Page114:女子寮で異国の食事を
サクラを戦闘不能にすれば、あとは真正面から攻略するのみ。
レイとフレイアはラショウを。
ライラはモモと対決。
最終的に双方大きなダメージを負い、ギリギリでレッドフレアの三人が勝利した。
「ハァ……ハァ……流石は東国最強のギルド。負けるかと思ったぞ」
肩で息をしながら変身を解除するレイ。
模擬戦とは思えない激しさで戦ったせいか、全身に痛みが走っていた。
なんなら骨にヒビが入っていた。
レイの負傷に気付いたアリスが変身して駆けつけ、治療を始める。
当然、ヒノワの三人もだ。
「模擬戦とはいえ、まさか敗北するとはな……俺もまだまだ未熟だったか」
模擬戦場で大の字になり寝転がるラショウ。彼の変身は既に解除されている。
そんなラショウの発言に、思わずレイが突っ込んだ。
「オイオイ。こっちは二人がかりでようやくアンタを倒したんだぞ。なんなら次も勝てるかなんて分からない」
「だが負けは負けだ。今日の戦いは己の心に刻み込むよ」
「それは俺もだ。まだまだ修行しなきゃな」
戦いの中で何か友情のようなものを感じ合ったレイとラショウ。
どちらもゲーティアの悪魔と戦ったが故の自信のようなものがあったのだ。
それが今ヒビ割れ、己を見つめ直す機会となった。
「はい。レイの治療はおしまい」
「サンキュ、アリス」
「両手足の骨にヒビがあった。模擬戦でこんな怪我しないで」
「アハハ……つい熱くなって」
怪我が治ったレイは苦笑いするが、アリスは仮面の下からジト目で睨む。
それに気づいたのか、レイはその場でアリスに頭を下げた。
「つぎ。ヒノワの人」
「ありがたい。我が兄妹は治癒魔法を使える者がいなくてな」
上着を脱ぎ、鍛え上げられた筋肉を晒すラショウ。
生傷や古傷が大量にある彼の身体を、アリスは魔法で治す。
同時にアリスはラショウの身体を見て、どこかレイに似ているようにも感じた。
「……外も中も傷だらけ。ヒノワで無茶してきたでしょ」
「ハハハ! ここ最近は激しい戦いが多かったからな」
「……妹さん。コメントどうぞ」
ラショウの発言を踏まえて、アリスは静かにサクラの方を向く。
「兄者が怪我をするのは今に始まった話じゃないです。心配する私達の事も考えて欲しいです」
「うむ……妹が手厳しいな」
サクラに暴露されてしまったラショウは、何とも複雑な表情を浮かべる。
そんなラショウに対してレイは「やーい自業自得ー」とやじを飛ばした。
次の瞬間、アリスの拳がレイの頭上に飛んできたのは言うまでもない。
「はい治療終了」
「ほう。レッドフレアの救護術士は良い腕をしているな」
アリスの回復を受けたラショウはその技量に関心する。
曰く、ヒノワにはこれ程の治癒魔法を使える者は少ないらしい。
「次はライラ達」
「お願い、するっス……」
モモと激戦を繰り広げたライラだが、今は二人揃って模擬戦場の地面に倒れていた。
ほぼ相打ちになったのでる。
なお決まり手はライラの自爆特攻に近い一撃であった。
「ライラは今日無茶しすぎ。レイじゃないんだから」
「うぅ……ごめんなさいっス」
痣だらけになって横たわるライラを治療するアリス。
お叱りを受けたライラは、素直に反省していた。
なお引き合いに出されたレイは不服そうな顔をしていた。
「ウサギの子、悪いけど……そいつが終わったらこっちもお願い」
「りょーかい」
ライラの近くには、同じく痣だらけになっているモモが倒れていた。
所々電撃による火傷もある。
アリスはライラの治療を終えると、すぐにモモの治療を始めた。
「……」
そんな光景を模擬戦場の隅で遠目に眺めるのは、三兄妹の末であるサクラ。
彼女は今回の模擬戦で一番最初に脱落した事を気にしていた。
「はぁ……」
自然と出てしまう溜息。
落ち込むサクラの足元には契約魔獣のカイリがいる。
相棒たる
「情けなくてごめんね、カイリ」
「ポンポコ……」
暗い表情のサクラに、カイリは悲しげな鳴き声を上げた。
そうしている間に、怪我人の治療が終わる。
ラショウとフレイアは続けて模擬戦をしようと言い出したが、先程の戦闘で模擬戦がダメージを受けている。
そもそも模擬戦が激しすぎて、レイやモモが消耗している。
流石に今日はここまでで止めるべきだろう。
