流し素麺がしたい


「ちょっと定晴! 邪魔! ゾンビが倒せない!」

「おっと、それはすまんな小娘。小さいから見えなかった」

「あっそ! じゃあ、定晴ごとゾンビ撃つ!」

「いったぁ! お前、人間である僕を撃ったな!?」 


 茶菓子を食べ、ずっと世間話をするのも飽きたので俺の部屋でゲームをすることになったのだが、この二人はずっとこんな様子だ。

 プレイヤー二人で協力し、迫りくるゾンビを倒すゲームなのだが、まったく協力をするつもりがない。むしろ、先程から妨害ばかりしあっている。


「ぐぐぐ、まあいい。ほれ、そっちにゾンビがいったぞ」

「いったって、こっちに蹴りつけてくるの見えてたから!」

「知らぬ。格闘アクションをしたら勝手に飛んでいったんだ」

「ちゃんと倒しておいてよ!」


 主に邪魔をしかけるのは定晴なのだが、またやり方が陰湿だ。

 自分に迫ってくるゾンビを躱して七海の方へ行かせたり、時には格闘アクションで七海の方に吹き飛ばしたりしている。


 無秩序に襲ってくる中、そのような事をするのは難しいはずなのだが、いとも簡単にやってのける。相変わらずのゲームの腕前だが、やっていることがしょうもない。

 俺と礼司がやる時も大概酷いものだが、こちらはもっと酷いな。

 大量のゾンビを押し付けられた七海のキャラが、ゾンビに攻撃されてドンドンと体力を減らしていく。


「あー、もう無理! こうなったら一気に吹き飛ばす!」

「おい、バカちょっと待って。こんな狭い場所で手榴弾なんか使ったら!」


 定晴が止めるがもう遅い。

 七海のキャラが室内で手榴弾を投げた。

 それはわらわらと集まっていたゾンビを一気に吹き飛ばしたのであったが、密閉空間だった故に近くにいた定晴の キャラや、自分のキャラまでも爆炎に呑まれていた。

 そんな自爆攻撃のせいで二人が操るキャラはあっという間に体力を減らして、死んでしまった。

 画面の中央に血塗られた文字でゲームオーバーと表示される。


「バカ者! ここは狭いから手榴弾の類は禁止だと言っただろ!」

「だって、定晴がゾンビを押し付けてくるんだもん!」


 二人が仲良くなれるようにと協力プレイをやらせてみたが逆効果だったな。


 呆れながら室内にある時計に視線をやると時刻が十二時前になっていた。

 もう、そろそろお昼ご飯の時間か。

 今日は母さんも畑の手伝いに行っていて、まだ帰ってきてはいない。

 リビングに降りれば食事ができているということはないのだ。

 そういえば、素麺が大量にあるからお腹が空いたら適当に食べておいてと言われた気がする。


「そろそろお昼にするかー」

「お昼食べる!」


 俺がそう呟くと、七海が元気よく反応した。


「忠宏よ。メニューはなんだ?」


 そして定晴が髪の毛をフッと払いながら尋ねてくる。

 その口ぶりから定晴も一緒に食べるつもりだ。

 別にこちらから誘うつもりだし、定晴がうちの飯を食っていくのはいつもの事だったので違和感はない。


「素麺」

「ふむ、素麺か。この暑さの中でも食べやすいから悪くはないな」


 定晴も文句はなさそう、というか言っても素麺しか出せないのだがな。とにかく、お昼ご飯を食べることが決まったので、準備をしようと動き出すと七海が元気よく言い放つ。


「やるなら流し素麺にしよう!」

「えっ、流し素麺?」

「ダメだった? あたしやったことないから、やってみたくて……」


 思わず戸惑いの声を上げると、七海がこちらを見上げながら申し訳なさそうに言った。

 なんだか七海のその顔を見ると、無性に罪悪感に駆られてしまう。


「いや、いいよ。ちょっと驚いただけだから」

「確か流し素麺の道具はあったはずだな?」

「うん、でも使ったのは昔だから、ちゃんと使えるかまでは保障できないな」


 納屋に流し素麺に使える竹が入っているはずだが、きちんと手入れされているかどうか怪しい。

 もしかしたら腐食していたりして使えないということもあり得る。


「まあ、その時は普通の素麺を食べるまでだ。今度、礼司にでも作らせればいい」

「そうだな」


 そんな訳で俺達は素麺を茹でる前に、流し素麺の道具が入っている納屋を見にいく。

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