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今年の四月ごろ。
桜の花びらが舞う春の季節。
この大きな十字の形をした交差点を渡っているときに、十八歳の日向明里は人生で初めての恋をした。
その人は他校の男子高校生で、明里はその人の名前も顔も知らなかった。
その人は明里の正面から明里とすれ違うようにして歩いきて、実際に明里とその人は十字の交差点の真ん中あたりですれ違った。
……それは運命だったのかもしれない。
……あるいは、ただの偶然だったのかもしれない。
本当のところの理由は明里にはわからない。
でも、その瞬間、明里は確かに恋に落ちた。
明里は本当にびっくりした。
その人とすれ違った瞬間、強く心を惹かれた明里は思わずその場に立ち止まって後ろを振り返って、人波の中にいる彼の姿を探した。
……もしかしたら、彼も私を探してこちらを振り返っているかもしれない。
そんなことを明里は思った。
でも、実際にはそんなことはなかった。
その人の後ろ姿を明里はすぐに見つけることができたが、その人は前を向いたままで、後ろを振り返って、明里を見つけようとはしてくれてはいなかった。
明里はすごくがっかりした。
やがて、その人の姿が見えなくなると、明里はなんだか道の真ん中でしゃがみこんで泣きそうになってしまった。
どん! とスーツの男性とぶつかった。
「すみません」
明里はすぐに謝って、もう一度、横断歩道を自分の家のある方向に向かって歩き出した。
それから明里はなんだかよくわからないままに実家についた。
「ただいま」
そう言って家に上がり、自分の部屋に戻って明日の授業の準備をして、それから晩御飯を食べて、お風呂に入った。
そして部屋の電気を消してベットの中にもぐりこんだときにようやく明里は、……どうして私はあのときにあの人のことを追いかけなかったんだろう? とすごく後悔をした。
その日の夜、明里はなかなか眠りにつくことができなかった。
それは、すごく珍しいことだった。
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