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 その一言で、この勝負は真冬の勝ちになった。

 芽衣は顔を下に向けて、赤くなった自分の顔を隠そうとした。

 笑っているだけで、私との勝負に勝つなんて、ずるい。……そんなことを芽衣は思った。

 そもそもこの勝負? は芽衣にとても不利だった。

 芽衣は真冬にベタ惚れだった。

 二年と少しの片思いが実ったばかりだったし、芽衣は真冬の顔を見るだけで、幸せな気分になれた。

 なのに真冬は芽衣の大好きな顔で笑っているし、おまけに手をつないでくれている。

 もうなんだかチートというか、卑怯だと思った。

 さらに当の真冬は、真冬も芽衣のことが好きなはずなのに、なんだか、すごく堂々としていた。芽衣の予想では、告白がうまくいった場合、初めての恋でおろおろとしている情けない真冬のことを芽衣がリードするはずだった。

 でも、実際の真冬はすごく大人っぽかった。

 それがなんだかすごく意外だった。 

 ここで芽衣は少し不安になった。

「あの、真冬」

「なに?」

「真冬は女の子とお付き合いするの、初めてだよね?」芽衣は質問する。

 芽衣の事前の情報収集の結果では、そんなことは当たり前のことだった。だけど、こうも堂々としていられると、なんだか真冬には女の子と付き合った経験があると思えてきて、不安になった。

 でも真冬の答えは「ないよ」と言う、芽衣の事前の情報収集通りの答えだった。

 その答えを聞いて、芽衣はすごく安心した。

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