93
冬の冷たい風がコンクリートの橋の上を吹き抜けた。
「送ります」
柳田先生は真由子にそう言った。
「……大丈夫です。お迎えにはこの橋のところまで来てもらいますから」涙声で真由子は言う。
真由子は運転手さんに電話で連絡をした。
それから少しして、橋の向こうのところに真由子の家の車が止まった。
「先生。今日は私の相談に乗ってくれてありがとうございました」真由子は言った。
柳田先生は無言だった。
「今日はここでさよならをしましょう。私は大丈夫ですから」
「本当に大丈夫ですか?」
柳田先生は言う。
「……はい」
真由子は答える。
その真由子の言葉と、車から降りて真由子のことを待っている運転手さんの姿を確認して、柳田先生は「それじゃあ……」と言って、橋を渡って、自分の家に帰ろうとした。
その歩き出した方向は、真由子の車が止まっている橋の方向とは反対の方向だった。
柳田先生が真由子の横を通り過ぎて行った。
その瞬間、……私の初恋は、これで終わりなんだ、と真由子は思った。
すると突然、真由子の心にスイッチがはいった。
「柳田先生!!」
後ろを振り返って真由子は叫んだ。
その声を聞いて柳田先生は真由子のほうを振り返った。
真由子は姿勢を整えて、頬を流れる涙を拭って、それから、軽く深呼吸をして、柳田先生の顔を正面から見つめた。
柳田先生の真由子を見るあの目は、いつものように、冬の夜空に輝く美しい星々の光に負けないくらいに、やっぱり今日もきらきらと輝いて見えた。
それが真由子にはすごく嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます