餌を買う
「礼司、スルメとあたりめある?」
「おお、あるぜ」
俺が尋ねると、礼二が数多ある駄菓子の中からスルメとあたりめを探して取ってきてくれる。
「今日は渋いチョイスだな。酒のつまみか?」
「いや、餌にするんだ」
「餌?」
「今日はザリガニ釣るんだ!」
首を傾げる礼司に七海が自慢げに言う。
「そりゃまた懐かしいことするな! 俺も混ぜろよ!」
「いいけど店と仕事は大丈夫なのか?」
店番もあるだろうし、つい先程までノートパソコンを触っていた模様。例のWEBコンサルタントとしての仕事があるのではないだろうか?
「んなもん、平気だ! どうせ客もあんまりこねえ! コンサルタントの仕事も後でいい!」
「それでいいのかお前……」
「へっ、自由が利くのが自営業の強みだからな!」
俺が呆れた声を出すも、特に気にした風もなく堂々とする礼司。
まあ、仮に留守の間に人がきても、無人販売のようにお金を置いて勝手に駄菓子を取っていくだろうな。ここら辺の人はそういうのに慣れているし。
にしても、自分で時間を調節できる自営業が羨ましいな。
会社にいると問答無用で八時間から十二時間は拘束されてしまうので、自分で時間を配分して調節できるのが羨ましく思える。
仕事も時期によって波があるので……あ、仕事のことを考えちゃダメだ。愚痴が止まらなくなってしまう。今は仕事を辞めているんだ。ザリガニ釣りを楽しむことだけを考えよう。
「忠宏、竿とか持ってきてるのか?」
「ああ、外に置いてある」
「なるほど、俺も取ってくるからちょっと待っててくれ」
俺がそう答えると、礼二は慌ただしく奥の部屋へと消えていった。
駄菓子フロアに残っているのは俺と七海。
七海は陳列している駄菓子を見て目を輝かせている。
「俺達は待っている間に駄菓子でも買うか」
「いいの!?」
「ああ、釣りしながら駄菓子を食べよう」
そう言うと、七海は「やったー!」と声を上げながら店内に置いてある小さな籠を手に取った。
俺も駄菓子を買うべく、小さな籠を手に取る。
今日は何を買おうか。この間もここで駄菓子を買ったが、籠を持つとどうしてもワクワクしてしまうな。大量にある中から選ぶと言う事が楽しくてしょうがない。
キャベ太郎やビッグカツ、うめえ棒は外せないな。
自分の分を選びながら七海の方を確認すると、籠の中に一口チョコを入れているのが見えた。
「ちょっと待て、七海。チョコは溶けるからやめておいた方がいい」
「えー、でもチョコ食べたーい!」
気持ちはわからないでもないが今日も外は暑い。
一口チョコなど持って外に出れば、あっという間に溶けてしまうことは間違いないだろう。
それでも本人はチョコを食べたい様子。
「だったら、ここにある輪投げチョコとかどうだ? これなら溶けにくいし食べ終わってから遊べるぞ」
「あっ、それもいいね!」
代案として示したのは表側からチョコを押すことによって、裏側からポンと飛び出すブリスター容器のチョコだ。食べ終われば立派な輪投げとして使える。水筒めがけて投げて遊ぶのも悪くない。
七海は輪投げチョコを気に入ったのか、一口チョコと入れ替えた。これで釣り場での惨事を防げたな。
ホッとしながら駄菓子を次々と籠に入れていると、奥の部屋から礼司が出てきた。
しかし、礼司の手には釣り竿は見当たらない。
「あれ? 釣り竿は?」
「見つかんなかった。だから、俺は割り箸で釣るぜ」
ポケットからカッコつけて割り箸を出す礼司。
全然カッコよくも何ともない。
「割り箸でも釣れるの!?」
「ああ、余裕だな。むしろ糸だけでも釣れる!」
「忠宏兄ちゃん、本当?」
礼司の言葉を胡散臭いと思ったのか、七海がこちらを向いて聞く。
「ああ、ザリガニ釣りは浅いところでやるし、ザリガニはすぐに餌に食いつくからな」
実際のところ礼司の言う通り、糸と餌さえあればザリガニは釣れる。それほど奴等は単純なのだ。
「竿は、ぶっちゃけ釣りっぽい気分を味わうためだけのものだ!」
それは少し否定できない。
でも、竿がないと気分も下がるし、持ちにくいってこともあるからできればあるに越したことはないな。
「んじゃあ、準備もできたことだし釣り場に向かうか。俺、ザリガニがたくさんいて日陰のある所知ってるぜ!」
「本当!?」
「それなら礼司に案内は任せた」
ザリガニがたくさんいると聞いて七海も興味を示している。どうせ釣りをするなら日陰のある所がいいしな。
「んじゃ、ザリガニ釣りに出発だ!」
「おー!」
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