28

「お前さ、真冬のこと好きなんだろ?」

 忍に屋上に呼び出された絵里は、そんなことを言われて内心すごくびっくりした。

 ……私の気持ちがばれていた。

 ……忍には、私の気持ちを隠しきることができなかった。

 忍にならもしかしたら、私の嘘は通じないかも? とは思ってはいたけれど、どうやらその予想は当たってしまっていたようだった。

「またそういうこと言う。からかわないでよ。怒るよ?」と絵里は冗談っぽい口調で言った。

 でも、忍の表情は真剣そのものだった。

「冗談じゃないよ」忍は言った。

「……うん。冗談じゃないね」と観念して絵里は言った。


「それで、いつから真冬のことが好きだったんだよ? どれくらい我慢していた?」と忍は言った。

 絵里は今度は自分の本心を隠さずに、本当のことを忍に伝えた。

 恥ずかしいかな?とか、うまく言えるかな? とか心配だったけど、自然と言葉が出た。恥ずかしくも、全然なかった。

 自分でも不思議なくらい、それは簡単に言えた。

 忍は絵里の告白を真剣な表情のまま、真面目に最後まで聞いてくれた。

 絵里の話が終わると忍は「一年以上、ずっと我慢してたのかよ。馬鹿だな、お前。そんなことしてるから早乙女に真冬のこと取られちまうんだよ。好きになったんなら、さっさと告白しちゃえば良かったのにさ」と忍は言った。

 そんなことを言われたのに、全然腹は立たなかった。

 むしろ、自分の言えないことを忍に言ってもらえて、それから自分の気持ちを吐き出したこともあって、なんだか気持ちがすっきりとした。

「本当だね。馬鹿だよ。私は本当に馬鹿」と青色の空を見ながら、絵里は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る