第一七話 休息、そして再び……

ゴブリン村に戻ったトガやムミョウは盛大にお祝いされた。

三日三晩飲めや歌えや大騒ぎ。

魔王四天王の1人を倒したと言えばさらに大きな歓声が上がる。


「スゴイゾ! ヤッパリトガサンヤムミョウハ強イ! 」

「2人ハ我ラノ誇リダ! 」


だがトゥルクは魔王四天王について首をかしげる


「我ラモ他ノ集落ノゴブリン達カラ魔王ノ話ハ聞イタコトガアル」

「魔王ハ復活スルト周囲ニ魔力ヲ撒キ散ラシ、モンスターヲ支配シテ進化ヲ促ス」

「ダガ知性ヲ持ッタオーガナド聞イタコトガナイ。マシテヤ四天王ナド……」

「モシヤ魔王ガ良カラヌ事ヲ考エテイルノデハナイカ……? 」


「トゥルクよ、そんな細かいことは気にするでない! わしとムミョウがいれば四天王なぞあっという間に斬り捨てるぞ! ガッハッハ! 」


ムミョウはトゥルクの前に座り、話を聞いていたのだが、その背中からトガが酒を持ったままのしかかる


うわっ!師匠酒臭い!

師匠は悪酔いするからあんまり飲まないようにって言ったのに……


「その四天王とやらもわしが手を貸すまでもなくムミョウ1人で倒してしまったんじゃ。どうせ他の奴らも大したことはないじゃろ」

「トゥルクがそんなに気になるなら来年もまた修行ってことでいくかいのう? ムミョウ」


「はい! お願いします師匠! 」


実力がどうであれ、見たこともない相手と戦えるのは僕としても楽しみだ。

それに僕の剣でレイやミュール、集落の人達を助けることが出来たのがとてつもなく嬉しかった。

まだあの国では魔王やその四天王が人々を苦しめている。

そう思うと居てもたってもいられなくなる。剣を持って素振りでもしようと立つと、師匠が真面目な顔をして忠告する。


「ムミョウよ。ここを発つ前にお前に言ったはずじゃ。我らは死にに行くのじゃと」

「焦りや迷いが最も戦士を殺す原因じゃ」

「今日は楽しめ。明日からまたみっちり鍛えてやるからな」


……そうだった。今ここで焦っても仕方がない。

準備を整えてまた来年の春に行こう。


「――申し訳ございません。師匠」


「よいよい。じゃがな、これも忘れるな」

「お主の剣が人を救った、守ったのじゃ。お主は弱くなどない。お主は強い。それは誇ってもよいぞ」


師匠の言葉に、思わずムミョウの目から涙が出てくる。


無駄じゃなかった……今までの苦しみや辛さも……


その後はゴブリン達に混ざって下手な踊りを踊ったり、生まれて初めてお酒を飲んで酔っ払ったりと散々ではあったが、楽しい夜を過ごしていった。


だが、翌日は結局2人とも二日酔いでダウンと相成り、トゥルクの家で仲良くベッドで眠ることとなった……


「うー……お酒がこんなにつらいものだったなんて……」


「わしってこんなに酒の弱かったのか……ぉぇ」


「ムミョウハトモカクトガヨ、オ前マデ倒レテシマウトハラシクナイナ」


「うるさいのう、わしも歳なんですーじゃ! アイタタタタ……」


うん、今後はお酒はあまり飲まないようにしよう、そうしよう……


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「バーン様! ここは私が! 」


「サラ! 頼む! 」


「ティアナ! 下がって! 」


「はっはい! 」


ここはノイシュ王国北にある2つ目の神々の鍛錬場

暗い地下洞窟の広場にて、勇者一行が巨大で真っ赤な肌色のオークや、鎧兜を着たオーガの集団と戦っている。


かなり苦戦しているようで鎧は欠け、傷の無い者はおらず、オーク達も何体かは倒れているが以前勇者たちよりも数は多い。


「くそ! オークのくせになんでこんなに頭が良いんだよ! おかしいだろ!? 」


「こんなオークは見たことがありません……」


「アイシャ! 御託はいいからさっさと『必中の矢』でオーク達をぶっ倒してよ! 」


「くっ! 我が敵に必ず死を!『必中の矢』」


どうにかバーンとサラがオークの気を引いて時間を稼ぎ、アイシャが技能を発動させる。

眉間を撃ちぬかれたオークが倒れるが、その隙間をすぐに別のオーガが埋める。


真っ赤なオークとバーンが相対しているが、暴風のような鉄塊の振りに近づくことが出来ず、避けるだけで精一杯だ。


「くそっくそっくそっ! ティアナの『炎の嵐』で一網打尽に出来れば楽なのによぉ! 」


「このオーガ達、ティアナに魔法を打たせないようにうまく立ち回っています……」


サラとアイシャがティアナをかばう形でオーク達から距離を取る。

ティアナは魔法詠唱のために意識を集中したいが、オークがそれをさせまいと攻撃してくるため逃げ回るしかない。


「やはり、時間を稼ぎつつ私とアイシャでオークを倒していくしか……」


「いえ! 少し……少しだけ時間をください! 」


ティアナが叫ぶ。

その表情にサラ達が目を見開くが、すぐに頷いて剣や弓を構えなおす。


「OK! 任せなさい! 」


「ただし! そんなには持たないわよ! 」


「行くわよ! 燃え盛れ『炎剣』」


「我が敵に必ず死を! 『必中の矢』」


サラに足元を斬られたオークが燃え上がり、素早く放たれた2本の矢が別々のオークの眉間を貫く。

一瞬空いたオーク達の間隙を塗って、ティアナが意識を集中する。


――心の中にその姿を思い起こす――


「我らを守れ! 『炎の堅陣』」


