第十八話 懐かしき者たち
ゴブリン村を出発した僕達は街道を通り、10日ほどでフッケに到着した。
冒険者ギルドに到着すると、相変わらず中は冒険者だらけでごった返していたので、師匠はベンチに座っててもらい、僕だけ受付に並ぶ。
受付が誰なのかは見ていなかったけど、どうやら偶然にも去年対応した赤毛の女性職員だったようで、自分の番になるとこちらを見て驚いた顔になり、少々お待ちくださいと慌てて言うと後ろの部屋へと入っていった。
しばらくするとあの厳ついギルドマスターが現れ、後ろの部屋へと案内するので僕は師匠を呼んで一緒に後ろの部屋へ入っていった。
「ようこそいらっしゃいました。こちらに来られたという事はゴブリン族の軟膏でしょうか? 」
ギルドマスターのジョッシュさんが丁寧に頭を下げる。
「そうじゃ、また北の方へ旅に出るのでな、今回も瓶5本でよいか? 」
師匠が瓶の入った布袋をテーブルの上に置く。
「ありがとうございます。では前回と同じく5本で金貨50枚でよろしいでしょうか? 」
「構わぬ。」
布袋を受け取ったジョッシュさんは、テーブルに丁寧に金貨10枚を数えながら縦に並べ、5組置いたところで
別の布袋に入れていく。
「おお、そうじゃ! わしがこの間ここに住まわせてくれるよう頼んだ者たちはどうしておる? 」
「ああ、連合国から逃げてきた方々ですか? 」
「そうじゃ。折角助けた連中じゃ。後の世話もしたいのでな」
「確か郊外の森を拓いて数軒の集落を建てていたはずです。皆あなた方に感謝していましたよ」
よかった。皆ちゃんと生活出来ているようだ。
久しぶりだしブロッケン連合国に行く前に皆に会いたいな。
レイやミュールも元気にしてるかな……?
「そうか、それなら会いに行くので場所を教えてくれんか? 」
師匠の頼みに赤毛の受付さんが走って奥にあった地図を取りに行くとテーブルの上に広げ北側の街道沿いにある郊外の場所を指さしてくれた。
「確かこの辺りのはずです。あなた方の資金援助のおかげで資材や人手も集められたようでしっかりとした家や畑を作られていたようですね」
地図を見ると、そこまでフッケからは離れていない。これなら今日中に会いに行けそうだ。
「色々すまんのう。ではわしらはこの者達に会って来るぞ」
師匠と僕が立ち上がるとジョッシュさんも立ち上がって赤毛の受付さんと一緒にお辞儀をする。
「いえいえ、おかげでこちらもかなり潤いましたし、また来年もよろしくお願いします」
ギルドマスタ―達と別れた僕と師匠はその足で教えられた集落へ向かう。
街道を歩いておよそ20分もしないうちに集落へ着くと、周りに大人の高さくらいの柵や、土台もしっかり組まれた家が何軒か見え、その中央の広場で僕の姿を見た1人が大声上げて皆に呼びかけた
「おおーい! トガさんやムミョウさん達が来てくれたぞー! 」
その声で周囲で畑仕事や荷物を運んでいた人たちが一斉に集まる。
あっという間に僕たちは囲まれてしまった。
「いらっしゃい! トガさんムミョウさん!あなた達のおかげで私達は安心して生活が出来ます! 」
「どうぞゆっくりしていってください! さあ! 皆で歓迎の宴を! 」
すぐに連合国へ出発しようと思っていたんだけどな。あっという間にここに滞在する流れになりそうでどうしよう……
「トガさ~ん! ムミョウお兄ちゃん! いらっしゃい! 」
すると遠くから懐かしい男の子の声が聞こえてきた。声の方を向けばレイとミュールが元気いっぱいにこちらへ走って来る。
「元気だったか! 」
僕が手を広げるとレイが胸に飛びついてきた。勢いが強くて思わず転びそうになっちゃったけどね。
「トガおじさん! ムミョウお兄さん! 私たちに剣を教えに来てくれたのね! 」
ミュールが自信満々で言ってくる。
僕は思わず苦笑してしまった。
「ごめんね。これからまた連合国へ修行に行くんだ。だからあんまり長居は出来ないんだよ」
そう言うとレイは残念な顔をし、ミュールは頬を膨らませる。
「せっかく来てくれたんだから少しくらい一緒に居てくれてもいいのに……」
レイが悲しそうに僕ではなく師匠の方を見る。
むむむ! 僕がダメだと見るや師匠の方を篭絡に来たか! これは侮れない!
