それは、ひとつの・・・

勝利だギューちゃん

第1話

「やあ、元気?」

「なんとかね」

「暗いね、相変わらず」

「明るければ、僕らしくない」

この子は、変わらない。

僕もだが・・・


「ねえ、前に私と話たこと覚えてる?」

「ああ、覚えてる」

僕は、あまり人と話さない。

人も、僕とは話をしたくない。


でも、中には変わり者もいる。

彼女がその変わり者だ。


「君は変わってるね」

「私の事?」

「他に誰か?」

「どうして私が、変わってるの?」

「僕と会話をする」

「どうして?当たり前じゃない」

「そこが、変わってる」

「えっ」

「悪い事は言わない。僕とはかかわらないほうがいい」

「どうして?」

「君のためだ」

そう、僕とかかわると、火の粉が降りかかる。

自ら、痛い目に合う必要はない。


「大丈夫だよ」

「何が?」

「私はもう、君とは住む世界が違う」

「なら、今住んでいる世界の人を、大切にしたほうがいい」

「どうして?」

「君は興味本位なのか、冷やかしなのかわからない。でも・・・」

「でも?」

「いずれにしても、ネガティブな理由だろう」

「どうして、わかるの?」

「体験談だ」

彼女は、しばらく考えているようだった。


「私ね、君の事が好きだったんだ」

「ウソだね」

「本当よ。でも愛でもなかれば、友達としてでもない」

「どういう意味?」

「尊敬よ」

「尊敬?」

彼女は続けた。


「私は長い物に巻かれないと生きていけなかった。でも・・・」

「でも?」

「君は、自分という物を持っていた。他人に何と言われようと、それを崩さなかった」

「僕は、嫌われていたからね」

「違う。君は知らないけど、君の事を想っている人は、実はたくさんいるんだ」

「えっ」

「私も、その1人だった」

そう、「だった」。

もう過去形なのだ。


「君は今のままでいて」

「今のまま?」

「そうすれば、すぐに見つかるから、素敵な人が」

素敵な人・・・か・・・


「最後のひとこといい?」

「ああ」

「ありがとう。私と話してくれて・・・

君だけだったよ。私をその他大勢でなく、ひとりの女の子として見てくれたのは・・・」


彼女の言葉の意味がわかるのに、そう時間はかからなかった。


目が覚めた。

何の夢を見ていたのかは、おぼろげだ。

でも、とても懐かしく、あたたかい夢だった。


すると、ひとりの女の子が覗き込んできた。

「よかった・・・目を覚ましてくれて・・・心配したんだよ」

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それは、ひとつの・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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