「いせいのおさななじみ」シリーズ
その1 いせいのおさななじみ(前)
私――沢渡キョウコには、とても大切な思い出がある。
大切、と言いながら、なにぶん子供の時のことなもので、ところどころおぼろげな記憶。
私が「彼」とはじめて出会ったのは、確か小学校低学年の夏休みだった。
やんちゃ盛りだった私は、そこらに落ちていた良い感じの棒をぶんぶかと振り回して、ご機嫌で農道を闊歩していた。
ここまででおわかりのとおり、当時、私はドのつく田舎に住んでいた。
けれど、そこが田舎なのだ、という自覚には乏しかった。他の世界を知らなかったらから。
それはさておき、草いきれのする夏の農道で、私と「彼」は出会ったのだった。
とくべつ、劇的な出会いというわけではなかった。
農道の
この辺じゃ見ない子だな、と思って私から声をかけた。
「あんたどこの子ー?」
今思い出しても顔から火が出るくらいの恥ずかしい第一声だ。
チンピラか。ヤンキーか。絡んでるようにしか見えない。
「ああ、君はこのあたりに住んでいる人かな」
対する彼は大層大人びた口調でにっこりと笑顔を返してくれた。
そう言う彼の方も、明らかにこの辺の子じゃなかった。
大きな瞳、すっきと整った顔立ち、すらりとした体型。
同い年くらいの子供なのに滅茶苦茶かっこよく見えた。
「うん。そぅやけど」
「僕はアシュフォード。アッシュと呼んでくれていいよ」
アッシュ! かっこええ!
「ええと?」
聞いたことのない名前の響きに大興奮の私はあやうく名乗るのを忘れるところだった。
「あ、私は沢渡キョウコ! キョウコでええよ!」
顔を真っ赤にしてそう答えてた。
顔が熱かったのは夏の日差しのせいだけじゃなかった、と思う。
「ところでキョウコ、さっそくだけどいいかい?」
「なにが?」
「その右手の棒、は何だい?」
「伝説の剣や! さっき拾ったん。ええやろ」
「ほう、これが……」
アッシュの独特のノリがおかしくて爆笑してしまう。
「欲しがってもあげんからね!」
「む。そういうものか」
「あははは!」
何がそんなにウケているのかわからないアッシュが余計に面白かった。
その日は夕方まで一緒に遊び、次の約束をして別れた。
あげない、と言っていた伝説の剣はアッシュにあげた。
物欲しそうにしてたし、渡した時は、お伽噺で読んだ姫と騎士みたいに膝をついて両手で受け取るもんだから、私まで恥ずかしくなってしまった。
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