第11話★君は私の彼氏でした!? パート2
「私いちご練乳かき氷ー!」
「ご飯は?」
「いらなーい」
「後で腹減ったとか言うなよ」
私をジロリと見たお兄ちゃんは、そう告げるとひぃくんと一緒にレジへと歩いて行く。
遊び疲れた私達は、数件ある海の家から一番近場を選ぶと、四人で昼食を取る為に店内へと入った。
皆が焼きそばだのラーメンだのと言っている中、私だけかき氷を頼むと、お兄ちゃんは呆れた顔をしていた。
暑くて食べる気しないんだもん。
よく皆食べれるよね。
適当に空いている席に座ると、お兄ちゃん達の後ろ姿を眺める。
あ……
また女の人に逆ナンされてるし。
「声掛けられすぎ……」
私は小さく溜息を吐くと、ポツリと呟いた。
男二人になった途端にこれだ。
本当に二人はよくモテる。
「二人ともイケメンだからね……」
私の目の前に座った彩奈は小さくそう呟くと、お兄ちゃん達の後ろ姿を見つめて目を細めた。
何だかさっきから彩奈の様子がおかしい気がする……。
そう思いながらも、再びお兄ちゃん達へと視線を戻す。
何やら女の人達と話しているお兄ちゃん達。
よく見ると、お兄ちゃんの腕に自分の腕を絡ませて胸を押し付けている。
随分と積極的なお姉さんだ……凄い。
唖然として眺めていると、突然ひぃくんがこちらを振り向き、ヒラヒラと手を振ってきた。
え!?……な、何?
そう思いながらも、小さく手を振り返してみる。
すると、私達の方を見た女の人達が、残念そうな顔をして去って行った。
あ……ナンパ避け?
取り敢えず役に立てたんなら良かった。
ホッとしたのと同時に、早くかき氷が食べたくなる私。
「お兄ちゃーん!かき氷ぃー!」
お兄ちゃんへ向けてそう催促をする。
暑いから早くかき氷が食べたい。
さっさと買ってきて。
そんな自己中な事を考えていた私。
お兄ちゃんは呆れた様な顔をすると、クルリと背を向けて今度こそレジへと向かって歩き出した。
「兄使いが荒いわね」
チラリと私を見た彩奈は、そう言うと呆れたように溜息を吐く。
「だって暑くて……」
私は彩奈に向けてそう言うと、エヘヘッと笑ってごまかした。
※※※
「んー冷たくて美味しー」
お兄ちゃんが買ってきてくれたかき氷を頬張りながら、両頬を包んで身悶える。
火照った身体に冷えた氷が染み込むようで、想像以上にかき氷が美味しく思えた。
「良かったねー」
私の隣でひぃくんが嬉しそうに微笑む。
ひぃくんの目の前に置かれたカレー見ると、何だか私も食べたくなってきた。
……やっぱりご飯も買ってきてもらえば良かったかも。
美味しそう……。
「カレー食べる?」
ジッと見ていた私に気付いたのか、ひぃくんはそう言うとクスリと笑った。
「えっ!いいの!?」
「だから言っただろ……」
喜びに瞳を輝かせる私に向けて、呆れ顔のお兄ちゃんは溜息混じりにそう告げる。
だって……
あの時は食べたいと思わなかったんだもん。
「いいよー。はい、あーん」
ひぃくんから差し出されたスプーンにパクッと食いつくと、辛すぎないカレーが口の中いっぱいに広がった。
あーなんて幸せなんだろう……。
海で食べるカレーってこんなに美味しいんだね。
頬っぺた落ちそう……。
思わず顔がニヤける。
「幸せぇー」
「花音可愛いー。もう一口食べる?」
「うんっ!」
「はい、あーん」
あまりの美味しさに、お兄ちゃんと彩奈が目の前にいる事も忘れる。
私はひぃくんから差し出されたスプーンにパクリと食いつくと、美味しいカレーを頬張った。
「……響さん。何だかいつにも増して花音にベッタリな気が……」
私達を見つめる彩奈にそう言われ、私はハッと我に返る。
つい素直に食べてしまった……。
何やってるの、私。
これではただのバカップルだ。
「んー?だって花音は俺のお嫁さんだからねー」
彩奈を見てニッコリと微笑むひぃくん。
「え……?それって、付き合ってるって事?」
「そうだよー」
彩奈からの質問に笑顔でそう答えるひぃくん。
えっ!?