その瞬間、一行の周囲を燃え盛る炎の壁が囲み、オーク達と一行を分断する。

オーガは炎の壁に近づくことが出来ず、周囲で吼えたりしている。


「アイシャさん! 今のうちに! 」


「ティアナ有難う!」


アイシャが『鷹の眼』を発動させ、すぐさま『必中の矢』の準備に入る。


「――我が敵に必ず死を! 『必中の矢』」


力を振り絞って放たれた何本もの矢が、炎の壁を突き破ってオーガ達の眉間をどんどん貫いていく。


「もう……ダメ……これ以上は技能は発動できないわ……」


アイシャが倒れこむ。

その瞬間炎の壁が消え、周囲の状況が明らかになると残っているのは真っ赤なオークだけであった。


「GAAAAAAAAAAAAAA!! 」


仲間を殺された怒りかオークが空気を振るわせるほどの叫び声をあげる。


「けっ!てめえだけなら楽勝だ! サラ!俺の『轟雷』とティアナの『炎の嵐』を撃つから少しだけ時間を稼いでくれ! 」


「分かりました! バーン様! 」


サラが前に出て、オーガが振り下ろした鉄塊の横をすり抜け、右の太ももを狙って突きを入れるが、突き刺さるどころか皮膚とは思えない硬い音とともに弾かれてしまった。


「くっ……なんて硬いの……」


オークから離れようと後ろへ下がるが、そこへオークが鉄塊を持った右手で裏拳が飛んできてサラはまともに食らってしまう。


「あぐっ……」


そのままサラは何メートルも飛ばされ、地面を何度も転がり、壁にぶつかってやっと止まった。


「サラさん! 」


ティアナが呼びかけるが反応はない。

アイシャがどうにか近づいてサラを抱き起すが、意識はなく口から激しく血を流しており危険な状態だ。


「くそっ!急いでこいつを倒すぞ! 」


「はい! 」


バーンとティアナが意識を集中させる。

オークは叫び声をあげながら地響きを立てて2人に迫る。


「貫き通せ! 『轟雷』」


「燃え盛れ! 『炎の嵐』」


同時に放たれた魔法は、真っ赤なオーガの姿が見えぬほどに炎で包み込み、その中を青白い雷が駆け抜ける。


激しい爆発とともに煙が立ち上る。

暫く後に煙が晴れると、全身が焼けこげで真っ黒になっており、胴体に大きな穴を開けたオークが膝をついていたがまだ息はあり、鉄塊を杖に立とうとしていた。


「しつこいんだよ! さっさと死にやがれ! 」


バーンが剣を持って一気に駆け寄り、オークの首を飛ばす。

地響きを立ててオークが倒れるとすぐさま白い光となって消え、赤い宝箱と奥の扉が開く。


「ティアナ! 急いでサラの回復を! 」


「はい! 」


ティアナがアイシャに抱きかかえられているサラに近寄り、意識を集中させる。


「傷つきし者に神の癒しを……『神々の涙』」


ティアナの両手から白い光が溢れサラを包むと、苦悶の表情を浮かべていたサラの顔が和らぐ。

暫く魔法を掛け続け、サラの荒い息も落ち着いたところでティアナが一息つく。


「これで……もう大丈夫のはずです」


「よかったぁ……」


アイシャが指で自分の涙をぬぐう。


「はぁ……やっと終わったぜ……40階を攻略するのにかなり時間がかかっちまったがな」


バーンはサラが治療されている間に宝箱に近づき、鍵の部分を強く蹴って開ける、勢いよく開かれた中からは銀で装飾された見事な弓が出てきた。


「アイシャ、お前が使えそうなものだ」


そういってアイシャの元へ弓を持ってきた。


「ありがとうございます。バーン様」


「にしても、なんでこんないきなりモンスターどもが強くなったんだ……? 」


「分かりません……ですが、ここに出るモンスターは魔王の出現によって現れたモンスター達のはずです。そうなると新種のモンスターが出てきたという事かと……」


「こうなると時間をかけて神様の鍛錬場を攻略しているわけにはいけねえな……」


「ですが、魔王を倒すにはあと1か所は攻略しないといけません。幸いなことに情報では魔王の復活はまだ確認されていませんし、モンスターの活動も低調のようです」


「次はブロッケン連合国にある1か所か……」


「とりあえずサラの事が心配ですし、一旦街に帰りましょう。」


その提案に皆頷き、サラをバーンが担いで重い足取りでゲートまで歩いていく。


「私は……強くなれたかしら……」


ティアナは俯きながら呟く。

その問いに対する答えを返す者はなく、広場に小さな風となって消えていった。



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ムミョウ達は前年の失敗を生かし、フッケでトゥルクの軟膏を換金した後は連合国までギリギリ街道を通り食料を補充しつつ、連合国に入ってからは前回同様国境沿いを通って集落跡地を拠点にし、そこで三月ほど過ごすことにした。


すでに雪も解けて移動に支障はなくなっている。

トガに更に鍛えられたムミョウには風格が備わり、睨まれただけでファングウルフが逃げ出すほどである。


「さあ! 師匠行きましょう! 」


「まぁそう急くなよムミョウ。急いだって敵は逃げん……ゴホッゴホッ」


最近風邪気味なのか、師匠の咳が増えた気がするけど、相変わらず剣の冴えに衰えはない。

まだまだ実力の差は感じるけど少しは近づいたと思いたい!


さあ!今度こそもっと強い敵に会えるのが楽しみだ!

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