第42話★お兄ちゃんは心配なんです〜side翔〜 2
「あっ。それ今日作ったやつだねー。俺も花音にあげようと思って持って来たんだよ? 」
やっと花音の手元にあるマグネットに気付いた響は、そう告げるとニッコリと微笑んだ。
……えっ?
いや、ちょっと待て……今響のヤツ何て言った?
まさか……あれを花音にあげるつもりなのか……?
今日の図工で作ったマグネットは、形は各自好きな物をモチーフに作っていいとの事で、花音にあげる予定でいた俺はウサギにした。
図工の授業を思い返した俺は、あの時見た響のマグネットを思い出してみる。
あれは……恐らく人の顔なのだろう。
口は大きく裂け上がり、目玉はまるで飛び出しているかのよう……。
何とも不気味な人間……なのか……?
あれじゃホラーだ。
……冗談じゃない。
あんなもの花音にあげるなんて、怖がらせるだけだ。
そんな事を考えていると、響がポケットから何かを取り出して花音に差し出した。
……ヤバイッ!!
焦った俺は、2人に向かって咄嗟に口を開いた。
「わーーっっ!! 」
ーー?!!
何事かと、目を見開いて驚く響と花音。
「……っビックリしたー。どうしたの? 翔。急に大声なんか出して」
「それをよこせっ! 」
響の手を勢いよく掴んだ俺は、その掌の中身を奪おうとこじ開ける。
「……飴? 」
コロンと転がる響の掌の上の飴を見つめ、小さく呟いた俺。
な、なんだ……飴……か。
俺は飴の為にあんなに必死に……。
ハハッと小さく渇いた笑い声を上げた俺は、チラリと響達の方を見た。
「翔……それ、花音にあげようと思ったのに。……お兄ちゃんなんだから、我慢しないとダメだよ? 」
「あっ……いや、ごめん。これはあげるよ、花音」
怯えたような顔で俺を見つめる花音に謝罪した俺は、花音の手を取るとその掌に飴を乗せてあげる。
何やってるんだ、俺は……。
自分の行動を恥ずかしく思った俺は、少しばかり反省をすると小さく溜息を吐いた。
勘違いして妹の飴を横取りするって……
何やってるんだよ、俺。
大体、響に振り回されてる事自体が
何でこんなアホに俺が……。
そんな事を一人グルグルと考える。
「はい、花音。俺が作ったマグネットだよー。花音にあげるね」
ーー!!!
「……えっ!!? 」
響の声に反応した俺は、ハッと我に返ると大きな声を上げて響を見た。
小首を傾げ、ヘラヘラと幸せそうに微笑む響。
その視線の先にいる花音を見てみると、怯えた顔のまま固まってしまっている。
花音の手元にはあの不気味なマグネットが……。
あーーっっ!!?
響のヤツ、いつの間に……っ!
あんなモノ花音に渡すなよバカっ!!
今にも泣き出してしまいそうな花音に、焦った俺は花音に向かって手を伸ばす。
ーーとその時、プルプルと小さく震える花音が口を開いた。
「これ……なぁに……? 」
か細い声を出し、怯えた顔で響を見つめる花音。
「王子様だよー」
……これ……が……?
っ……酷すぎる……これじゃ、どう見たって不気味なバケモノだ。
花音に向けて伸ばしかけた手をそのままに、俺は響を見てドン引いた。
「……えっ。おーじ……さま? 」
小さな声でそう呟いた花音は、震える自分の掌に乗ったマグネットを見つめる。
そんなモノ見るな、花音。
今俺がっ……!
パシッと花音の手首を掴んだ瞬間、花音が勢いよく顔を上げた。
ーー!?
「……ほんとっ?! 」
キラキラとした満面の笑顔で、響を見上げてそう言った花音。
えっ……?
「うん、本当だよー。王子様だよー」
「わぁーっ! ありがとう、ひぃくんっ! 」
えっ……いやいやいや。
待て待て、花音。
それのどこが王子に見える……?
未だ掴んだままの花音の手元を見て、花音の反応に困惑する俺。
いや……でも……。
花音が怖がってないなら、いいの……か……?
不気味なマグネットを見つめ、俺は思わず眉をひそめる。
思わぬ展開には驚いたが、結果的に花音は喜んでるみたいだし、これで良かったじゃないか。
そうは思うものの、目の前の不気味なマグネットにはどうも納得がいかない。
……どう見たってホラーだ。
花音は本当にコレでいいのか?
「おにーちゃんっ!ひぃくんがおーじさまくれたよー! かわいい? 」
「えっ?! ……あ、あぁ。良かったね、花音」
嬉しそうに笑う花音を見て、俺は引きつった笑顔でそう返事をする。
掴んでいた手首を離すと、そのまま嬉しそうにキッチンへと消えてゆく花音。
どうやら、お母さんに報告しに行ったようだ。
嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ花音の声を聞き、俺はホッと溜息を吐くと響を見た。
そんな俺を見て、ヘラッと笑って小首を傾げた響。
「花音、喜んでくれたねー。良かったー」
ホントに良かったな……泣かなくて。
俺は花音が泣き出すんじゃないかと焦ったよ。
全く……響といると本当にハラハラして疲れる……。
ヘラヘラと笑う響を横目にした俺は、気苦労の絶えない幼なじみにそんな事を思う。
その日から、我が家の冷蔵庫には俺の作ったウサギのマグネットと、響の作った不気味なマグネットが並んで貼られた。
それを見て、「かわいい、かわいい」と嬉しそうにする花音。
俺はそんな花音にたいして、響のマグネットと同等扱いな事を不満に思い、また、花音自身のセンスが心配にもなった。
それでも、花音の手前何も言えない俺は、冷蔵庫を開ける度に「……どこが可愛いんだよ」と呟いては響の作ったマグネットを指で弾いて不満を漏らした。
ーーーーーー
ーーーー
「……」
冷蔵庫に手をかけた俺は、目の前のマグネットを見つめながら、そんな昔の事を思い出す。
俺はあの時……間違った対応を取ってしまったのだろうか……?
チラリとリビングの方へと視線を移すと、馬の頭を被った全身白タイツの響を眺める。
花音の横で、嬉しそうに馬の頭を揺らしてヘラヘラとする響。
何なんだよアレは……。
花音……お前の理想の王子様は……アレなのか?
本当にアレでいいのか……?
昔から変わらぬ妹のセンスに不安を覚えた俺は、大きな溜息を吐くと冷蔵庫を見た。
「全部お前のせいだ……響」
俺は目の前の不気味なマグネットを指で弾くと、今日も小さく不満の声を漏らしたーー。
ーー完ー ー
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