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「僕も四ツ谷さんのことが好きです」葉月くんはそう言った。

「でも、僕には夢があります」

 恵は葉月くんの言葉にじっと耳を傾けている。

「その夢のために僕はフランスに行きます。だから、四ツ谷さんとお付き合いをすることはできません」

 葉月くんは言う。

「フランスにはどれくらいの期間いくんですか?」恵は言う。

「夢が叶うまで、帰ってくるつもりはありません」

 葉月くんは言う。

「それまで待ちます」

「そんな無責任な約束はできません」

 葉月くんはそう言って優しい顔で、ちょっとだけ笑った。

「……じゃあ、私も一緒にフランスに行きます」

 恵は言う。

 もちろん恵は葉月くんとは違って、そんな準備はなにもしていなくて、それは不可能なことだった。

 恵はまだ高校生だし、年が明けて三月になればその高校を卒業するし、その先の進路もすでに決まっていた。

 でも恵は葉月くんにそう言った。

 もし葉月くんが「じゃあ一緒にフランスに行こう」と言ってくれれば、恵はあらゆるものを犠牲にして、葉月くんとフランスに行こう、とこのとき本当に思っていた。

 でも優しい葉月くんは「それはできません」と恵に言った。

 その言葉を聞いて、恵はなんだかとても悲しくなった。

「ありがとう。……さようなら」

 そう言って葉月くんは今度こそ本当に恵の元から去って行ってしまった。

 それから恵は少しだけその場でぼんやりとして、それから綺麗な冬の星空を見上げて、寒い風が吹いて、「寒い」と恵は言って、今が冬なのだということを思い出して、それから恵はなにかから逃げるように、昨日の夜と同じように全速力で夜の街の中を駆け出して、自分の家に帰って行った。

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