そう判断したレイとモモは、自チームのリーダーを捕まえて、模擬戦場を出るのであった。
◆
模擬戦場を後にしたレイ達は、この後の事について考える。
流石に体力を消耗し過ぎているので、派手な移動等は避けたい。
日没には少し早いが、休憩も兼ねて各々寮に行く事にした。
当然男女別である。
レイとジャックはラショウを連れて男子寮へ。
それ以外の者達は、モモとサクラを女子寮へと案内した。
道中少しだけセイラムシティの案内もする。
「あら〜、貴女達がヒノワの子ね。ようこそセイラムシティへ〜」
女子寮に到着するや、寮母のクロケルが笑顔で出迎えてくれた。
「初めまして。
「はじめまして。サクラ・アクタガワです! しばらくの間ご厄介になります」
落ち着いたモモとは対照的に、サクラは分かりやすく緊張しながら挨拶をする。
そんな二人の異国人を、クロケルは快く受け入れるのであった。
「じゃあ今日は二人の歓迎会ね〜。お料理頑張っちゃうわ〜」
「いいんですか?」
「いいのよ。寮にいる間はみんな家族みたいなものなんだから。モモちゃんもサクラちゃんも遠慮せずにくつろいでね〜」
温かい歓迎に少し驚くサクラ。
だがクロケルは優しく受け入れ、寮のキッチンへと行くのであった。
「……良い寮母さんなのね」
「でしょー。クロさんは良い人だよ!」
モモの言葉に、何故かフレイアが胸を張って答える。
ひとまずの挨拶を終えたので、フレイア達はモモとサクラを女子寮の部屋に案内した。
「ここが二人の暮らす部屋だって!」
「あら。思った以上にいい部屋じゃない」
「わぁ〜。姉者、ふかふかのお布団ですよ!」
モモとサクラが案内されたのは、セイラムではごく普通の部屋。
ベッドが二つに、化粧台が一つ、収納用の木箱が二つ。
あとは特に何もない、シンプルな部屋だ。
しかしヒノワから来た二人には、中々上等な部屋に見えたらしい。
「じゃあ夕飯ができるまで時間あるし、アタシ達もなんか買ってこよー!」
せっかくヒノワから人が来たのだ。フレイアは歓迎したくて仕方なかったらしい。
だがその気持ちは他の面々も同じ。
誰もフレイアに反対意見など出さなかった。
「やっぱりお酒かな。お菓子も欲しいよね!」
「姉御ー、買い出しならボクも一緒に行くっス!」
「あら、お酒を選ぶのでしたらわたくしも行きますわ」
ライラとマリーはフレイアに同行して、買い出しに行く。
ちなみにマリーはライラから「選ぶのは良いっスけど、度数強いのは勘弁して欲しいっス!」と釘を刺されていた。
そして残るオリーブとアリスはというと。
「私は残るね。モモちゃんとサクラちゃんにベッドメイキングのやり方教えないと」
「あぁ……ヒノワにはベッドが無いっスからねー」
「えっ? アレはお布団じゃないんですか?」
困惑の表情を浮かべるサクラ。
オリーブは余計に教えねばならないという使命感を覚えていた。
「じゃあアリスも買い出し。色々材料を買う」
「……アーちゃん? 何の材料を買うつもりっスか?」
「サンドイッチだけど」
「「「絶対にダメ!」」」
フレイア、ライラ、マリーによって強制的に女子寮待機組となったアリス。
ニシンサンドを作るつもりだったので、心底不服そうな様子であった。
そしてオリーブは苦笑いしていた。
◆
夕暮れになる頃に、フレイア達は女子寮に帰還。
少し酒を試飲してきたのか、フレイアとマリーの顔は赤かった。
「ライラ、止めなかっの?」
「アーちゃん……テンション上がりまくったこの二人を、ボク一人で止められると思うっスか?」
「無理」
「そういうことっス」
何はともあれ必要な物は揃った。
オリーブも諸々をモモとサクラに教え終えている。
食堂にはクロケルが作った歓迎料理が出来上がっていた。
「それじゃあモモとサクラの歓迎会も兼ねて! カンパーイ!」
フレイアが音頭を取って、歓迎会が始まった。
ちなみに今日は女子寮組以外も参加している。
そしてモモとサクラは、初めて見る異国の料理に興味津々であった。
「書物で絵は見た事があったけど……実物を目の前にしたら、想像以上に良い匂いね」
「クロさんの料理は美味しいよ!」
山盛りのパスタを頬張りながら、フレイアはモモにフォークの使い方を教える。
不慣れな手つきでフォークを回し、モモは初めてのパスタを口にした。