当の師匠はというと……あっこれダメだ。
完全に表情がほころんで崩れ切っている。
まるで孫の頼みごとをされたおじいちゃんだ……
「しょうがないのう……急ぎの旅だが少しくらいなら……のうムミョウよ? 」
「はぁ……分かりました。でもあまり長居は出来ませんよ師匠? 」
師匠が攻略されては致し方ない。途端に周囲から歓声が上がった。
その後は僕らは広場に置かれた椅子に座らされ、何か手伝いをしようと立ちあがっても「いえいえいいですから」「座って待っていてください」と止められてしまい、目の前にお酒や果物、イノシシ肉の煮込みなどが並べられていくのを見ていただけだった。
準備ができると、集落の長だったベイルさんの掛け声で宴が始まり、一斉に僕たちの元にお酒や食べ物が差し出される。
食べ物は有難くいただくがお酒は勘弁してもらうことにして、あとは皆飲めや歌えやの大騒ぎとなった。
宴は続き、夜になってもたき火を囲んで皆おもいおもいに楽しんでいるのを見ていると、この人たちを助けられたことが本当にうれしくて涙が出てきてしまった。
「ムミョウお兄ちゃん……大丈夫?」
レイが僕が泣いてるのを見て心配してしまったようだ。
「ん、大丈夫だよ。ちょっとうれしくなっただけさ」
「……? 」
レイが首をかしげる。
「僕達があの時、君達の集落に行かなければこんな風景は見られなかった。僕の剣が人を守れたってのがすごく嬉しいんだ」
「ムミョウお兄ちゃんは人を守る為に強くなったの? 」
「そうだね……僕は昔、大事な人を守れなかった。自分の弱さがたまらなく悔しかった。そんな時に師匠に出会えて厳しい鍛錬に耐えて強くなれた。この強さは誰かを守る為に使いたいね」
腰に差した剣を引き出してじっと見つめる。
僕がフォスターを飛び出してきてからもずっと一緒にいてくれた剣。
僕にとってはまさに人生の相棒のような存在だ。
「……ムミョウお兄ちゃん」
剣を見る僕に対して、レイがキッと口を結んで見つめる。
「僕も……僕もいつかトガおじいちゃんやムミョウお兄ちゃんに剣を教えてほしい! 」
気弱そうだったレイの決意を秘めた言葉に、僕は少し驚いたけど優しく頷いた。
「ああ、いずれ君にも剣を教えてあげるよ。でも僕もまだまだ未熟だからいつになるかはわからないけど」
僕の言葉にレイはニッコリ歯を見せて笑う
「絶対だよ! 絶対教えてね! ムミョウお兄ちゃん! 」
さて、師匠に言わずに約束しちゃったけど、その師匠は……
ああ、酒でベロンベロンに酔って寝ちゃってるよ……
これはしばらくここに滞在ですね……
結局あれから3日ほど滞在する(主に師匠のニ日酔いのせい)事となり、その間にレイとミュールにはその辺の木材を削って木刀を作り、毎朝の日課の型と素振りを教えようとしたが、木刀の重さであっちこっち振り回されてしまうのでやむなく軽い木の枝などを使って教えることになった。
「ふぎぎぎ……ムミョウお兄ちゃん……腕がもう上がらないよ……」
「もう……ダメ……なんで型ってのをたった1回しただけでこんなに疲れるの……」
レイもミュールも型を1回やっただけで疲れて座り込んでしまった。
ハッハッハ! 辛いだろ! 僕なんて初めてで5回出来たんだぞ!
……うん威張ることじゃないね……
「ゆっくりでいいよ。これをまずは1回でもいいから完璧にできるようにすること。そして1回出来るようになったら2回、2回出来るようになったら3回って少しずつ増やしていけばいいよ」
「本当にこんなので強くなれるの? 」
ミュールが訝しそうに僕を見てくる。
「僕は師匠に会う前は本当に弱かったんだ……大丈夫僕が保証するよ! 」
その言葉にレイもミュールも刺激を受けたようで、ヘロヘロになりながらもまた型を始めようとしていた。
そして出発の日になると総出で見送りしてくれた。
「ムミョウお兄ちゃん頑張ってね! 」
「また帰ってきてくださいね! 」
「ご無事をお祈りしています! 」
皆に手を振りながら僕たちは歩き出す。
「さあ! 師匠行きましょう! 目指すはブロッケン連合国! 」
「おうおう、張り切りすぎるなよ? 向こうに着く前に疲れてしまったら元も子もないからな」
自分の剣の意味を再確認できたムミョウはさらに強さを求め、あらためて目的地へと向かうのであった。
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