刀を突き刺してその命を刈り取った。


 2体目――


 残り2体のオークは僕を囲むように左右に分かれたので、僕は左に動いたオークに一気に走り寄った。

 その動きに慌てたように剣を斜めに振り下ろすが、僕は急停止して目の前で剣を躱し、オークの両腕を刀で振り下ろして斬った後、のけぞるオークの首を跳ね飛ばした。


 3体目――


 最期のオークは斧を両手に構え、僕に突進し斧を一気に振りかぶって叩きつけようとしたけれど、僕が一気に間合いを詰めてがら空きの胴体を斬り裂いた。


 4体目――


 オークを全滅させた僕は刀についた血を振り落とし鞘に納めた。


 腕がちょっと疲れたなあ……


 僕は師匠の刀を受け継いだけれど、今まで使っていた剣とはまるで重さや長さが違うわけで、型や素振りで使っていてもちょっと疲れを感じるし、今の実戦でも自分でわかるくらい剣筋がブレていた。


 ――はっはっは! お前が使いこなすにはまだまだ早いんじゃ! どうじゃわしの凄さが分かっただろう!――


 なーんて師匠に言われてそうでちょっと悔しく感じる……


 とりあえず下へ降りられるようになったけど……

 まぁ今回は試しだったから今日は戻るとしよう。

 ってそういえばここのモンスターってまた復活するのかな?

 全然鍛錬場の事を知らなかったし、やっぱりある程度は聞かないとまずいよねえ……


 もと来た地上への階段を登りながら、僕は鍛錬場の仕様やパーティ―の組み方などちゃんと話を聞かずに急ぎすぎたことに反省しきりであった

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