「っ! 美味しいわね」
「でしょー」
「これはパスタっていうの? ヒノワでは見た事がない麺だわ」
「ヒノワにも麺料理ってあるの?」
異国の食文化の話に、フレイアは興味を示す。
「えぇ。饂飩とか蕎麦あるわ」
「あっ、ソバは知ってる。たまにセイラムでも屋台が出るんだ」
「あら。ここにも蕎麦文化があるのね」
「美味しいよね、ソバ」
フレイアとモモが蕎麦談義で盛り上がっている中、サクラも異国の食文化を堪能していた。
「んむ!? これすっごく伸びます! お餅ですか?」
パンの上に乗せられた焼きチーズ。
サクラはそれをビヨーンと伸ばして驚いていた。
「サクラちゃん、チーズ初めてなのかな?」
「チーズっていうんですか。美味しいですね」
オリーブに名前を教わったので、頑張って記憶に刻むサクラ。
どうやらチーズを大層気に入ったらしい。
「このパンっていうのも柔らかくて美味しいです」
「あら? ヒノワにはパンは無いのですか?」
「はい。無いです」
セイラムでは主食の一つでもあるパン。
それが無いというのは、マリーにとって大きなカルチャーショックであった。
「ヒノワでは主にお米を食べるんです」
「おこめ、ですか?」
「セイラムだとライスって言うらしいですね」
「ライス。あれですか」
「マリーちゃん知ってるの?」
「はい。わたくしも書物で絵を見た程度ですが、ごく一部の地方で育成されているという穀物ですわ。ヒノワですと主食になる程育てられているのですね」
「お米も美味しいですよ」
チーズとパンを頬張りながら、サクラが答える。
異国文化の面白さを感じる面々であった。
「カイリも果物美味しい?」
「ポンポコ!」
サクラの足元では、カイリが皿に盛られたリンゴを食べていた。
ちなみに隣ではロキがニンジンを食べている。
「本当に、セイラムの食事って美味しいですね〜」
「ねぇサクラちゃん。ヒノワではどんなご飯を食べてたの?」
オリーブに聞かれたサクラは、口に入れていたお肉を飲み込んでから答える。
「そうですね……神牙の操獣者は食事時間を減らしてでも鍛錬に勤しむ人が多いんです。だから食事も手軽に用意できる物を食べることが多いですね」
「そうなんだ」
「一番よく食べるのはオニギリ。お米に具入れて握っただけのお手軽ご飯です」
「そ、それって料理なの?」
オリーブの脳内には、形容し難い物質が描かれていた。
「美味しいんですよ。私は昆布を具にしたのが好きです」
「えっ!? 昆布って、あの海の中に生えてる?」
「はい。美味しいですよね」
曇りなき眼で言い放つサクラに、オリーブはどう反応すれば良いのか分からなかった。
それに気づいたライラが助け舟を出す。
「あー、サクラちゃん。残念なことにヒノワ以外で昆布を食べる国はほとんど無いっス」
「えっ!? 昆布食べないんですか!?」
衝撃の事実を知り、サクラは口を大きく開けて驚く。
「あの……じゃあ、梅干しは」
「あぁ……ヒノワ限定な上に、多分他の国の人が食べたらびっくりするっス」
「そ、そんな」
分かりやすく何かが崩れるサクラ。
そんな彼女の背中をライラは優しく摩るのであった。
「ライラちゃん。ウメボシって?」
「簡単に言うと、滅茶苦茶すっぱい果物の塩漬けっス。ボク昔食べた事あるっスけど、アレは好き嫌いが激しく別れるっス」
「そんなにすっぱいの?」
オリーブの問いに、ライラは無言で頷いた。
ちなみにセイラムに梅は流通していない。
「あれ? そういえば姉御とモモちゃんは?」
「二人ならあっち」
アリスが無表情で指差した先。
そこには山盛りのパスタを貪るフレイアとモモの姿があった。
よく見れば二人の前には、空いた大皿が数枚積み上がっている。
「ついついパクパクしちゃうわね。パスタって」
「お腹空いてたからいっぱい食べれるね」
二人のドカ食いを見て、ライラは軽く引いていた。
「なんスかあれ」
「姉者……また食べ過ぎてる。体重増えて泣くこと多いのに」
モモの食べ過ぎを見たサクラは、静かに呆れるのであった。
そして夕食時が過ぎる。
フレイアは満足気に腹をさすり、モモは自分の食事量を振り返って頭を抱えるのであった。
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