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 大学生になった恵は、その日、フランス行きの飛行機の中にいた。

「まったくもう。全然手紙、書いてくれないんだから」

 恵は一人、そんなことを席に座って言っていた。

 文句の相手はもちろん、松野葉月くんだった。

 葉月くんはフランスで順調にケーキ職人、パティシエとして成長して、何度かコンクールのようなもので、賞をもらったりしているらしかった。

 なぜそんなことを恵が知っているかというと、恵が葉月くんにエアメールを何度か書いたからだった。葉月くんは恵の手紙にきちんと返事をくれたのだけど、結局今の今まで、自分から恵に手紙を書いてくれることは一度もなかった。

 そのことが恵はとても不満だった。

 パリであったら、まずそのことをについて文句を言ってやろうと、恵は思った。

 それから恵は水を飲み、そしてフランス語の日常会話の本を読んだ。


 葉月くんは空港まで恵を迎えに来てくれるらしい。

 今から、空港で葉月くんと再会するのが、恵はすごく楽しみだった。

(それから葉月くんはパリで猫を拾ってその子を育てているらしい。真っ白な猫。名前はしろちゃん。その猫を見るのも楽しみだった)

 葉月くんは、昔よりももっともっとかっこよくなっているのだろうか? きっとなっているのだろう。私だって、昔よりはずっと綺麗になっている。

 一応、自信もある。

 だから今度こそ、その自信を持って言うのだ。

 葉月くんに「世界中の誰よりもあなたのことを愛しています。だから私と結婚をしてください」って、葉月くんにそう告白をするのだ。

 パリの街で、そう言うのだ。

 恵は思う。

 松野葉月くんのことを。

 二人の、幸せな未来のことを。


 飛行機が日本の空港を出発した。

 フランスの空は、今、晴れているのだろうか?

 日本晴れの(まるで海みたいな)一面の青色の空を飛行機の窓から見ながら、そんなことを恵は思った。


 小鳥 ことり 終わり

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