平凡なプログラマーのゆめにっき

睦頃

2018/11/26(月) 連休明け

我が家のピアノは和室に置かれていた。

ふすまを開けると、6畳もない小さな部屋にでっかいグランドピアノが、我が物顔で鎮座していた。

子供の頃は、こいつの下でミニ四駆のコースを組み立てて、秘密基地のような気分で遊んだ。懐かしい。


今となっては椅子だけが取り残され、物置と化した跡地。

障子には、薄暗い中シトシトと降る雨がガラスに影を映している。

ひとりぼっちの椅子に座り、目を瞑って深呼吸をする。


床はカーペットに張り替えられており、畳の香りはしなくなっていた。

背筋を伸ばし、鍵盤に手を構え、ペダルに足を乗せる。

意識を向けるとそこには鍵盤が浮かび上がり、そっと指を落とすと心地よい打鍵音とともに音が響いた。

昔から即弾はニガテだったが、暗譜は得意だった。


「ご飯できたぞー」

呼ばれる声に応じて和室を出ると、長靴を履いて外へ出た。

軒下で黒いトカゲが立っているのを見上げる。

ヤモリ、イモリ?いや、アマモリだろうか。

手に持つりんごには大きな歯型がついていた。

りんごは皮ごと食べられるし、そこそこ日持ちするし、丸かじりなら包丁もいらない。オヤツに最適だ。

自分もカバンからりんごを取り出して齧り付くが、大きく噛みすぎたせいでアゴが外れそうになった。

トカゲは目を細めて笑った気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る