あの世へ旅立つその前に
勝利だギューちゃん
第1話
「迎えに来たよ」
病院の一室で、寝ている僕に、ひとりの女の子が声をかけた。
知らない子だ。
僕がいるのは、個室なので人違いであるまい。
「君は一体・・・」
「私、あなたたちの世界で、死神と呼ばれる存在ね」
「ということは、僕は・・・」
「そう、その若さで残念だけど・・・」
「そうか・・・残念だ」
「辛くないの?」
「何が?」
「死ぬのが・・・」
「ああ」
僕は、死神と名乗る少女に、本音を伝えた。
「どうして?皆いやがるよ」
「僕は、他人とは違う。覚悟はできていた」
「そう・・・おかしな人ね」
「よく言われるよ」
「何か、リクエストはない?私にできる事なら、何でもするよ」
漫画とかではよくある。
でも、結局何もしてくれない。
死にゆく者には、無駄だからだ。
「君は、人間の女の子と変わらないんだね」
「私はまだ、新人だからね。今日が初仕事」
「そっか」
「やはり、黒ずくめのほうがよかった?」
「いや、君でいい」
「ありがとう」
何だか世間話に、心が和む。
人?と会話したのは、いつ以来だろう。
医者も、看護師も、最低限の事しかしない。
孤児なので身寄りはない。
ぼっちなので、友達はいない。
「で、僕はいつ死ぬんだ」
「今から、1時間後」
「そっか・・・」
1時間じゃ、何も出来ない。
ならせめて・・・
「ねえ、リクエストはないの?」
「わかった。ひとつ頼む」
「1時間の間、僕とお話してくれ」
「それでいいの?」
「ああ。ただし人間と死神ではなく、男の子と女の子として」
「欲がないのね。わかったわ」
こうして、僕は女の子とお話することにした。
「ところで、君の名は?」
「みこ、志仁賀みこよ」
「僕は、知ってると思うが、淵野良(ふちのりょう)だ」
「よろしくね。良くん」
「よろしく。みこさん」
「みこでいいよ」
これからの、1時間は僕の人生で、もっとも有意義のある一時間になるだろう。
一分一秒を、大切にしよう。
みことの時間を・・・
ラスト一時間だけの恋人、それでいいよね。
あの世へ旅立つその前に 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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