その4 深い深い沼の話


 僕が出張帰りに買ってきた、動物の形状をデフォルメしたスイーツをふたりで食べる。どちらかというと僕の方が甘いものが好きなのだ。

 妻はペン入れの作業の手を止めて、スイーツに付き合ってくれている。


僕「うわ、顔からぶった切らなくても」


妻「最終的には全部食べるでしょ」


僕「そりゃまあそうだけど」


妻「これも愛よ。愛。アンパンが顔のヒーローがカバに顔を食わせるのと同じ、愛」


僕「突然、某子供向け有名作品の話になったなあ」


妻「まあ、愛には色んな形があるってことよ。擬人化とか」


僕「はい?」


妻「擬人化よ。知らないの」


僕「知ってますけど。ていうかあの作品が既に擬人化では」


妻「わかってないなあ。パンの顔じゃ無理でしょう」


僕「無理とは一体……」


妻「だからイケメンにするのよ」


僕「アンの方を? 擬人化されたアンをまたヒトにする、だと?」


妻「キンの方もね。バイアンか、アンバイか」


僕「いや前後は知らんけども」


妻「食アンもあるのよ」


僕「知りとうなかった。そんな話、知りとうなかった!」


 なお、ばいきん側のオレンジの子は美少女化するらしい。パン側の子もだそうだ。


僕「え、じゃあ犬は? 山ちゃん」


妻「あれはそのまま。犬のまま」


僕「理不尽!」


妻「擬人化は昔流行したんだよねー」


僕「へえ」


妻「日曜夜の魚介類一家とかね」


僕「鰹と中の島が!? 鱈は!? イクラとなの!?」


妻「鱈鰹はあったような」


僕「鱈が前なのか……。しかし年齢的にアウトでは」


妻「そこで年齢操作をするわけよ。それと美化。鱈18歳、鰹20何歳みたいな」


僕「あー、なるほどー? 美形にして年齢をあげるのか。そうか(そうかじゃねえ」


 擬人化に年齢操作。創作の闇はとめどなく深い。

 妻はいつも新たな知識を僕に授けてくれる。要、不要関わらず。


 僕は覗かなくていい沼をわざわざ覗き込んでしまったようだ。

 いつか沼の底から大量の手伸びてきて僕を掴もうとしてくるのかもしれない。

 あー、こわ。近づかんとこ。

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