まだその設定続いてたの!?
「ひ、ひぃくん……もうその設定はいらないよ?」
困った様に笑いながらそう告げると、ひぃくんは途端に悲しそうな顔をする。
それを見て思わずギョッとする私。
えっ……。
私、何か悪い事言った?
「花音っ……離婚だなんて言わないでよー!」
ひぃくんはウルウルと瞳を潤わせると、そう言って私を抱きしめる。
えー
何それ……。
「お前らいつから付き合ってたわけ?」
その声に視線を向けると、何だかドス黒いオーラを漂わせたお兄ちゃんが……
私をジロリと見ている。
「つ、つっ、付き合ってなんかないよっ!」
「付き合ってるよーー!!」
や、やめてひぃくん。
お兄ちゃんが誤解するからぁ!
付き合っていないと言う私の横で、ひぃくんは私を抱きしめながら付き合っていると言う。
本当にやめて欲しい。
お兄ちゃんの顔がどんどん鬼になってくるのに気付いて!
私に抱きつくひぃくんを退けようとするも、ひぃくんの力が強すぎて退けられない。
鬼が……
鬼がぁー!!
「え……で、どっちなの?付き合ってるの?付き合ってないの?」
少し呆れた様な顔で質問をする彩奈。
「付き合ってないよー!」
「付き合ってるよー!」
「もう、やめてよひぃくん!嘘付かないでっ!」
「嘘じゃないよー!花音酷いよー!」
大きな声でそう言ったひぃくんは、私に抱きつきながらメソメソと泣き出した。
えー。
何か私が悪者……なの?
何で泣くのよ……。
私達に呆れた彩奈が、小さく溜息を吐くと口を開いた。
「うん、わかった。じゃあ……響さん。花音とはいつから付き合ってるの?」
え!?
付き合ってないよ!彩奈!
そう思いながら彩奈を見ると、いいからお前は黙っとけって顔をされる。
そんなに怖い顔しないでよ……。
仕方ないので素直に黙って見守る私。
「体育祭の時。花音がお嫁に来てくれるって言ってた……」
え……えっ!?
あ、あの時の!?
私は数ヶ月前の出来事を思い出す。
確かひぃくんが告白されたと聞いて、私がどうなったのか尋ねたやつ……。
気になるって事は俺の事が好きだって事だと言われて……
そこまで思い出すと、一気に顔が熱くなる。
い、いやいやいや。
私ひぃくんの事好きじゃないし。
うん、断じて違う。
えっ、待って。
あれで付き合う事になっちゃうものなの?
それが普通なの?
交際経験のない私にはさっぱりわからない。
チラリとお兄ちゃんの方を見ると、興味がなくなったのか平然として焼きソバを食べている。
え……
わからない……誰か教えて。
彩奈を見ると、真っ赤になっているであろう私の顔を見てフッと笑うと、自分の焼きソバを食べ始めてしまった。
え?え?!
その笑いはどういう意味?!
一人でパニックになる私。
「花音、体育祭の事覚えてないの?」
メソメソと涙を流しながら、ひぃくんが私の顔を覗き込む。
「覚えてる……けど」
あれで彼女になっちゃうものなの?
……私にはよくわからない。
「花音は俺のお嫁さんだよ?彼女だからね?絶対に離婚なんてしない」
ひぃくんはそう言うと、私に抱きついてまたメソメソと泣き出す。
え……。
やっぱり……私ひぃくんの彼女なの?
そうなの?
最近、やたらとスキンシップの激しくなったひぃくんを思い出す。
確かケーキを食べていた時は口を舐められた。
さっきだって「あーん」なんて、普通に喜んで食べてしまった……。
私は呆然としたまま、ゆっくりとテーブルへ視線を移す。
私の手に握られたかき氷の器が汗をかき、冷んやりとした水滴が指を伝ってポタリとテーブルへ落ちた。
そっか……
私彼女だったんだ。
……あれで彼女になっちゃうんだ。
知らなかったよ……。
メソメソと泣きながら抱きつくひぃくんをそのままに、私はテーブルにできたいくつもの水滴を見つめながら、ただ呆然とそんな事を考えていたーー。
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